座談会 新しい鏡に映る龍大像
――この春、龍大教員に着任された先生方に集まっていただき、新鮮な視点で龍大の魅力や課題について語っていただきたいと思います。まず、自己紹介を兼ねて、ご自身の経歴や専門分野、龍大で教えることになったきっかけなどをお話ください。
誰にでも開かれたインターネットでの教員募集
松浦 20代は、テレビ局の報道部に所属しアナウンサーをしていました。当時から感じていたのは、生活に根ざした豊かな情報は、いつも地域の生活者や市民活動をしている人々の中にあるということ。
 それで市民とメディアのあり方などコミュニケーションを考え直そうと、30歳を過ぎてから大学に進学し直し、大学院へ進みました。前任校で3年の教員経験がありますが、龍大には教員採用のインターネット公募で採用されました。

長谷 私もインターネット公募です。民間企業で働いていたのですが、15年間は技術者として、その後は管理職になり一線を離れていました。3年ほど前に、ある大学の非常勤の客員教授になって、私の後半生は「これやッ」と思いまして(笑)。人生を二毛作にしよう、残りの人生は学生さんと過ごそうと思ったのがきっかけです。

壽崎 大学の数学科を出て民間企業でコンピュータの設計をしていたのですが、もともと建築家になりたいと思っていましたから、仕事が面白くなかったのです。大学院に戻り都市計画、まちづくりを学びました。
 じつは私もインターネット公募です。龍大の国際文化学部は教員の2分の1弱が外国人だと聞いて、居心地が良さそうと魅力に思えました。

田村 私の場合は龍大から「来ませんか」とお誘いを受けました。京都生まれで実家がこちらにあり、岡山大に勤務していた時も週末は年齢(とし)をとってきた両親のために京都に帰っていました。
 私は法律の中の商法、とくに株式会社の経営に関する法律制度を専門にしています。岡山大の二部で教えている時に、「質問はありませんか」と聞いたら年輩の婦人に「大阪弁なのでよくわかりません」と言われたことがあってショックでした(笑)。商法は資本主義の根幹をなす法律ですから、真面目くさって話をすると難しいので、「利益がある」ということをあえて「儲かる」なんて表現をして、できるだけざっくばらんなわかりやすい授業を心がけていましたから。龍大ではアクセントも気にせずに授業ができるので嬉しい(笑)。
学生と一緒に考え感動を分かち合いたい
松浦さと子
松浦 インタビューを通していろいろな立場、分野の方々のお話を聞く仕事をしてきたこともあり、コミュニケーション、つまり「対話」の力を信じています。とくに昨年のニューヨーク爆破テロ以来、対話の重要性が増しています。私も発展途上ですから、学生といっしょに対話ができる力をつけていきたいと考えています。
 じつは私は煙草の煙が苦手で、一昨年、龍大が学内禁煙したのを知って「ぜひ行きたい」と憧れていたのです(笑)。誤解を受けるといけないのですが、吸う人がキライというのではなく煙そのものがダメなんです。例えば煙草の話でも、率直に対話ができる環境がいいなと思っています。

長谷 僕が教える予定の情報メディア学科は2003年の開設です。1年間の猶予があります。その間に僕も心構えや準備ができる、そして新しい学科をつくる過程に参加できるということも魅力でした。

壽崎 私の専門の都市計画は、日本は住民からかけ離れたところで行なわれているので、住民主体のまちづくりを学生と一緒に考えていきたいと思います。
 例えば、日本は大学生を大事にしていない。それは下宿代が高い、良いアルバイトが少ない、奨学金もせばめられているという現実に現れています。そうしたことが都市のできあがりに影響していることに“気付く”そういう視点を身につけてほしいと思います。

長谷 僕は学生時代から、カメラ、オーディオ、アマチュア無線などが好きで、趣味が高じてこの道に入ったようなものです。家電メーカーの研究所にいましたから、身近な分野で学生と最先端の技術開発をしたいと思っています。
 マルチメディアという言葉が流行って久しいですが、情報メディア学科では私自身もワクワクするようなマルチメディアを駆使した勉強の場にしていきたい。例えば、学生にとって身近なゲーム機やAV機器、携帯情報端末の“中身”、つまり基になっているしくみを見せて、学生が新鮮な驚きをもつような授業にしたいと準備しています。
女子学生のためにも女性教員の責任は大きい
田村 詩子
――最近は龍大にも女性教員が増えてきました。今日、お集まりいただいた先生方も女性が多数を占めました。望ましい傾向だと思うのですが……。

