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起業、特許出願、商品開発…ユニークな視点で、若さを武器にニュービジネスに参入する龍大生たち

「景気低迷、失業率増大、就職難…こんな時代だからこそ、自分たちで切り拓こう!と、大学生ながら起業して、新しいビジネスモデルを立ち上げたり、ユニークな視点でこれまでにない新商品を開発したりと頑張っている。その中身は学生の発想とは思えないほど実社会のニーズにピッタリ。ビジネス界に斬り込んだ元気な龍大生たちを紹介しよう。」

5人の個性いきいきコンピュータ上の出版を支援するビジネスモデルで特許出願中
「有限会社 電版」
代表取締役 土井大信さん 取締役 小邨孝明さん
小野真義さん 森脇陽子さん
石川慎也さん
起業するにはまず、仲間づくり
土井さんの下宿を兼ねた「電版」事務所で。左から森脇さん、小邨さん、小野さん、石川さん、土井さん。
 昨年4月、有限会社「電版(でんぱん)」を立ち上げた。

 紙という媒体を使うこれまでの出版ではなく、インターネットなど電子媒体を使っての出版を支援する会社、略して「電版」というわけである。

5人のメンバーはすべて龍大生、および龍大卒業生。ただし、代表取締役の土井大信さんは、現在、5年目の大学生活を仕事優先のため休学中だ。4年生の時からすでに、企業のコンピュータシステムを構築する仕事を始めていた。

「入学した時から経営者になろうと決めていました。会社をつくるにはどうしたらいいですか? と戸上宗賢教授に聞いたら『仲間をつくったらいい』と明快でした。だから、ずっと仲間づくりを心がけていましたね」と話す。

 仲間は、すんなりと決まった。営業を担当する小野真義さんとは、小野さんが1年生の時に留学生交流パーティーで知り合って以来の仲良し。

「学食でソバを食べながら会社を起こす話を聞いて、『僕を雇って』というと『採用!』と即決してもらいました」と小野さんは笑いながら振り返る。

 技術担当の小邨孝明さんと石川慎也さんとは、土井さんが龍大の情報メディア室でLA(ラーニングアシスタント)のアルバイトをしていた時に出会い、コンピュータを通じて友情を育んだ。

「卒業後、龍大の嘱託職員として働いていたのですが、会社を起こすことにとても魅力を感じました。もともとやってみたいと思っていましたから」(小邨さん)

「今4年生ですが、いわゆる就職はしないと両親に話したところ、予想していなかった進路のようで反対されましたね。でも、あきらめて見守ってくれています」(石川さん)

 紅一点、デザイン担当の森脇暢子さんも「就職活動もしたのですが、どうしてもデザインがやりたくって手伝うようになりました。技術部門が強いので、高度なことができるのがうれしい」
大学の研究者を対象にしたビジネスモデルを開発
 “電子媒体での出版”という分野のヒント、そして新開発したビジネスモデルは、土井さんの父親である故・土井順一文学部教授(近世文学・情報出版学、2001年1月歿)から得た。

「情報とは何か、新しい出版の形とは何かを父とよく話し合っていた中で生まれた仕事です。開発したのは、実際に父が欲しいといっていたシステム。ゼミの山下章夫教授も興味を持たれていた分野であり、ニーズは大きいと思っています」

 現在、特許出願中のため詳しい内容は書けないが、「大学の研究者を対象に、論文などを掲載する学術雑誌を電子化するシステム」の手法を、それを実現するためのソフトウエア処理技術と合わせて開発。今、注目を集める、情報システムを活用し、ビジネスの仕組そのものを特許化する“ビジネスモデル特許”である。

 簡単な操作で、だれでもコンピュータ上での出版が可能になるという。すでに龍大の教授陣にモニターを依頼している。4月のサービス開始を目指して、5人がひとり何役もこなしてフル回転だ。

「僕ら5人はまったくキャラクターが重なっていなくて、それぞれが不可欠で重要な存在。忙しいから人手は欲しいのですが、新しい誰かではなく、もうひとりの僕が欲しいと思う」という小野さんの言葉に全員がうなずく。

「お金儲けしてスポーツカーに乗りたいわけではないのです。紙媒体の出版はお金がかかる。本当に表現したい人がコンピュータ上でだれでも出版できるように支援していきたい。フィールドはとても広いと思います」(土井さん)。こうしたシステム開発のほか、大学選びに役立つ先生の情報を紹介するオンラインマガジン「道真(みちざね)」を運営、また、龍大ホームページにも会社として関わっている。

「クライアントに挨拶に行く時に、手土産をどうしたらいいのかわからなくて、お付き合いのマナー集を買って勉強しています」

初々しく、真摯な姿勢が身上だ。まぶしい若さを武器に好スタートを切った。
安価にパソコンをグレープアップ滋賀県コンペ学生部門の優秀賞獲得学生の強みを活かして顧客獲得を目指す
「合資会社 渡邊コーポレーション」
渡邊和憲さん
母親にも便利さを教えてあげたい…
土井さんの下宿を兼ねた「電版」事務所で。左から森脇さん、小邨さん、小野さん、石川さん、土井さん。
 昨年11月に、滋賀県産業支援プラザが主催した「ベンチャービジネスプランコンペ滋賀」の学生部門で優秀賞を受賞した。

 受賞した『パソコンアップグレードサービス』というプランの内容は、旧型パソコンの一部を取り替えることで、今までに使えなかった機能や一段上の機能が獲得でき、高価な新機種を購入しなくても既存のパソコンで対応可能にできるというもの。

