座談会 龍谷エクステンデョンセンター(REC)設立、10周年さらにREC京都も始動
和田 龍谷エクステンションセンターが10周年という節目の年を迎えました。今春にはREC京都が発足し、滋賀と京都の2拠点が連携していよいよ本格稼動します。そこで、様々な立場でREC活動と関わりの深い方々にお集まりいただき、RECの考え方や理念を再確認すると共に、21世紀におけるRECのあるべき姿を話し合ってみたいと思います。

小泉 1989年に開設した瀬田キャンパスでは、私どもは教育・研究以外に第3の柱を持とうということになりました。それが地域の自治体や住民の皆さん、ならびに産業界との連携であり、それを具現化するための組織がRECです。大学が組織として社会と連携するような体制づくりはわが国で初めてで、まさに、先駆的な役割を果たしたものであると思っています。エクステンションという言葉も当時、馴染みのないものでしたね。

河村 大学組織と社会との交流システムがこれまでなかったわけですから我々でつくっていくしかなかった。しかし、当初は理工学部での産学連携が中心ですから、人文系にとっては、よその国の話みたいなもので(笑)。
和田 最近は、“オープンキャンパス”と称して、いろいろなことを大学がやっていますが、ある意味で地域の人々にとってRECは1年中オープンキャンパスですよね。

小泉 アメリカの州立大学にはミュージアムや劇場があったりしてまさに“パーク”なんです。自分たちの税金で建設したという意識が住民にありますから。

富野 そうですね。逗子市長をしていた時に、アメリカの大学を視察したのですが、地域を抜きにして大学の存在はあり得ないと実感しましたね。日本の大学のようにピラミッド型ではなく、それぞれの大学が地域で世界的な研究に取り組んでいます。そのような地域社会に根付いた大学、人々にとっての大学でないと、これからは生き残れないのではないでしょうか。大学と地域社会の連携がますます重要になってくると思います。
小泉 龍大理工学部が放った大ヒットにインターンシップがあります。学生に企業経験をさせる制度で、今でこそどの大学もやろうとしていますが、龍大理工は10年前に1学年400人の学生を全員企業に送りました。

小淵 しかし、不況で受け入れ企業の確保が大変になり、RECの役割がクローズアップされてきましたね。昨年と今年、滋賀県中小企業家同友会の製造部会であるHip滋賀にインターンシップを組織として受け入れていただきました。事前講習や事後講習を実施するなど、まさに“手づくり”といった内容で、人間教育的な実習をしていただき、今までと一味違った充実した中身になりました。

小泉 不況になってくるとインターンシップの別な価値が再認識されてきましたね。就職に際しては企業と学生の距離が近い方がいい。そうした交流を就職に結び付けていけないだろうかと思います。そこでもRECの果たす役割は大きいと思います。

小淵 企業家団体との関係を強化するのは、理工学部としても計画していたのですが現実はなかなか難しい。RECは外部と付き合う専門部署なので、戦略的なポジションとしても心強いですね。
和田 REC活動の大きな柱に、地域の人々に生涯学習の場を提供するコミュニティカレッジがあります。浅井先生は講座をお持ちですが。

浅井 4、5年前から『歎異抄のこころ』の講座を受け持っていますが、とても専門的なことを聞きたいという方と、自分の人生の課題―挫折や悲しみなどを体験して、人生を見つめ直すために来ておられる方など様々です。しかし、皆さん熱心で講座を楽しみにしておられる点が共通していますね。深草キャンパスでも今度、REC京都が開設しましたが、最初に瀬田で開かれた意味はとても大きいと思っています。

和田 カルチャースクールは都市密着型が多いのに、瀬田というローカルな地域で開講したということでしょうか。

浅井 それもありますが、理工、社会、国際文化という各学部の新しい空気の中で、仏教学の講座が開かれたということが意義深いと思うのですよ。
 RECで講義をすることで、逆に我々も鍛えられ、教えられます。とにかく皆さん、熱心ですからね。他の先生方も感じておられると思います。今年の4月からは大宮キャンパスで岡亮二先生の『教行信証』の講座も始まったのですが、これは親鸞聖人の主著で我々にとっても難しい著述なのに70人もの方が来ておられるそうです。とても素晴らしいことです。

