「いやーホントうれしかったですね。歴代の受賞が権威ある方々ばかりで、一緒に名前が並ぶなんて名誉の一言です。20年かけてじっくり研究を重ねた甲斐がありました」と、受賞の連絡を受けた瞬間を振り返る。
今昔物語集は、和文体と訓読体が融合し和漢混合文体を形成したことで、近代的文体の先駆けとして歴史的に重要な作品であり、その表現の形成が「法華験記」の影響によるものであることを実証的に解明したことが高く評価された。
今昔物語集との出合いは高校時代にさかのぼる。耽美な王朝文学と比較するとゴツゴツした感じで、そのリアルな表現にひかれたそうだ。もともと古典が大好きだった藤井さんは、特に文法に関心が高く、文法学者による参考書を約10冊も読み比べ、その解釈を比較することを好んだという。すでに研究者としての資質が宿っていたのかもしれない。
さらに、研究を進めようと本学大学院に進学。「龍大は伝統があって、先生方がすごく充実していますし、図書館の蔵書は魅力的でした。今まで複写でしかお目にかかったことがない資料の原本がゴロゴロあって、研究に拍車がかかりましたよ」
その後、秋本守英教授(現名誉教授)の指導を受けながら永年の研究をまとめたこの論文で、2003年博士号を取得。昨年12月19日、三省堂文化会館で行なわれた授賞式には、同教授も来賓として出席された。
「これからは芥川龍之介の作品など近代文学の作品にも視野を広げながら、日本語の表現に見られる普遍的な特徴を探っていきたい」と、目を輝かせて語る藤井さん。さらなる挑戦の始まりである。
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