壽崎 まだまだ女性の大学教員は少ないですね。表向きは平等なインターネット公募でも、応募書類をとりよせて、記入事項を見て、「男性だけを対象にしているな」と思う大学もありました。

松浦 学位や教員免許など資格があっても、年齢の壁は女性により厳しいです(笑)。性別や年齢を越えてご縁ができるインターネットのおかげで可能性が拡がりました。龍大でも私の研究室がある階には女性トイレがないので、かつては男性社会だったのだろうと想像されます。
 でも龍大には、ジェンダーと女性労働について長年研究されている竹中恵美子先生(今年3月経済学部教授を退職)を始めとして、働く女性の大先輩がたくさんおいででしたし、今年はその分野で久場嬉子先生(経済学部教授)がお越しになりました。そうした優れた先輩たちが道を拓いてくださったのではないでしょうか。それに女子学生が非常に増えて、彼女たちの目指すモデルとしても働く女性が必要ということもあり女性教員が求められたのではないですか。私たちの責任も大きいですね。
5月21日、今年の深草学舎顕真館での創立記念日の式典。3学舎それぞれの礼拝施設で法要と講演会が行なわれる。
学ぶ姿勢が欠落の一方、個性と魅力のある学生も
――実際に授業をされて、学生の印象はいかがでしたか。「まず困ったもんだ」と思われたことはありますか?

壽崎 ありますね(笑)。1年生のコンピュータの授業を受け持っているのですが、学期の始めの頃は、配ったプリントを読まない、きちんとした文章の書けない学生も少なからずいてコミュニケーションをとるのに苦心しました。受験勉強から解放されたばかりで頭が他にいってしまう気持はわかりますが。

田村 学部の授業はセメスター後期からの担当なのでまだ学生気質を把握できてないのですが、1年生の基礎ゼミを通じて感じたのは、難しい法律用語ではなく、ごく普通の漢字が読めない学生が多いですね。受験科目に問題があるのでしょうか…。それに課題を与えると、やる前から「時間的に無理だから、できない」と言いに来る学生がいて驚きました。「できませんでした」なら理解できるのですが。

壽崎 逆に「授業料払ってるし」とか「はるばる大学まで来たんだから」とか様々な理由で「しっかり講義を受けないとソン」という学生もいますし、いろいろですね(笑)。

松浦 昨年、龍大で非常勤で教えていた時に、どう評価しても「不可」しかつけられない学生に「もう一度チャレンジして」という気持を込めてぎりぎりの点にしたところ、その学生から「そんな僅かな点をどうして減点したのか」と反論されました。私の気持が伝わっていなかった、という自分自身の反省もありますが。

田村 でも、ポジティブに評価できる面もあります。例えばゼミにおけるレジュメ作成についてですが、岡山大の学生はおしなべて真面目で文章だけで構成している。でも龍大の学生は機転が利くというか、インターネットからダウンロードした資料や図を利用したり、特殊なセンスをもっている学生が少なからずいますね。

松浦 それはそう思いますね。また、良い意味で斜に構えない学生が多い。ですから、まっすぐに世の中を見つめる目が育ってくるかも知れませんね。

長谷 僕は龍大ではまだ教えていませんが、大らかに見るのがいいのではないですか。会社では給料に関わる厳しい査定をしてきましたが、教育は減点主義ではなく、加点主義、成果主義でいきたいと思いますよ。ナイストライという形の評価もね。

壽崎 ただ卒業後を考えると、コンピュータの使い方は是非身につけて欲しいと思ってますからどうするのがいいのかと悪戦苦闘しています。

長谷 僕らも学生時代はずいぶん悪いこともしました。でも先生は見逃してくれたというか、大らかに見守ってくれた。もちろん、おじさんの目から見たら行儀や口のきき方など言いたいことはいっぱいありますけど。