河村 人文社会系は理系に比べて産学協同面はまだまだ発展段階。しかし生涯教育の面ではうまくいっています。滋賀の生涯教育はRECなしには語れない、滋賀の福祉も産業もRECなしには語れない、という位置付けにもっていこうというのが、夢であり、情熱です。
和田 1998年にREC活動のひとつとして誕生した龍谷大学福祉フォーラムでは、共同事業や共同研究など具体的な活動をいろいろと展開されていますね。

村井 共同事業は福祉フォーラムの柱のひとつで、皆さんのアイデアを吸い上げて新しい研究事業を展開し、福祉の進展を図っていこうというもの。会員であれば誰でも応募できます。将来的に良い実践につながっていくものを選んで事業費を援助するほか、手助けを求められたら教員が参加するようなシステムにしています。

和田 誰でも応募できるという点が素晴らしいですね。

村井 皆さんの発想を大学が事業化することをお手伝いをする仕組みですから、福祉ベンチャーや環境ビジネスの芽が育ってくれています。

和田 富野先生は、RECの事業ではありませんが法学部で新しい連携を進めておられるそうですね。

富野 地域人材開発プログラムを2003年からスタートさせる予定です。大学と地域社会の連携を具体的に進めるために、行政やNPO・NGOなどで活躍できるレベルの高い人材育成を大学院で行ない、また、大学院生の長期インターンシップをそうした組織で受け入れてもらうという総合的なギブ・アンド・テイクの関係です。おそらく日本の大学では初めての取り組みだろうと思います。

和田 地域社会における大学の役割について、ご専門の地方自治の立場からどうお考えですか。

富野 地域社会といっても、経済的豊かさを求めた高度成長期と、それ以降の成熟社会とでは全く違っています。現代は物質的、経済的な豊かさよりも福祉や環境など生活の質が重視され、地域社会では持続可能な発展が求められています。
 この場合、持続性は環境、経済、地域社会活動の3つの側面が重要ですが、この3つを充足する上で、地域と大学の連携が強く求められるでしょう。役所が地域を管理するのではなく、人々の活動が社会を支えられるように、人々が力を持つことを大学がサポートしていくわけです。RECが社会的役割を果たすためには、団体、機関、個人…誰を対象にするのかを見極めることも重要ですね。軸は誰であるのか、地域活動のマトリックス(行列・配列)を埋めていくようなREC活動の組織化を考えていく必要があると思います。
和田 今でこそ産学交流、ベンチャー支援という言葉が当たり前になっていますが、RECのレンタルラボは当時としては画期的な取り組みですね。

小泉 実験室兼オフィスをつくって、ほとんど無条件で民間企業に入居してもらうというレンタルラボは、日本の大学としては初めての試みでした。大変な勇断でした。

河村 レンタルラボは、見通しがあってスタートしたのではなく「やるべきだ」という理論から始まったのですが、すぐそばに理工学部の先生方がいるというのは大きかった。人的資源のバックアップがあった上でのレンタルラボです。今後はレンタルラボに人文社会系が関与できればもっと面白いと思いますが。

和田 大学のシーズ(種子)を生かしたベンチャーというのは最も求められている形ですよね。

河村 コーネル大学工学部の周囲には約30社のベンチャー企業があります。これは外部の企業を育てるのではなく、大学の研究を市場化しているものです。市場がわかる人間とリンクしないとできないことです。

小淵 大学らしさを残すことが必要ですね。大学の役割、企業の役割、それぞれの特質を発展させないとベンチャーも上滑りになってしまいます。企業サイドから見えないことを大学が補っていくわけですから、同質化してはいけないと思います。お互いが連携して力を発揮するためには、真ん中にいるRECがきちんと機能しなければいけません。

小泉 10年間の体験をもとにこれからのRECでは、さらに色々な手を打つ必要がありますが、教育・研究・エクステンションをいかに連携させるかが大切。そして、滋賀、京都という枠を超えて、少なくとも近畿圏全体、あるいは全国的な規模でRECの活動を考えることが必要だと思います。そして、これからの10年は瀬田キャンパス開設時に掲げた「人間・科学・宗教」という理念を環境問題などと関連づけて、本学の教育・研究・エクステンションの特色としてもっと打ち出していくことが課題だろうと思います。
和田 REC京都も誕生しました。龍大の文科系と理工系が大学の中で連携して社会のニーズに対処していくために、REC京都への期待は大きいですね。

