龍谷 2006 No.62
REC TOKYO SYMPOSIUM 龍大の「共生」理念を首都圏にシンポジウム「心の時代を生きる」開催

昨年度から東京でも公開講座をスタートさせた龍谷エクステンションセンター(REC)では、首都圏における龍谷大学の知名度アップや、さらに「共生」の理念を広めるため、シンポジウム「心の時代を生きる」を開催。
来場した多くの人たちに龍大をアピールした。

作家 五木寛之 REC東京シンポジウム
プロデューサー 残間里江子
昨年シニアの新しいライフスタイルを提案する会社「クリエイティブ・シニア」を設立。
近著に、女性による初の本格的団塊論『それでいいのか蕎麦打ち男』。
2007年ユニバーサル技能五輪国際大会総合プロデューサー。

 夏真っ盛りの8月5日、会場の東京・九段会館大ホールには、早くから多くの人が列をつくり開場を待ちわびていた。
 事前の申し込みには、定員千人に対してなんと5千人もの応募があり、メ心の時代ヤをどう生きるか――というテーマに関心や期待が高いことがうかがわれる。
 シンポジウムは、まず、RECセンター長の大柳満之理工学部教授が「心の時代を生きるためのお手伝いを龍谷大学がしたい」との挨拶で始まった。
 第1部は1981年からの休筆中に龍大で仏教史を学び、以後、仏教や心をテーマにした著作を発表し続ける作家・五木寛之さんの基調講演「人生の四季」。人生についての深い洞察をユーモアたっぷりに語る五木さんの話で開場は和やかな雰囲気に。
 第2部は、様々な分野で活躍中のプロデューサー・残間里江子さんコーディネートによるパネルディスカッション「心の潤いを求めて」。脚本家の大石静さん、作家の椎名誠さんに加えて、本学の神子上惠群学長がパネリストとして出席。何かが大きく変わってしまった不透明、不確実な現代社会をいかに生きるかについて、それぞれの立場や体験に基づいたメッセージを伝えた。


脚本家 大石静 人は必ず死ぬ。だからこそ希望があり、共生できる。
NHK朝の連続テレビ小説「ふたりっ子」で第15回向田邦子賞と第5回橋田賞をダブル受賞。
2000年自伝的小説『愛才』を発表し、作家としても注目を浴びる。今年のNHK大河ドラマ「巧名が辻」の脚本を担当。

 私の生家は旅館で、松本清張さんや壇一雄さん、開高健さんといった作家の先生が、いわゆるメ缶詰ヤになって原稿を書かれていました。有名なすごい先生なのに苦しそうで、こんなに皆から大切にされて、有名になっても人生は苦しいんだ、奥様と愛人がばったり顔を合わせることもあって、大人って大変なんだ……(笑)。そういう環境でしたから、「何になりたい?」と聞かれるのが子ども心に重荷でしたね。
 私たちが子どもの頃は、大人を仰ぎ見て大きくなりました。大人も肝がすわっていたし、子どもも年長者には敬意をはらっていました。それが変わったのは1990年頃から。子どもに気を遣い、様々なメディアさえ、子どもに向かって発信するようになりました。テレビドラマも若い人向けのドラマしか創らなくなりました。
 今の日本の子どもたちは、自分と対話する時間、つまりボーッとする時間が決定的に少ないと思うのです。暇な時間こそが人を育てるのだということを、今は大人も忘れています。小学校からパソコンを教える必要もない。パソコンなんていつからでも覚えられます。大人は勇気をもって子どものパソコンのスイッチを消すべきですね。
 NHKの大河ドラマ「功名が辻」を担当するにあたって、戦国時代の資料をずいぶん読んだのですが、結局、昔と今は変わらないと思いました。ただ、日常的に戦があった当時は、千代が一豊に「お命をお持ち帰りくださいませ」と送り出すように、死が身近にありました。
 今は死を忘れすぎていると思います。人間は必ず死ぬ、だからこそ希望があり、共生ができることを子どもたちに教えるべきだと思うのです。私がこんな考えを強く持つようになったのは、24歳でガンになり、これまでに6回手術を経験したからかもしれません。最初は告知もなく、ただ母の髪がみるみる白くなっていった。再発したときは、さすがにショックでしたが、なぜか動物としての直感で「死なない」と感じていました。
 どんなに大事にしても、名医に掛かっても死ぬ時は死ぬ。何かしら大きなものに動かされている気がしました。限りある命だから今を大事に精一杯やりたいことをやろうと思ったのです。それはいろいろなものを削ぎ落としても、何を手離さないか。それを見つけるということですね。大人が鑑賞できるテレビドラマを少しでも書き残していきたいとも思っています。


