企業人としての豊かなキャリアをもとに、学生とともに創り上げるユニークな講義を展開 社会学部 コミュニティマネジメント学科教授東田 晋三(ひがしだ しんぞう)

社会学部 コミュニティマネジメント学科教授東田 晋三(ひがしだ しんぞう)   社会学部 コミュニティマネジメント学科教授東田 晋三(ひがしだ しんぞう)

  教室をのぞいて驚いた。
 机がない、椅子もない。学生たちは居心地良さそうにペタリと床に座りこんでいる。耳を澄ませばヒーリングミュージック(癒しの音楽)が流れている。昨年4月に開設された社会学部コミュニティマネジメント学科の「キャリアデザイン論」の講義風景は、なんともユニーク。“自分に向き合う”をテーマに、この日の作業はまず、これまでに自分を支えてくれた人々とその理由を学生に書き込ませていく。
 「自分は何者なのか、過去を振り返ることは自己発見の1つの方法です。揺るぎない、めっちゃ大事なものを見つけると行動を変える原動力になります。自分の価値観を大事にしよう。人のせいにしてばかりの人生は面白くないよ」、東田教授の静かだがよく通る声が響く。
 次はグループごとに車座になってディスカッション。学生たちは熱心に話し合う。そして、まとめとして90分のワークを終えた心境を大きな紙に書いて発表。「いろいろな人たちに感謝!」「多くの人に支えられた自分は幸せ」「支える人になりたい」といった言葉が並んでいる。
 「自分と向き合い、いろいろな人とコミュニケーションしてWill(目標)をつくっていきましょう。大学生活を有意義に送れた人は、確かなキャリアデザインができます」と東田教授は締めくくる。

大学生活の充実が将来につながる
この半年間、いつもこのような方法で講義が行なわれてきた。自分を知ろう、人とコミュニケートしよう、大学生活を充実させよう、そして将来につなげよう…。
 講義の後、学生に「どう、面白い?」と声をかけると、「他の講義と全然ちがうので最初はびっくりしましたが、自分という存在を意識する習慣がつきました」(水谷将良さん)、「最初はテレ臭かったけれど、期待どおり面白かった。大学生活や将来に役立ちそう」(中村扶貴子さん) という答えが笑顔で返ってきた。
 キャリアデザインとは何か―。
 「人生において積み上げていく仕事の成果と個人の成長がキャリア。それを少しでも良いもの、納得できるものにしようとする作業がデザイン。大学生活をちゃんとデザインすることで職業観につなげようというのが私の講義の目的です。学生たちに分かりやすく伝えようとしたら、今の形になった。講義というより、学生とともに創り上げていくという感じですね」
 自身のキャリアも多彩だ。大学卒業後、福武書店(現ベネッセコーポレーション)に入社。経営企画部、営業部を経てキャリア開発事業部長として活躍。大学や企業を対象に、経営戦略・組織マネジメント・個人の能力開発研究に携わってきた。
 そして会社を辞めて渡米。約2年半、ジョージア大学のシニアリサーチフェロー(上級研究員)としてアメリカの大学の現状を分析しながら、日本に合ったキャリア教育の体系化を研究。帰国後、大学教員に転身した。

龍大の学生は荒削りだが伸びる
「サラリーマン時代、日本の500大学を訪問しました。最近の学生は勉強しないと嘆くけれど、原因は大学側にあると感じましたね。現状把握や問題分析ができていない。そのツケが学生にまわっている。大学は学生に甘えてはいけない」と厳しい目が大学の在り方を問う。
 猛烈な受験勉強の末に入学したものの、大学生活の意義や目的を見出せず、将来や職業への明確なビジョンがない学生たち。最近になってようやく、龍大はじめ各大学でも「キャリア教育」の重要性が認識され、講義や就職サポートなどの形で取り入れられてきた。 「アメリカの大学は早くから社会の人材ニーズに柔軟に対応しています。講義のバラエティーも実に豊か。その背景として猛烈な競争がある。学生はつまらないと思ったらどんどん他へ移っていきますから。入学1年後の定着率も大学ランキングに入っていますよ」
 他大学からの誘いもあったが、「新しい学科で柔軟な取り組みができると期待した」と龍大へ。着任後も、教員の教育力向上を目指す研究会などの講師として、講演依頼は数多い。
 この学科での講義は、2年生には実社会で培った「目標管理論」「リスクマネジメント」を、3年生には「キャリアデザイン論」を発展させた「キャリアアップ実習」の講義を担当する予定だ。
 「受け持ちのゼミ生たちには読む・考える・書くを徹底してしごきます。ジャーナリスト志望の学生が多いのですが、逆に将来が分からんようになったと言ってくる。それはいいことだ、考えるから分からなくなる。もっと考えろと激励しているんです」
 「龍大の学生たちは荒削りだけど面白い。“のりしろ”ならぬ“伸びしろ”がめっぽう多いので、成長する要素がたくさんあります。非常にいい、大学の宝物だと感じます」
 笑顔をたやさず、穏やかな話しぶりの中に、学生たちを思う熱意がじーんと伝わってきた。

 
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