松浦 18歳人口が減り続け、学生の状況もかつてとはかなり違ってくる可能性もありますね。ナイストライは魅力的。ただ、ゼロからスタートの加点主義であることを理解してもらわなければ、減点されないことを怠ける理由にしてしまう学生も出て来ます。
 その点、龍大では、自分から意見を言い出す学生が多く、ナイストライが期待できそうですね。反応もストレートで手応えが伝わってきます。ある熱心な学生がいて、市民活動のNPO(民間非営利活動)・NGO(非政府組織)の事例を話すと、ぜひすぐに実行したいというのです。聞けばお寺の娘さんで、そうしたお寺のネットワークもムーブメントをつなぐ大きな可能性や期待があります。そして彼女からお数珠をいただきました。うれしかったです。

長谷 「顧客満足」という言葉がありますが、僕らは学生に良質の教育で満足してもらえるように努力する必要がありますね。
長すぎる会議、タテ割り組織にイライラ
長谷 智弘
――企業にいらした方が3人もいらっしゃいます。大学という教育組織に入られて、違和感を感じることはありますか。

松浦 会議が多くて(笑)。会議が多いのは民主的に行なわれている表れであり、決定過程に参加できることなのですが、もう少しシステムを整理して欲しいなと思います。その時間をもっと学生や地域と交流したり、研究に充てられたらと思います。

田村 そうですね。国立大学も会議が多かったので、私学はもっとすっきりしているのかと期待していました。まだよくわからない面もありますが、日本のタテ割行政の縮図みたいなところが事務組織にあるように感じます。もう少し柔軟にした方が人的組織の有効活用になるのではないでしょうか。

長谷 企業の会議では「〜長」と名の付く決裁者がいます。大学の会議では、議論を尽くし、出席者全員の承認で決めるので時間がかかる……。
しかし、意思決定システムが会社とまったく違うことを僕自身は面白いなと思っています。会社では権限と責任が一致していて非常にスピーディーですが、失敗することもあります。大学は大きな間違いがない安全な意思決定システムだなと感心したり…。

壽崎 国際文化学部は多数決なんですよ。学閥や学者特有の妬みからの足の引っ張り合いなどはあまりない、風通しの良い大学だと感じています。
龍大ならではの教学、特色を打ち出して生き残る
壽崎かすみ

――最後に龍大の進むべき未来像をお聞きしたいのですが。

松浦 やはり根本にある仏教の考え方は大きな特色であり、大切に考えたいと思います。先日、創立記念日に大宮学舎に参りましたが、厳かな気持になることができました。そういう雰囲気を知ることができる大学というのは貴重ですね。
 「感謝」をするという発想をもつ龍大なら、社会を裏切らない教育ができるのではないですか。龍大の姿勢を貫きながら、合理的でわかりやすいものを社会に見せていく、情報公開して発信していくことが大事だと思っています。

田村 これからの大学は二極分化していくのが明らかです。全般的な教養を深めるリベラルアーツか、専門的な学術分野の方向性か。どちらの方向にいくのかな、という不安はあります。リベラルアーツは、研究をしても成果を出す機会がないので、できるだけ専門性をもった学生を輩出する大学にしていただきたいと思います。
 そして、よくある「大学ランキング」に龍大の法学部、法科大学院の名前が上位に出るようにしたい(笑)。商法は、なぜか日本では、首都圏では人気が高いのに、それ以外の地域では人気がない。起業をめざすことができたり、会社経営をサポートできる商法の知識を身につけた学生を送り出すことは大学の特色になると思います。今後、大学も統廃合の厳しい時代となり、生き残ること自体が難しくなるでしょうから、大学のカラーや各学部の特色が必要でしょうね。

長谷 やはり特色を出すことは大切でしょうね。どちらかというと実務者養成大学、学生教育を主眼とする大学が望ましいように思います。龍大の使命を考えて、ターゲットはどこかを見定めて戦略を誤らないようにすべきだと思いますね。

壽崎 大学がこれからの時代に生き残っていくのは大変だと思います。私自身は、学生が卒業後に社会に出て「ああ、こんなことが身についていたんだ。龍大で学んで良かった」と思ってもらえる教育が出来たらと思っています。

松浦 最近、社会起業家という言葉が市民権を得ています。大企業、官僚志向もいいけれど、それよりも問題発見能力と行動力をもち、地域に貢献できる人を育てたい。それには大学が、入学者の偏差値による旧い序列に組み込まれないことが大事です。
 龍大には多様な価値観を認め合える土壌があると感じています。新しい発想で“始められる人”が生まれる大学であって欲しいと願っています。

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