座・談・会


これからの国際協力は官・民・学の智慧のコラボレーションで
日本ほど多くの援助を受けた国はない
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途上国への援助は、日本が受けてきたことへのお返し
五月女光弘(さおとめ みつひろ)  
1965年外務省入省。ニューヨーク、ロサンゼルス各領事、ワシントン大使館広報文化センター所長、経済協力局・民間援助支援室長などを経て、ニュージーランド国・在オークランド日本国総領事に就任。2000年8月より駐ザンビア共和国・日本国特命全権大使(兼マラウイ共和国大使)に就任。2002年に本省勤務の初代「NGO担当」特命全権大使に就任し、現在も外務省の参与・NGO担当大使として活躍。『最新・アメリカの読み方』『日本の国際ボランティア』『ざ・ボランティア/NGOの社会学』など著書多数。
 

河村 龍谷大学で開かれた「国際協力支援・実践道場」(2003年12月7日)では、多くのNPO・NGO団体や一般市民が参加し、国際協力の具体的な手法を学びました。
 講師として来学された外務省NGO担当大使の五月女光弘さんに、改めて国際協力における大学の役割などをお話しいただきたいと思います。ところで、五月女さんはアフリカのザンビアとマラウイに大使としていらしたそうですね。偶然ですが、龍谷大学にはアフリカの研究者が多いのですよ。

五月女 2000年8月から2002年11月までアフリカにいました。紛争地域に囲まれていたにもかかわらず、もともと温厚な国民性で政治的にも安定した国でしたが、特にマラウイでは、日本の青年海外協力隊がいろいろな支援をして、近代化に成功したので温かく迎えられました。今も私は「アフリカの応援団」のつもりなんですよ。
 最近は日本のなかで、不況下になぜ他の国を助けないといけないのか、という声も上がっています。そのことについてまずお話しておきたいと思います。
 他の国を助ける理由は3つあります。まず、日本ほど国際協力の恩恵を受けた国はないということ。古くは留学生と同行した遣隋使・遣唐使一行が大陸の文化と技術を学んだ、つまり途上国の日本を先進国の唐が指導した。そして明治維新、戦後…日本の改革期には他の国から支援・指導を受けたという歴史的な背景があります。
 特に戦後、世界銀行から融資を受けて造ったのが新幹線、東名高速道路、黒部第4ダムです。先進国の中で世界銀行から融資を受けたのは日本だけです。そして日本は融資をきちんと返済しながら経済発展を遂げた。理想的な復興モデルなのです。
 同時に国際NGOからも支援を受けています。南北アメリカの13のNGOで組織された「LARA(ララ)」という団体と、米国NGOの「CARE(ケア)」は、終戦後の最も困難な時期に、1500万人に上る日本の子どもたちに衣料品・医薬品・食糧などの援助をしてくれました。その資金規模の総額は、当時の日本の国家予算の2分の1にまで及んでいます。また、連合国により創設された国連ユニセフからも、敵対国であった日本に10年間で65億円もの支援が日本の子どもたちを助ける目的で使われたのです。いわば民間の何百万人の善意による援助を日本は受けたのです。
 つまり、日本は最も援助を受けた国だった。それがなければ立ち直れなかったのではないかと思います。これまで日本が受けてきた援助のお返しをしないと品位が問われると私は思っています。

これからの国際協力は民間の活動が不可欠
五月女 2番目の理由は国益です。日本国民のためになるということ。日本は食糧の60%、エネルギーにおいては98%も輸入に頼っています。日本に食糧やエネルギーを提供しているのはほとんどが途上国です。その国が安定していないと供給はできませんし、良い関係を築いていることも前提です。途上国への支援はメリットを分かち合うことになるのです。
 3番目は、豊かな国が困っている国を助けるのに理屈はいりません。当たり前のことです。昨年、新型肺炎SARSが流行し、不幸なことに1カ月でアジアを中心に500人が亡くなった。しかし、アフリカのサブサハラ諸国はもっと厳しい。エイズ、食糧不足、水不足などで同じ時期に50万人もが亡くなったのにニュースにもならない現実があります。日本がいかに恵まれているか、特に水には世界一恵まれています。そういったことを知ってもらうことが、私の役割のひとつだと思っています。

