西本願寺22代門主大谷光瑞(1876〜1948)は、1902年から1914年にかけて3次にわたり、中央アジアへ調査隊を派遣した。その目的は、仏教東伝の経路を明らかにすることと、中国の僧が、その昔インドに入ったルートを辿ること、そして、イスラム教化したこの土地で仏教が被った圧迫状況を調べることで、それは、荒廃した仏教遺跡から、経典や仏像、仏具を収集し、仏教の教義研究や考古学、地理学、地質学、気象学に役立てようとするものだった。

大谷探検隊収集品のキジル壁画ドローナ像(模本)
 大谷探検隊とよばれるこの調査隊が出発して、来年9月で100周年になる。中国、韓国、日本に分散した探検隊の収集品のその一部を保管し研究してきた本学は、記念の年の2002年を中心に、前後3年間にわたって、学術行事を開催する。総合テーマは、「仏の来た道」。

 その第1弾として、5月12日、大宮学舎で公開シンポジウム「現代シルクロードのイスラーム復興−『文明間の対話』の視点から」を開いた。世話役は、坂井定雄法学部教授と北村高文学部助教授。「タリバン」「よみがえるシルクロード国家」(邦訳講談社刊)の著者であるジャーナリストのアハメド・ラシッド氏の記念講演ののち、小畑紘一衆議院国際部長、小松久男東京大学教授、新免康中央大学教授、中田考山口大学助教授とラシッド氏が、大谷探検隊が活動した当時から現代に至るイスラムの現状を論じた。

 折しも、イスラム原理主義勢力タリバンがアフガニスタンのバーミヤン仏教遺跡を破壊する出来事があったばかり。中田助教授がタリバンの「物への執着を否定する思想に依拠した破壊行為」と理解を示す発言に、会場から反論が出るなど、このテーマへの関心の高さが現われていた。

コータン語「ザンバスタの書」。オアシス都市コータン出土。

日中韓の共同研究

 今後予定されている学術企画は、来年9月に、中国からの3名と大英博物館の東洋部門研究者、本学の上山大峻学長や芳村博実文学部教授他国内の研究者で国際共同研究シンポジウム「チベット族における美術と芸能」を開く。仏教国チベットへは、大谷光瑞が、探検隊と同じく宗門の若者を留学生として送り出しており、その文化と現代を考察する意義は大きい。

 10月には、杉村棟国際文化学部教授、徐光輝国際文化学部助教授を企画者に、大谷探検隊が敦煌などから持ち帰った考古・美術資料と中国で新たに発見された資料との比較研究を、日・中・韓の研究者で共同研究と発表の会を行なう。

保存学、国際会議

アハメド・ラシッド氏
5人のパネリストたち
 2003年9月には、百済康義文学部教授、入澤崇経営学部助教授を企画者に、記念式典や講演、日本とドイツがトルファンとクチャで収集したものについての研究成果の発表を行なう。仮題は「トルファンとクチャの仏教社会」。ドイツ、インド、カナダ、中国からも研究者を招聘する。

 また同じ時期、敦煌・中央アジアコレクションを有する世界の図書館、博物館の研究者による保存学、分析学の国際会議を開く。本学からは、小田義久文学部教授、岡田至弘理工学部教授、江南和幸理工学部教授他が参加する。今年度設立された龍谷大学古典籍デジタルアーカイブ研究センターの研究発表も行なう。

 これらの国際シンポジウムや国際会議の他に、出版や展覧会が計画されている。

 敦煌仏教の研究を専門とし大谷探検隊に強い関心を寄せる上山大峻学長は、「これらの事業を通して、大谷探検隊を再評価し、各方面の学術成果をあげるだけでなく、宗教・民族紛争の絶えない現代において、異宗教・異民族が、対話を重ね、共存する手がかりをつかみたい」と話す。

国際地方自治体連盟事務総長のJ・ジョビン氏
講演する北川正恭三重県知事
 「分権時代の地域づくりと大学〜地域主体型公共政策形成と社会システムの変革〜」をテーマに5月18日に深草学舎で国際シンポジウムが開催された。

 これは、2003年度を目標に、分権後の地域社会が最も必要としている人材を育成・開発する「地域人材開発プログラム」を発足させるための大学・大学院改革を推進している本学が、このプログラムの一環として開いたもの。