作家 椎名誠 「変わらないこと」強さや価値がある
主な作品に『犬の系譜』『岳物語』『アド・バード』『中国の鳥人』『黄金時代』など。最新刊は『どうせ今夜も波の上』。
旅の本も数多く、パタゴニア、シベリア、メコン、アマゾンなどへの探検、冒険ものなどを執筆。

 世界の9割ぐらいの国は貧しいんですが、貧しくても宗教があるからやっていけるという国が世界には結構あるんですね。アメリカの9・11の同時多発テロがあった直後にミャンマーに行ったんですが、軍事政権の情報管理の恐ろしさで、ミャンマーでは誰もあの事件があったことを知りませんでした。しかしみんな信心深くて、よく仏像の前で祈ってるんです。それも瞑想するかのように、うっとりとした表情で3時間も4時間も祈るんですね。僕は単純にその光景を美しいと思いました。
 日本はミャンマーの何十倍も金持ちでしょうが、僕らの5メートル四方に美しさなんてあんまり感じないですよね。お金の使い方に価値を求めるのではなく、お金そのものに価値を求めているから、空しさが出ているような気がします。
 テレビが出現した頃に日本人は変わりはじめたのかもしれません。僕は1944年生まれですが、力道山の試合を見に、新橋駅前広場にある街頭テレビに千人集まったんですよね。14インチのテレビを千人の人間が見つめていた。あれから日本の文化はテレビによっていろいろいじられるようになったような気がします。
 もうひとつ日本を変えたとすれば、国際化という部分で、東京オリンピックが大きかったんじゃないでしょうか。オリンピックを境にJR山手線の駅のホームから「タンツボ」が消えていったんですよね。かつては柱の陰にあった丸い壺めがけて、オヤジたちは見事に痰を命中させていたんですよ。その意味で昔のオヤジたちは偉かったんですが(笑)、タンツボの撤去に象徴されるように外に対してはきれい事を並べ、国内はテレビを始めとした絵空ごとをひたすら押し付けてきたことのひずみが、今の世の中に少なからずからんでいるような気がします。大衆の望むバーチャル世界がつくられていった、という感じかな。
 見ていて、日本の子は危ないですね。異常に過保護に育っていて、精神も身体もすごく弱いです。世界の子どもは貧しいがゆえにタフですからね。イヌイットだとカリブーなどを捕るのは12〜13歳の子どもです。他の国でも十代半ばで家計をしょって立ってるのは珍しくないです。もし、世界子どもお仕事選手権みたいなのがあったら、一番先に負けるのは日本でしょうね。勉強してればいいという育ち方は相当ヤバイですよ。


龍谷大学学長 神子上惠群 西洋思想の「共存」ではなく仏教に基づく「共生」を
専門分野は西洋近世哲学。68年龍大短期大学部講師として着任、99年から文学部長、2003年から学長に就任。
著書に『哲学のエポック』(共編著)。

 今の時代は人々が迷っている時代だと思います。日本は精神的に滅びてしまうのではないかという不安も人々は抱いていますが、「ではどうしたら」ということを示すことができない時代です。
 その原因の一つは、道徳的規範や宗教的信義が絶対性を失ったことにあるのではないでしょうか。長い間信じていたもの、例えば政治家や経済学者の言うことが当てにならないことや、著しい道徳心の衰退、例えば誰も見ていなくても神や仏が見ているという信念が力をなくしたこと、その両方に原因があると思います。
 科学や医学の進歩が必ずしも人間の幸せにつながらないことも、はっきりと分かってきました。科学技術の進歩により、人間の自然への支配力が高まり、それによって所有欲が拡大され、環境破壊を引き起こした。地球温暖化によって四季の差があいまいになり、人間の繊細な優しい感覚も失ってしまったように感じます。
 武力による民族紛争の背景にも西洋文明の支配があると思います。西洋文明の根底にあるのは、人間が自然の支配者や所有者になるという考え方。高い文明を未開の地へ広げるということも支配欲と所有欲の拡大にほかならない。デカルトの言葉に「我思う、故に我あり」がありますが、我とは、誰にも依存しない独立自尊の我です。西洋の思想では互いに無関心な共存はできても共生はできません。
 こうした西洋の思想が行き詰まりを見せていることは明らかで、支配するのではなく自然との共生、異文化との共生が求められています。共生とは仏教の縁起の上に成り立つもので、互いに依存し合い、認め合い、支え合うのが本来の在り方です。共生は相互理解の上にしか成り立たない。子どもたちには、自分を理解してくれる人がいる喜びを与えるのが一番重要だと思います。
 「人生は苦である」とお釈迦様はおっしゃった。死は肉体という形をもった生命が形を離れて形そのものを変えるということ。肉体に執着すると死は苦しみになります。しかし、形があるからこそ、人生は尊く味わい深い。私たちには無数の先祖がいて、そのうち一人でも欠けたら私は生まれてこなかった。計り知れない昔から、私が生まれるための準備がされていた。この不思議さ、生を受けたことの有り難さを実感しながら、無限の命のつながりの中で、人生の意義を読み取っていくことが大切ではないでしょうか。