河村 五月女さんの外務省NGO担当大使とは、具体的にどんな活動をされるのですか。

五月女 途上国の援助でNGOというのはとても大きな役割を担い、また貢献しています。NGOと政府の連携強化の意味で新設されたのがNGO担当大使です。NGO担当大使の任命は、スウェーデンに次いで世界で2番目なんですよ。
 日本のODA(政府開発援助)は、1991年から2000年までは1兆数千億円の規模で連続して世界一だったのですが、2001年から首位をアメリカに明け渡し、年々、削減傾向にあります。現在、国民ひとり当たりに換算すると約6800円で北欧諸国の3分の1、GDPに占める比率では21カ国中18位ですから決して多くはありません。
 このODAをいかに有効に使うかに当たって、政府のODA大綱が見直され、NGOやNPOとの連携を強化することが決まりました。ODAは削減されていますが、NGOを支援する予算は大きく伸びて、平成15年度では約70億円となっています。今年も増えるでしょう。つまり、NGOの活躍を支援することが国際貢献につながるという意識が高まってきた。しかし、日本ではまだODA全体の1%にも満たない。アメリカではNGOに使える予算が40%もあり、軍事支援や大型プロジェクト以外の医療・教育・農業支援などは民間の活力を使って行なっています。ヨーロッパでは5〜10%です。
 これからの国際協力はさらに効率よく、いかに民間の活力と能力を生かして政府がバックアップするかにかかっています。NGOは海外の事情に詳しく情熱はあるが資金がない。自治体には途上国が必要な水道や医療のノウハウがある。そして政府には資金がある。オールジャパンとしての総合力を強くしていきたい。それには国民の理解を得るため、裾野を広げていくことが大事です。企業の貢献はもちろん、メディアの役割も大きい。そして大学にも期待したいですね。
ボランティアセンターが龍大を変えていく
 
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NPO・NGOの推進が大学の中身を変える大きなコアに
河村能夫(かわむら よしお)
専門分野は日本・米国および発展途上国の農業・農村問題に焦点を合わせた社会経済開発論。国内外を調査フィールドにし、JICAの農村開発プロジェクト(インドネシア・スリランカ)にかかわる。経済学部教授。前副学長。
河村 龍谷大学では、2001年に「龍谷ボランティア・NPO活動センター」(以下、センターと呼ぶ)を設立し、学生のボランティア支援のほか、さまざまなNPO・NGOと連携し、地域に開かれた活動拠点として始動しています。筒井先生、まずセンターの展望などをお話しください。

筒井 先ほど大使がおっしゃった、日本がいかに恵まれているか、一人ひとりの主体的な気付きを広げていきたいというのがセンターのコンセプトであり、私たちの役割はまず裾野を広げていくことだと考えています。センターには、いろいろな専門分野をもつ教員や実際に多様なNPO活動にかかわっている教職員が参加しています。私自身は社会学部で「地域福祉論」や「ボランティア・市民活動論」などを担当しており、いわゆる福祉の分野なのですが、アフリカのNGOに詳しい先生や経営・経済の視点で参加されている先生もいて、非常に多様であることが第一の特長です。日本でのNPO・NGOは環境、福祉、国際交流など、分野別の活動が主になっていますから、私たちはその特長を生かして縦割りという垣根を超えることができると思います。
 また、教職員だけでなく、多くの学生も主体的に運営に参画しています。そこで学生主導で進めたり、あるいは大学主導でダイナミックに取り組んだり、様々なパターンが可能だということでバランスがとれているのが二つめの特長です。瀬田キャンパスでは、現に社会学部と国際文化学部の学生が一緒に活動を企画して互いの学びを深めています。
 さらに私自身、大阪ボランティア協会の理事及び常任運営委員をしているのですが、センターの他の教職員も学外の様々な団体とつながりがあります。これからは、こうした京都・大阪・滋賀のネットワーク団体と連携を進めたい。丁寧に相談に乗りながら、より波及性のある企画ができそうだと感じ始めているところです。