パネルディスカッションでは活発な質疑が行なわれた
会場の深草学舎3号館301教室は参加者で埋め尽くされた
 シンポジウムでは、学長の挨拶の後、国際地方自治体連盟事務総長 J・ジョビン氏が分権型国際社会と地域主体型社会開発の現状について、さらに三重県知事の北川正恭氏が分権時代の行政と住民の係わりについて、基調講演を行なった。会場となった3号館301教室には、近畿一円の自治体関係者、行政学研究者、ジャーナリストや、本学学生、他大学からの学生など約800名が参加し、J・ジョビン氏の国際社会における地方分権と地方自治の進展に関する最新情報や、北川知事の情報公開を軸とする三重県における大胆な行政改革と住民との協働への取り組みを進める先端行政の現場報告に熱心に聞き入っていた。

 引き続いて、千葉大学教授・日本行政学会理事長の大森彌氏、精華町長の鍬田利秋氏、気候ネットワーク代表で弁護士の浅岡美恵氏、枚方市職員研修所長の冨田圭子氏をパネリストとして「分権時代の国際・地域づくりと大学の知的資源」」をテーマにパネルディスカッションが行なわれた。ここでは、「地域人材開発プログラム」が目指す大学と地域社会の総合的な連携について、世界的な動向を踏まえつつ基本的理念が明確にされ、現代社会における重要性が改めて確認される結果となった。また、市民・行政・大学のそれぞれが求める連携が多角的に議論され、分権後の日本の新たな社会像の構築に大いなる提言がなされた。

 今後この国際シンポジウムで得られた共通認識と大学外部とのネットワークを活用し、社会の要請に的確に応え得る先進的な大学・大学院改革が速やかに実現することが期待される。

パネリストの鍬田利秋精華町長 冨田圭子枚方市職員研
修所長
日本行政学会理事長の大森彌千葉大学教授 気候ネットワーク代表の浅岡美恵弁護士
大熊由紀子大阪大学大学院教授による基調講演
 福祉社会の発展をはかることを目的に、産業界や自治体、福祉、保健・医療関連の専門職から一般市民まで、誰もが気軽に参加でき、協同しながら福祉分野の研究・教育活動を展開してゆく「龍谷大学福祉フォーラム」。

 3年目を迎えた今年、6月13日(水)に、瀬田キャンパスで講演会と総会が開かれ、その中で、研究事業の成果発表が行なわれた。

 総会に先立ち、大熊由紀子大阪大学大学院人間科学研究科教授が基調講演を行なった。“日本の福祉を変えた本”とよばれる『寝たきり老人のいる国いない国』の著者で、元朝日新聞論説委員として福祉・医療・科学・技術分野の社説を担当していた大熊教授。長年スウェーデン、デンマークの福祉事業を研究してきた経験をもとに、誰もが輝ける、誇りを持てる社会のあり方を講演した。

 その後、場所を移して総会が行なわれ、総会後、5つの研究事業毎に今年度の研究成果が発表された。

 この報告は、同フォーラムが助成金を提供し、「指定研究事業」と「自己応募型事業」を実施したことにより、会員が一歩踏み出して挑戦できる試みが功を奏した結果である。

 発表後、各研究事業の理論や仮説が実社会へどう結びつくのかといった厳しい意見が飛び交うなど、活発な質疑が行なわれた。

 また、各研究事業がそれぞれ孤立するのではなく、こういう場を通じて会員同士が結びあって新たな動きが芽ばえるというフォーラムのメリットもアピールされた。

 最後に、財団法人滋賀県レイカディア振興財団の小嶋寿一氏より、龍谷大学福祉フォーラムが一歩一歩着実にすすんでゆくことに期待するコメントが寄せられた。

 福祉フォーラム新規会員を募集している。問い合わせ、申し込みは、「龍谷大学福祉フォーラム事務局」まで。TEL077-543-7831

指定研究事業 自己応募型事業
・仏教と福祉(仏教生命観と仏教社会福祉実践-仏教社会福祉の理論構築をめざして)

研究会やシンポジウムを開催してきた中で、仏教精神を深めることで現在の社会福祉に対する重要な問題提起が可能であることが明らかになったと語る。
・仏教と福祉に関するコミュニティサイト構築

サービスを提供する側とされる側とのコミュニケーションから全てが始まるという観点から、インターネットインフラを利用したWebグループウェアシステムを構築。今後、有益な情報提供を目指す。7月初旬からサービス開始。
・自治会館と寺院を活用したサロン活動・世代間交流事業を通じたコミュニティ創造事業

お寺の日曜学校を高齢者と地域の子どもたちとの触れあいの場とし、世代間交流をはかり、人と社会との関わりを拡げてきた。
・高齢者の発達視点からみたグループホーム型特別養護老人ホームについての実践的研究―福祉と建築の連携による仮説の構築と検証―