東京に続いて、大阪でもRECコミュニティカレッジを開講

2005年度後期から始まった「RECコミュニティカレッジ東京」。
2006年度前期にはシリーズ「新時代の世界情勢を読む〜インド・中国・ロシア〜」が開講され、好評を博した。後期は「『老い』を科学する」「生命倫理をめぐって」という今日的な課題をテーマに、講座を開講する。
さらに本年度からは、「RECコミュニティカレッジ大阪」を開設。
龍谷大学が新たな拠点で展開する市民のための公開講座を紹介する。

ますます充実
コミュニティカレッジ東京


シリーズ
 「老い」を科学する

 高齢化社会を迎えた今日では、「老い」という問題が老人だけでなく、それを支える若者にとっても重要な課題となっている。「老い」を科学すると題する本シリーズは、「老い」についての正しい理解を深め、老年期とは、われわれ人間にとってどのような意味を持つのかを考えてみることをめざしている。
 本講座は、本学の教員及び元教員の3名が、各々の専門的見地から、「老い」に対する確かな知識を教授し、「老い」についてきちんと整理していただく機会を提供する。

シリーズ
 生命倫理をめぐって
 近年、科学技術、特に医学の発達によって人間の生命をコントロールすることが可能となりつつある。われわれに多大な恩恵をもたらしてくれる医学に対し、生命の尊厳について、宗教や哲学の立場から考える必要があるのではないか。
 本シリーズでは、本学の教員3名が、自身の専門的見地から生命倫理について問いかけ、参加者とともに考えていく。

いよいよ開講
コミュニティカレッジ大阪


シリーズ第1弾は
 「いま仏教文化が面白い」
 昨年度開設したRECコミュニティカレッジ東京に続いて、2006年度は大阪にもコミュニティカレッジが進出。
 RECコミュニティカレッジ大阪の第1弾となる講座(全3回)は、来年1月からシリーズ「いま仏教文化が面白い」と題し、大阪中央公会堂にて開講される。

RECコミュニティカレッジ東京
シリーズ 「老い」を科学する
第1回 老いとからだ         2006年10月14日(土)
講師:青木信雄(龍谷大学社会学部教授)
第2回 老いといのち         2006年11月11日(土)
講師:奈倉道隆(元龍谷大学社会学部教授)
第3回 老いとこころ         2006年12月 9 日(土)
講師:友久久雄(龍谷大学文学部教授)
いずれの講座も…
● 時 間:15:00〜16:30
● 受講料:一般1,500円
会員1,000円
● 定 員:200名
● 会 場:住友不動産西新宿
公園3号館
  東京都新宿区西新宿4-15-3

詳細は
http://ryukoku.jp/nrt001/にて
シリーズ 生命倫理をめぐって
第1回 生命倫理をめぐる日米宗教界の違い 2007年 1 月13日(土)
講師:生駒孝彰(龍谷大学国際文化学部教授)
第2回 尊厳死・安楽死をめぐって    2007年 2 月17日(土)
講師:田村公江(龍谷大学社会学部教授)
第3回 生命はなぜ尊いのか      2007年 3 月17日(土)
講師:井上善幸(龍谷大学文学部講師)

RECコミュニティカレッジ大阪
シリーズ いま仏教文化が面白い
第1回 アフガニスタンの仏教遺跡   2007年 1 月 6 日(土)
講師:入澤崇(龍谷大学経営学部教授)
第2回 タジキスタンの仏教遺跡    2007年 2 月 3 日(土)
講師:蓮池利隆(龍谷大学古典籍デジタルアーカイブ研究センター研究員)
第3回 黄土高原の石仏を訪ねて    2007年 3 月 3 日(土)
講師:佐藤智水(龍谷大学文学部教授)

いずれの講座も…
● 時 間:15:00〜16:30
● 受講料:一般1,500円
会員1,000円
● 定 員:300名
● 会 場:大阪中央公会堂
大阪市北区中之島1-1-27


詳細は
http://ryukoku.jp/nrt001/にて

コミュニティカレッジのお問い合わせ先

龍谷エクステンションセンター
● REC京都

Tel:075-645-7892
rec-k@rnoc.fks.ryukoku.ac.jp

● REC滋賀
Tel:077-543-7848
rec@rnoc.fks.ryukoku.ac.jp

● 東京窓口
Tel:03-3201-2751

REC(レック)会員募集
龍谷エクステンションセンター(REC)では、市民を対象にした公開講座「RECコミュニティカレッジ」として、仏教・歴史・文化・自然・福祉・語学などの分野15コース・約380講座を開講しています。講座の詳細につきましては、「2006年度後期講座案内」(無料)をご請求の上、ご確認ください。
http://rec.seta.ryukoku.ac.jp



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