河村 龍大では大学改革にあたって長期計画を進めていて、現在は第4次長期計画に入っています。第2次長期計画から教育改革を積極的に行なってきましたが、筒井先生がおっしゃったことは、「多面性・統合性」「学生と教員の主体的コラボレーション」「学外との連携」と、まさに教育改革と中身づくりが同じです。
 センターがこれからの大学の中身を変えていく大きなコアになると思いますね。と言いますのも、途上国援助の例えば農村開発プロジェクトでは、プロジェクトを立ち上げた後、それが地域に根ざし、主体性が確立できるような研修プログラムが必要です。大切なのはK(knowledge=知識・理論)、A(attitude=態度・姿勢)、S(skill=技術・方法論)の3要素なのですが、これまでの高等教育ではKとSしかチェックしていなかった。肝心のAが抜け落ちていた。しかし、最近ようやくインターンシップやNPOなどでフィールドに出て行くことが重視されています。フィールドに出て行ってAをコアにしてKとSを獲得していく、という道筋が大切だと高等教育に突きつけられている。これがコーポレートエデュケーションで、アメリカでは1970年代にこの考えが起りましたが、日本は30年遅れている。龍大のセンターは、Aを構築していくひとつの実験になるかなと期待しています。
大学はNGOの人材の宝庫
 
河村 センターの設立より以前に、大使が言われた今までとは違う形での援助のあり方について、実は龍大では97年から5年間、東インドネシアの貧困軽減のための農村開発に取り組みました。インドネシアのマカッサルに本部を置き、住民自身が問題に気付き、解決していくための住民参加型プログラムを作り、支援するプロジェクトで私もかかわりました。それは地方分権を先取りした形の参加型農村開発を支える制度で、「参加型」と「地方分権」は両方が合わさらないと持続性をもたないからです。
 NGOが実際に開発の現場に行く場合、部分的ではなく、全体的なアプローチが必要で多面性・総合性が大事です。このプログラムでは、JICA(国際協力機構)の枠組の中で、大学、地方行政、NGOを横の連携をさせるという、龍大のセンターと同じようなことをやった経験があります。当時、センターができていれば、その活動の担い手になってもらえたのではと残念ですね。

五月女 大学がアフリカで活躍している例はいくつもあります。ボツワナはダイヤモンドの採れる豊かな国ですが、エイズの感染率が36%とアフリカで最も高い。しかしこれはしっかりと検査をしているから出た数字であって、他の国々の数字は信用できません。ボツワナでは国を挙げてエイズの治療に取り組んでいるのですが、ハーバード大学の医学部と連携したプロジェクトがあります。日本でも東海大の医学部がナイロビに医者を派遣したり、マラウイにはJICAのプロジェクトで水産の養殖指導に北海道大学の先生が来ていた。
 しかし、NGOとしての活動の方がよりフレキシブルです。国がコントロールするのでなく、大学がNGOとして主体性をもって活動していけば、草の根レベルのとくに食糧・水・医療の3つの分野は、NGOの方が効率良くできると思いますよ。日本政府もアメリカ式に、NGOに良いプロジェクトを任せる方向にしないと。

