特集 響きあう師弟
 
師に出会い、精髄をつかみとり、大学を自らのために活かすことができたとき、
至福の学生生活となる。
 師に恵まれ、自らの目標を見つけ充実した学生生活を送る現役生、
師の教えを糧として卒業後の道を歩む人、
今なお師の薫陶を受ける職業人……。
 それぞれの形で響き合う龍大師弟を紹介。

 「頑張り屋さん」と評される法学部のホープ。龍大の2年生後期から「刑事学」・「犯罪学」の専門家である石塚伸一教授のゼミで学んでいる。高校時代から犯罪心理学に興味を抱いていた。

 成績優秀。積極的に学外へ飛び出して、自分のテーマを深める姿勢にも評価が高い。

 昨年、学生と大学院生を対象にした「刑事政策に関する懸賞論文」(日本刑事政策研究会、読売新聞社主催)では、5名の佳作の中に選ばれた(優秀賞は該当者なし)論文名は、「21世紀・犯罪者処遇への展望」。

 「犯罪が凶悪化して厳罰の方向へ進んでいるのに、犯罪は減らない。再犯を防ぐためには心理学面からのアプローチが必要で、犯罪を犯した人の中にある被害性に着目すべきという視点で書きました」

 昨年の夏休みには、刑務所の研究者としても名高い石塚教授の引率で、20人のゼミ仲間とドイツの刑務所や少年院などを視察した。

 「石塚先生には、知識だけでなく社会的問題に対するアンテナや感性を磨けといわれます。そのために、行動して メ感じるヤことが大切だと。自主的に行動することが身についたのは、忙しい中で調査にでかけたり、いろいろな市民の会や研究会に参加される先生の影響です」

 犯罪者や薬物依存者の社会復帰を支援するアミティ(本部アメリカ・アリゾナ州)の活動に賛同する京都アミティ研究会にも、会の世話役の石塚教授と共に参加。龍大で開かれる月1回の勉強会は他大学や研究者、関心を共有すを促すシステムなんです。犯罪を犯した人の心に働きか 「かつての受刑者など、同じ視点をもつ人 3年生で卒業に必要な単位は全て取り終える。2年生の時にはインターンシップ制度を利用し、霞ヶ関の文部省本省などの"社会勉強"も経験した。学生生活最後の今年は、全国的にも珍しい龍大独自の矯正・保護課程を受講しつつ、受賞論文では書ききれなかった「実際にどうすれば再犯を防げるか」のテーマに取り組む。

 将来は国家公務員試験に合格して保護監察官を目指し、仮釈放や執行猶予中の人を社会と結びつけていきたいと考えている。
 人間の心の深部を見つめる困難な仕事だが、「覚悟はあります」ときっぱり。

石塚伸一教授から

 社会システムにはそれぞれ独特のニオイがあって、それは教室では説明できません。学生には、いろいろなところへ行ってニオイをかいでくるように勧めています。
 井出さんは理解が早く、何でも器用にこなしてしまうところが、逆に心配。犯罪を犯すということは、ぎりぎりまで自分を追い詰めること。犯罪や刑罰について勉強するということは、そうした人たちの心を知るために自分の心を勉強することです。
 井出さんには、「手を抜くな。徹底して勉強しろ」と言っています。

 卒業後、編集プロダクションに属してライター修行をしてきた。情報誌に掲載される飲食店や遊びのスポットなどを取材し、原稿を書くという仕事である。

 2年ぶりに母校を訪れた。懐かしい大宮学舎。ゼミの恩師、越前谷宏教授との久々の再会。

 「近代文学を勉強したかったので、越前谷先生のゼミを選びました。印象は……怖かったですね、先生の周りに漂う空気が」と学生時代を振り返る。かたわらで教授が「そうかなあ」と笑って首をかしげている。

 ライターとしての基本的な事柄は、ゼミで学んだという。資料集め、調査、論文の構成・書き方、そして資料整理まで、「すべて先生に鍛えられた」そうだ。「意識的に書く」「文章がねじれないようにセンテンスは短く」「不要な接続詞は省け」などの教えは今も守る。