全室個室の特別養護老人ホームの運営を通して、要介護の高齢者がどのように自律的に共同生活をおこなうのかを調査。これを通して「ユニットケア」(少人数を一つの単位としてケアをおこなう)を検証している。
・福祉ビオトープ

滋賀県の協力を得て、瀬田キャンパス近くの「びわこ文化公園」をビオトープゾーンに造り替える作業を実施。自然環境づくりを通して動植物と触れあいながら生きる喜びを分かち合い、心の安らぎと生きる活力を得ることを目指す。
長上深雪社会学部教授 (有)ミレニアムシステムズの笠嶋聖代表 中主町西河原区長の奥村治男氏(右)
滋賀県社会福祉協議会の奥村昭氏(左)
特別養護老人ホームあやめの里の藤井眞氏 気金子龍太郎社会学部
助教授
「今日は父と一緒に参りました」と思い出の布袍と輪袈裟で龍谷賞の贈呈式に臨んだ越中哲也氏
「龍谷賞」「龍谷奨励賞」は、社会に貢献し、顕著な業績をあげた龍谷大学校友会員に対し、校友会から毎年1度、贈るもので、第12回目を迎えた。

 今年は、元長崎市立博物館館長で、現在、長崎歴史文化協会理事長、長崎純心大学長崎学研究所主任調査官の越中哲也氏が「龍谷賞」を受賞した。長崎の歴史、文化、芸術を大系化して「長崎学」を集大成し、また、原爆でダメージを受けた故郷・長崎の復興に観光面から尽力したことが認められた。
 「龍谷奨励賞」は、クラシック音楽のマネジメント会社を設立し、国際的に活躍する数多くの日本人アーチストを送り出した佐野光徳氏と昆虫写真家の水上みさき氏が受賞した。佐野氏は、1985年に広島被爆40年目に「広島平和コンサート〜世界巡礼の旅」を開催し、以後、レナード・バーンスタインエステート財団日本総代理をしている。水上氏は、『川辺の昆虫カメラ散歩』を出版し、本願寺新報コラム「小さないのちの物語」の連載をしている。

 龍谷特別賞には、本学吹奏楽部を15年以上に渡り指導し、全日本吹奏楽コンクールで金賞2回、銀賞6回受賞という成果を上げた若林義人氏に贈られた。

オープニングパレード
テープカット
 5月21日(月)、深草学舎に新校舎「紫光館」が開館し、地域住民をはじめ一般の人々が参加して記念セレモニーやイベントが賑やかに行なわれた。21日は、正午過ぎより吹奏楽部とバトン・チア・Spiritsが深草学舎メインキャンパスより紫光館までをパレード。引き続き、紫光館正面入口でテープカット、4階多目的ホールでオープニングの式典が行なわれた。また、わなげやヨーヨー釣りなどのこども縁日も開かれた。
 
 1階の龍谷ホールは、21日から27日(日)まで、龍谷大学図書館所蔵の特別展が開催された。同時に学生サークルの華道部と書道部が1階の龍谷ホールで、美術部、陶芸部が4階フロアでそれぞれ作品展を行なった。龍谷ホールは、地域交流のスペースとして、秋から本格的に動き出す。
 
 23日(水)は紫光館4階の多目的ホールで、女性が一人で遣う人形浄瑠璃が行なわれた。吉田光子座長が率いる本流乙女文楽座の50年ぶりの京都上演とあって、来館者は予定の300人を越える盛況ぶりであった。故土井順一文学部教授が再興に尽力した縁で実現されたこのたびの上演。「傾城阿波鳴門」の巡礼歌の段では、人間国宝・竹本綾春さんの義太夫節で86歳の吉田光子座長がお弓を操ると、会場からはすすり泣きの声がもれ、最高潮に達した。
図書館所蔵特別展(龍谷ホール) 乙女文楽座の上演 吉田光子座長

REC京都開設記念講演会も

企業も大学も鍵となるのは“人”であると独自の経営哲学を語る
木村政雄さん
高校生の姿が多く見られた釜本邦茂さんの講演会
 また、4月に誕生した龍谷エクステンションセンター(REC)京都がここに事務所(3階)を開き社会連携の役割を担っている。

 REC京都開設を記念して、6月に2回講演会が開催された。6月20日に「熱いハートを燃やせ、日本サッカーの現状と課題」と題して、釜本邦茂さん(財団法人日本サッカー協会副会長)。6月30日には、「吉本流地域おこし、笑いの文化が京都を変える」と題して、木村政雄さん(吉本興業(株) 常務取締役大阪本社代表)。

 いずれも場所は、紫光館4階多目的ホールで、会場は満席でメモをとる人も多く見られた。 
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