河村 インキュベーション(孵化機能)として、人文社会系との連動が大きくなるでしょう。先日、新聞に、大学発ベンチャー企業120社のうち19社が龍大で、全国一の数だと掲載されました。共同研究もRECで加速されたものはたくさんあります。ですから、我々のベクトルは間違っていなかったといえます。
 しかし、やらなければならないことはたくさん残っています。理工系と人文系の融和もあまりできていないのが現状で、REC京都の課題はそこだろうと思います。個々の企業のニーズの共通項を引っ張り出して、“面”的な連携をすることも検討すべき課題です。


和田 REC、そして龍大全体の組織としての取り組みが必要ですね。

村井 我々も理工学部と車椅子などの開発に取り組んでいますが、もっと連携を進めていきたいですね。障害者も自己責任型社会になりつつありますが、利用者本位のサービスも機器も今はないといえる状態です。使いやすい福祉機器には、龍大の認証マークをつけるといった利用者にとって便利な制度の展開までもっていきたいですね。
 それに、来年度から地域に向けて社会福祉に関する相談事業も開始するのですが、法律問題や施設経営などでは、他学部との連携が必要になってきます。総合大学としてのメリットを生かせる福祉フォーラムにしていきたいですね。

和田 浅井先生は新しいコミュニティカレッジのあり方をどのように考えておられますか。

浅井 やはり、文学部の専門的な講座というのが龍大の特色でしょう。どこにでもカルチャー講座がある中で、人間・科学・宗教の接点の中で、学部を超えて融合しながら龍大の特色を出していくことが大切だと思います。受講生の方には龍大の行事にも関わっていただいて、肌で感じてもらうことも重要だと思います。仏教、真宗、東洋の心……開かれた形で親しみの持てるものにしたいと思っています。
和田 RECの運営については大きな予算がかかります。事業としてのRECの存続価値も問われていることは事実ですが。

小泉 それなりの評価があれば大学からの経費の持ち出しは仕方がないという意見がある一方で、採算をもっと重視すべきという声も確かにあります。しかし私としては、RECが社会に大学の知的財産を提供し、それを何らかの形で回収するのであれば、社会に対するボランティア活動でもいいのではと呑気に考えています。些か極論かもしれませんが。

和田 そうですね。もちろん、無駄遣いをしないというのは当然ですが、採算以上に戦略的な効果がRECにあるのではないでしょうか。

富野 RECは崇高な理念でスタートしましたが、社会貢献の意識が強すぎた名残でスタッフも少ないように思います。もっと機能するためには、採算も重視しながら人材を強化して運営することが必要かと思います。

河村 採算面は、REC京都においても議論になることは覚悟しています。RECは大学が地域に奉仕するだけでなく、自分が変わって発展するための手段です。大学の資源を地域に開放するだけでなく、地域の資源を大学に利用することもできます。たとえば地域の人材、企業の寄付講座、インターンシップなどです。
 そうしたものは効率を明快に数量化できません。長期的な視野で変革や発展をさせることは、短期的な数量だけで評価できないのです。しかも、アウトプット評価以上にプロセス評価が重要なんです。

和田 「企業は実力の範囲内で健全な赤字部門をもっている必要がある」といわれます。そうでないと発展性がなく社会的に淘汰されると。ある意味で大学も同じだと思います。RECはまさに大学を変え、発展させるためのものでもあるのですね。
 本学が産官学の連携の拠点として他大学に先駆けてRECを開設し、現在、レンタルラボから数多くのベンチャー企業が誕生している。これまで培ってきた中小企業と大学との産学連携のノウハウを生かし、さらに積極的に「大学を拠点とする新産業づくり」を模索しようと、上記のテーマで記念シンポジウムを開いた。

 シンポジウムは、REC副センター長の理工学部教授の司会により進行した。まず、基調講演が、赤阪泰雄京都リサーチパーク(株)代表取締役社長により行なわれた(p3参照)。つづいてパネルディスカッションを、堀川武副学長(理工学部教授)コーディネートのもと、OA機器部品から航空材料まで世界的規模で研究開発をする阪根勇(株)I.S.T代表取締役社長、大学発ベンチャーの創造に向けて全力支援中の瀬戸篤小樽商科大学商学部助教授、京都の産業と結びついたクリエーター養成や起業支援を行なう杉山知之デジタルハリウッド(株)代表取締役会長兼学校長、宇宙産業も視野に新たなビジネスモデルを展開するビーインキュベーションジャパン(株)代表取締役社長、画期的な無機合成化学の分野で世界に挑む大柳満之理工学部教授の5人で行なった。

 会場からの発言者もありシンポジウムは大いに盛り上がった。(写真上)参加者約400人。
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