龍谷 2006 No.61

龍谷人



油井聡 さん
焼酎造りに
情熱をかける若き杜氏


油井 聡(ゆい・さとし)さん
合資会社 深野酒造本店 杜氏
1996年社会学部社会学科卒業

我が子を慈しむように自作の焼酎「原酒・刻の封印」を抱く油井聡さん

一次もろみに櫂入れを行ない、静かに熟成の時を待つ
一次もろみに櫂入れを行ない、静かに熟成の時を待つ
 日本三大急流の一つ、球磨川に沿って広がる熊本県の人吉・球磨地方。ここで造られる米焼酎は、その地名を冠して「球磨焼酎」と呼ばれる。現在28ある蔵の一つで、伝統の瓶仕込みにこだわる蔵元に「杜氏」として勤めているのが油井聡さん。
 油井さん自身は静岡県浜松市の出身。大学卒業後、全国展開型のアパレルチェーンに就職し、北九州、長崎の店舗を経て、この地のショップ店長に着任。しかし、その1年半後、この地に永住したいとの想いが高まり、思い切って退職したという。その理由を聞くと、「ヤマメ釣りに魅せられましたね」とあっさり。
 これまで川釣りの経験がなかった油井さんだが、地元の人に誘われて以来、休日のたびに釣り糸を垂らす日々を送るようになった。
 「ここの人ってホント温かいんです。よそ者の私を皆さん応援してくださってね」と永住を決めたもう一つの理由を語る。
 そこで、何か物づくりがしたいという想いで職探しを始め、新聞の求人欄を頼りに地場産業である焼酎蔵に入社。営業担当を2年間経験した後、社長に頼み込んで焼酎造りを担当するようになった。毎日の仕込みは、朝6時の米蒸しから始まるが、その日の天候や気温によって、原料の状態が大きく変わるため、見極めが難しいという。「今は麹作りから出荷まで、やれと言われれば一人でできます。でも、自分で満足のいく味が出せるようになるまでは、一人前の杜氏とはいえないですね」と謙遜する油井さんだが、昨年、国税局が主催する酒類鑑評会に出品したところ、その醸造技術の高さが認められ、表彰を受けたほどだ。
 杜氏として働く彼だが、会社の肩書きは“総務部長”。「社員が少ないんで、日頃一般見学者への説明や瓶へのラベル貼りなんかもやります。何でもやるから総務なんです」と屈託なく笑う。
 将来の夢は?との問いに、「世界中の川でマス釣りを堪能したいですね」とニッコリ。川があって、自然に囲まれた生活を夢見る油井さんの生き方は、まさに自然体そのものだ。




森下ことみ さん
人のネットワークを大切に、
ビジネスをしっかりサポート


有限会社そーほっと 代表
森下ことみ(もりした・ことみ)さん
1986年文学部社会学科社会福祉学専攻卒業

オフィスが入居するビルの入り口で。森下さんのモットーは、「仕事も遊びも2倍2倍」。


当時受付をしていたパイロットオフィスに入居。
当時受付をしていたパイロットオフィスに入居。ここも9件だった入居者が30件に増え、常に満室状態だという。
 JR三鷹駅前にあるビジネスヘルパー有限会社「そーほっと」。現在、急速にその数が増えているSOHOの一つ。その代表を務めるのが森下さんだ。
 「そーほっと」は、受付や電話転送、データ入力、DM発送などのビジネスサポートを行なっている。「小さなことでもコツコツと」を合言葉に、きめ細やかな仕事ぶりに評判も上々。会社設立以降、着実に業績を伸ばし、今年2月には、市が主催するイベントの企画・運営を任されるほどに。ただし、仕事のスタンスは変えない。「自分たちができることだけを、きっちりやるだけなんです」とキッパリ。
 「そーほっと」は、3人の社員と8人ほどのパートで運営しているが、そのほとんどが主婦。「メンバーはみんなタイプが違うけど、気心が知れているんでチームワークはバッチリです」。
 その仕事ぶりは本当にきめ細やかだ。例えば受付業務だと、決まったことをするのではなく、その事務所の社員さながらに心のこもった応対を心掛けている。時には、請け負った事務所へのクレームに謝罪応対をすることもあるとか。
 そもそも森下さんが事業を起こしたのは、自分が使うお金を得たかったと始めた三鷹市役所でのアルバイトがきっかけ。1998年12月、三鷹市が自治体として国内で初めて開設した「三鷹市SOHOパイロットオフィス」の受付を担当。あくまでも受付が彼女の仕事だったが、入居者からイベントの手伝いなどを頼まれるようになり、自らもさまざまな仕事も始めるようになった。その後、(有)ラクーン多摩(現・アプリケーションプラス(株))の事業部としてチームを立ち上げ、2004年4月に独立した。
 森下さんは、それまで仕事の経験がなく、せいぜい喫茶店でのアルバイト程度。暇な時は、趣味の寺社廻りや美術鑑賞など、一人で自由に時間を使っていたそうだ。「オフィスの受付を任された時は本当に戸惑いましたよ。電話の応対やパソコン操作など、それまで何も知らなかったんだから」と恥ずかしそうに当時を振り返る。その5年半後に会社を設立することになるとは、よもや想像もしなかっただろう。
 今まで営業活動は一切していない。受付で知り会った人たちから輪が広がり、依頼があったら何でも心安く受ける姿勢を崩さないので、自然に仕事が舞い込むようになった。
「仕事が面白いっていうより、仕事をすることで自分が変わっていくことがとても楽しいんです。頼まれた仕事は、少々ハードルが高くてもやってみます。そこで何を感じるか、新たな発見にワクワクする自分がいるのが楽しい」
 人に助けられ、人に後押しされながら今の自分が存在すると、いつも感謝の気持ちを忘れない。

※SOHOとは、「Small Office Home Office」(スモールオフィス・ホームオフィス)の略で、ITを活用して事業活動を行なっている従業員10名以下程度の規模の事業者のこと。現在国内に、約500万の事業所(法人:188万、個人:315万)で、約1500万人が就労している。(日本SOHO協会調べ)




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