 「ゼミの提出物がすべてワープロ作成だったことも良かった。調べたことを徹底的に確認する作業や、相手の立場にたった資料をつくるという具体的な指導も身にしみています」

 ライターを目指したのは、就職活動を通して「自分はどういう仕事がしたいのだろう」と自問自答しながら得た結論だ。4年生の秋から大阪編集教室に通い、就職先に編集プロダクションを選んだ。

 「忙しくて、徹夜もしょっちゅう。インタビューなど、もっと人をテーマにした仕事がしたいので2月に事務所を辞めました。まだまだ卵ですが、これからはフリーの立場でやっていきたい」と話す。

 得意な分野は、しいていえば、音楽。龍大仲間と結成したバンドで現在も活動中だ。森田さんはギターとボーカルを担当しているだけに音楽に対する思いは深い。

 「でも、かえって書きにくいかも知れませんね」と思案顔。とりあえず何でもやる、という姿勢で突っ走るそうだ。

 「越前谷先生はあったかくて厳しい方。甘えは許されないけど、的確なアドバイスをくれます。先生から学んだのは、自分で考えるということ」

 「自分の人生やからね」、あったかくて厳しい先生がさらりとつぶやいた。

越前谷 宏教授から

 僕のゼミは彼女をはじめ、演劇を目指す人などユニークな学生が意外と多いんですよ。
 修業時代はいわゆる ”食べていけない“分野ですが、そうしたことを志す人間の方が面白いなと見守っています。若い時は何か打ち込めるものがある方がいい。20代で頑張ったことが人生の核になってきます。書いたものに個性が出るようになるといいですね。傲慢かつ謙虚に歩んでください。

 機械部品メーカー「エクセディ」(本社・大阪府寝屋川市)に勤務。同社は、主に車のクラッチやオートマ車のトルクコンバーターなど駆動関係の部品製造メーカーで、国内外の自動車メーカーに部品を納め、その実績は国内第一位。社員約2000人。海外約10カ所に工場や事務所を持っている。河村さんは生産技術チームに所属。ものづくりの技術バックアップを仕事とする。

 97年に大学院理工学研究科機械システム工学専攻修士課程修了、同社に入社して4年目を迎える。恩師、堀川武教授には、大学4年生時と大学院時代の2年間、計3年間の指導を受けた。「この3年間のおかげで、いまの自分があります」という程、影響が大きかった。 

 瀬田に理工学部が出来て、3期目の入学生。大学3年間はまだ方向が定まらず、3年生の終わりの時期、友人たち4人と、フラリと堀川先生の研究室に立ち寄ったのが出会い。「どのゼミにしようかと決めねばならなかった時期。堀川先生と、いろんなことを話して、機械技術の面白さと、奥の深さ、そして何より幅広い人柄に魅かれました」と言う。

 堀川教授は、金沢大学を卒業後、川崎重工技術研究所で20年間、金属疲労の研究を続け、龍大が理工学部を創設する際に助教授として迎えられた。学問だけでなく、メーカーの第一線で仕事をしてきた豊富な体験や話題、着眼点が新鮮で、興味深かった。

 堀川教授の指導法は、学生の自主性に任すやり方。全体の大きな方向や、ゆき詰まった時のヒントはアドバイスするが、あとは本人の意欲や自主性。それよりも人間としての社会への適応力や問題解決の仕方、目先にとらわれない思考法を教える。

 コツコツと努力した分、日本材料学会で発表する機会も得たし、学会の専門誌に2度も金属疲労に関する自分の研究論文が掲載された。学生としては、異例のことだ。

 「でも、いま何が一番役立っているかというと、堀川先生に教わった問題解決の方法です。学生時代に考えていた何倍も、社会は厳しい。儲けとか、納期とか、学生時代あまり気にしてなかった。ところが企業は、まず第一に利潤。そしてお客様あっての仕事。納期は絶対守らなければならない。こういう社会情勢で、人は減る、納期は短くなる、品質は高めなければならない。密度が高まる一方。矛盾を嘆いていては先に進めない。自分の力と周りの人たちとの力をどう生かすかが大事だと痛感しています」