筒井 大学をNGOと考えた場合、面白い存在ですよね。

五月女 そうですね。日本ではNGOの歴史がまだ浅いこともあって力不足の面もあります。その点、大学の組織というのは信頼できますから。

河村 ノウハウストック、つまり継続性があることが重要ですから、大学という組織はまさに適していますね。

五月女 そう、そこをうまくやればNGOが変わってきますね。ODAのうちの日本NGO支援無償予算70億円というのは、人間の安全保障無償150億円に比べても莫大な金額です。かなりのプロジェクトに取り掛かれますが、有効に使いきれる力がまだ日本のNGOにはない。大学が本格的に活動していけば、すごく良い成果が出ると思います。大学は人材の宝庫ですし。
小さな組織が連携して大きなパワーに
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学部や組織の垣根を超え、NPO・NGOと協働していきたい
筒井のり子(つつい のりこ)
専門分野は地域福祉、ボランティア・市民活動。ボランティアコーディネーターの専門性確立にむけて、様々な養成プログラムや研修会の企画・実施に携わっている。社会学部教授。龍谷ボランティア・NPO活動センター副センター長。
 
河村 どうリンクしていくかが大切ですね。

五月女 既存のNGOと共同で、研究者や指導者として参加する方法もあります。国際社会で大学としての評価も上がると思いますよ。

河村 しかも学生のものの見方、スコープが大きくなり、教育の中身も変わってきますね。

五月女 広島大学では大学院生を海外青年協力隊に派遣し、レポートを単位として認めています。すなわち学問として、現場での貢献が要求されています。とにかく、いろいろな方法が考えられます。研究だけにとどまらず、外に出て活動することで双方にいろいろなメリットがある。まさに一石三鳥になると思います。

河村 大学は体制をきちんと作って、どう早く展開していくか…。

五月女 龍大のセンターは、素晴らしい取り組みですから、ぜひ進めてほしいと思います。ODAの草の根無償を有効に使うためには、今後は人間の安全保障にも取り組まなければならない。紛争地域では解決よりも予防が大切。民政の安定、食糧の確保だけでなく、難民問題もあります。難民の中には優秀な人材が埋もれている。難民を生かして発展のために使うプロジェクトもスタートしています。国に戻ってもすぐに技術が活用できるようにNGOやいくつかの団体がかかわっています。

河村 そういう技術をサポートする専門性が大学にはありますから、大学の役割はますます大きくなりますね。

五月女 アメリカでは大学と企業、大学とNGOが連携して活動しています。大学が外に出ていく、行動している。政府も信頼しています。日本のNGOは小さな組織が多く、いつのまにか無くなっていたりするので、信頼性の面はまだまだ薄い。小さな組織が一緒になって強力な団体を構成する必要があります。さらに大学や企業が積極的に参加していけば信頼性も高まってくると思います。

筒井 私たちは、動き始めてまだ日が浅いのですが、小さな規模のNPO・NGOがお互いにつながりたいという動きもあるので、まず連携を進めていきたいと思っています。
 かつて視察に行ったアメリカ・スタンフォード大学のボランティアセンターでは、長期間、学生を海外へ送り出す丁寧なプログラムを実施していました。海外であれ国内であれ、学生を送り出す際には、一方的かつ無責任に送り出すのではなく、学生や大学側と受け入れ側双方のメリットをしっかり調整できる組織が必要だと感じました。

河村 教育と同時に研究にリンクさせることができるのが、龍大の強味なんです。教育と研究をリンクさせるため、産官学の連携を掲げて1991年にスタートさせたREC(龍谷エクステンションセンター)も同じ理念。私大初の先進的な取り組みとして大きな成果をあげています。さらに今後は、大学コンソーシアム京都の教育プログラムと連携して、マンパワーとして学生を活用していきたいと思っています。

五月女 調査・企画から入ってプロジェクトを作ることが、学問として成り立ち、研究成果としてそのまま蓄積されるのが大学です。大いに期待していますよ。

河村 センターが活発に動いていくことは、大学にとって改革の大きな柱です。地域や世界に貢献という意味だけではなく、大学が変わっていく、発展していくための必要条件だといえるでしょう。
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