「学生は最新の機能に慣れ親しんでいて知識も豊富です。そんな学生を使って市価の半額以下の安い価格でサービスを提供することができるのが強みです」と、物静かな好青年から、熱のこもった若き起業家の顔になって語る。

「渡邊コーポレーション」を設立したのは昨年の4月。それまで個人レベルでパソコンのトラブルサポートなどをしてきたが、一念発起して合資会社を立ち上げることにし、登記や雇用形態など猛勉強した。事業内容は、インターネット接続代行、データベース構築の企画・設計・開発業務など多岐にわたる。

「うちの母もそうですが、パソコンの便利な機能を知らない人が多いので、その機能をうまく使いこなせるお手伝いができたらと思ったのが設立のきっかけです」
大学で自分のやりたいことを見つけられた
 出身は山口県。実家は浄土真宗の寺で僧侶の資格を持つ。将来は跡を継ぐ予定だが、会社経営も並行してやっていくつもりだそうだ。

 小学生の頃から実験が大好きな理科少年だった。「理工学部の物質化学を志望したのも実験が好きだったから。違う物質を混ぜると全く別のものができるのが面白かったのです。でも学内の設備を利用するうちにパソコンという、別のおもしろいものがあると気づいて…、大学でいろいろなことに興味を持つなかで、自分のやりたいことをみつけられた感じです」

 昨年から、NGOの「ネパールの子供達に愛の心の会」の学生理事として、ホームページの管理も行なっている。

「ネパールの子供達に医療・教育・文化の恩恵が少しでも多く受けられるようにとの願いで活動している団体です。みんな助け合って仲良く生きていけたらという考え方が根底にありますね。僕にも力になれることがあればお手伝いしたいと思って引き受けました」
これから本格的に稼働
今後の目標は、やはり会社を大きくすること。「パーツショップとの提携もできました。土台が整ったのでこれからはプランを実行に移します。スタッフも募集し、個人だけでなく法人も含めて本格的に営業していきたいですね」と瞳を輝かせる。

4月からは大学院への進学が決まっている。「好きな研究をやりながら、ビジネスもやっていくつもりです。当面はパソコンの専門的な知識を身につけたい。いろんなことを同時にやるのが好きなんですね」とにっこり。彼の多方向に張り巡らされたアンテナが、新たなビジネスチャンスを掴む日も近そうだ。
授業の帰り道に浮かんだアイディア ブラの肩ひもズレ防止商品を開発 学内コンテストで優勝
国際文化学部3年生トリオ
薦田依子さん 渡辺静香さん
大河原真理さん
土井さんの下宿を兼ねた「電版」事務所で。左から森脇さん、小邨さん、小野さん、石川さん、土井さん。
「ブラの肩ひも、落ちるよね」「うん、困るね」。3人娘のベンチャービジネスプラン・アイデアコンテストへのチャレンジは何気ないこんな会話から始まった。

 昨年行なわれた龍谷エクステンションセンタ-(REC)主催のベンチャービジネスプランコンテスト「プレゼン龍(ドラゴン)」で『ブラの肩ひもズレ防止商品の開発・販売』を提案し、見事、最優秀賞に輝いた。

「プレゼン龍(ドラゴン)」はベンチャー育成に力を注ぐRECが、龍大生を対象にビジネスのプランやアイデアを募集し、事業化を支援しようと企画した、REC設立10周年記念イベントでもある。29組の応募があり、4組が最終審査に。12月に多くの人の前でアピールするプレゼンテーションを行なった結果、現役企業人を含む4人の審査員から満場一致で賞を勝ち取った。

 そういえば、街中でも肩ひもを直すしぐさをする女性を見かけることが多い。ソフトボール部で活躍する薦田さんにとっては切実な問題だったそうだ。

「これだッ」と煮詰めることに決め、薦田さんは自分で試作し、友だちに配ったり、洗濯に耐えるか確かめたり。同時に、学内外の女子学生120人あまりにアンケートを実施。8割近くから「気になる」との回答を得て、ますます“イケる”と確信した。
苦労したビジネスプラン作成
 タ-ゲットは15歳〜27歳の女性。機能性だけでなくファッション性も狙う…。苦心したのは、売上や利益計画などのビジネスプランの提出が求められたこと。

「アイデアだけでも良かったのですが、やるからには頑張ろうと思って。私たちは国際文化学部だから、経営にうといんです。経常利益という言葉も知らなくて猛勉強しました」

 プレゼンテーションで、下着メーカーのデータを基に、小売総売上が年間13億円と発表した時は、「あまりに大きな数字で笑いそうになりました」と振り返る。

 応募の1週間前はほとんど徹夜の状態。しかしチームワークはバッチリ。

 3人それぞれの仲間の評は、リーダー格の薦田さんについては「しっかりしてる。体力がある」、渡辺さんは「しゃべるのがうまい。人を引き込むように話ができる」、大河原さんは「文章が上手。タイミングよく夜食をつくってくれる」のだそうだ。
特許取得し大手メーカーで商品化へ
 すでにRECの支援のもとで特許の出願準備を進めている。大手メーカーに売り込み、商品化する動きも進行している。賞金の30万円は特許申請料に充てた。
 現在は就職活動中。「起業」は今のところ考えていないそうだ。

「もっと勉強して、社会を知ってからでも遅くないと思います」

 メーカー(薦田さん)、運輸(渡辺さん)、旅行業(大河原さん)とそれぞれ志望進路は異なるが、この経験が大きな自信につながったことは間違いない。
※「プレゼン龍」は今年も実施予定。詳しくはREC京都まで。
  075-645-2167
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