 昨年11月に結婚。社内恋愛、奥さんも技術者。仕事と家庭、新しい意欲に満ちている。

堀川 武教授から

 彼は目立たないけれど、レスポンスのいい学生でした。出した課題に対して答えが100;出なくても、ちゃんと経過報告をする。この能力は企業で働くには、とても重要なことです。一人の力は限られている。社会に出たらいろんな人と接するし、協力しあわねばならない。いずれ部下も使いこなさなければいけない。企業で働き自分の力を発揮するために、部長、役員、社長までいってほしい。人間的にも誠実だし、バランス感覚がいい。彼は私が世に送り出したエースのひとりです。期待しています。

話しやすい雰囲気の中で行なわれた講座。「OB・OGのための社会福祉セミナー」は、2001年度前期も開講される。6月30日・7月28日(土・2回)、いずれも13時〜16時15分。
場所は瀬田学舎6号館他、受講料は3000円。
 介護保険導入、社会福祉事業法改正など、今、福祉の現場はめまぐるしい変化の渦に巻き込まれている。

 どんな仕事に就いても理想と現実のギャップはあるが、とくに社会福祉の分野は過渡期といえる状況だ。

 福祉現場で働く人のための再教育だけでなく、教員との交流、卒業生どうしのネットワークづくりをめざして、龍谷エクステンションセンターの主催で『福祉現場で働く龍大OB・OGのための社会福祉セミナー』が開かれた。参加した卒業生たちにとって、恩師から再び知識を学びながら、さらに、悩みを打ち明け、仕事のあり方を考える場となった。

 講座は全5回で、社会学部の村井龍治教授、長上深雪助教授、久田則夫助教授、山邊朗子助教授が1回ずつ4回分を担当。社会福祉の変化について学び最新の情報を得る機会を持った。最終回は「本学OB・OGの社会福祉実践に学ぶ」と題し、2人のOGが実践報告を行なった。長上深雪助教授を中心に、高松智画講師、西川淑子講師も加わり、卒業生たちが円形テーブルを取り囲んだなごやかな雰囲気。参加したOB・OGは14名。現役学生も加わり、ゼミ形式による討論が行なわれた。

 この講座のコーディネーターでもある長上助教授のゼミ生だった3人に終了後に話を聞いた。山地恵美さんは、特別養護老人ホームに勤務。

長上助教授を囲んで、かつてのゼミの教え子たち。右から山地恵美さん、升田智子さん、名定佳代子さん。
 「今年で5年目です。制度的な知識や新しい情報を得たいと参加しました。現場では メなぜヤこの介護が必要なのか、を裏付ける理論が不可欠。龍大で4年間学べたことが私の仕事の基盤になっています。こうして再び龍大に来たいと思うのは長上先生に会いたいから。昨夜トラブルがあって落ち込んでいたけど、先生や仲間に支えられました」と話す。

 また、在宅介護支援センターでケアマネージャーとして働く名定佳代子さんは、皆の前で仕事の内容や問題点の実践報告をした。

 「社会福祉に営利が求められることになり、効率優先でこれでいいのだろうかと思う毎日。同じ問題を抱える皆で話し合うことができて良かった。私も " なぜ "という本質を考えることを先生から教わりました」

 名定さんと同期生の升田智子さんも「長上先生はとっても厳しいのですけど、面倒見が良くて親身になってくれる有り難い存在」とセミナーに駆けつけ、久々に恩師に再会した。

 それぞれの悩みを長上助教授はにこやかに聞きながら、「大事にしていることは何? こだわっていることは?」「政策はどんどん変わっても、専門職としてその動きに流されないことが大事」と檄を飛ばす。

 参加者たちからは、「元気がもらえる」「刺激になる」と今後もセミナー開催の要望が高い。次回のOB・OGを対象にした講座は6月下旬から開かれる予定だ。

長上深雪助教授から

 社会福祉は命を預かっているわけですから、どっちを向いて何のために仕事をしているか、始終問わないといけないと思います。つまり、利用者を見ることが大切。悩みが多い時には「つらい」と話せる人を多くつくってください。大学にも「つらい」と言いに来てください。私自身、こうして現場で頑張っている卒業生の声を聞くことにより、大学教育の中身を改めて考えていくことができます。これからももっともっと卒業生との絆を深めたいですね。