龍谷 2006 No.62

「共生をめざすグローカル大学」 それは「相互理解の深化」をめざした学問探究

大学を取り巻く環境が大きく変わっていく中で、様々な出来事があった神子上学長の4年間。
まもなく任期を全うし、この3月に退任する。
これまでの4年間を振り返えるとともに、時代や環境の変化にかかわらず、普遍的な使命として継承していく「建学の精神」について、語ってもらった。


龍谷大学学長 神子上 惠群
龍谷大学学長 神子上 惠群
●教育と研究、建学の精神を追求

――学長に就任された2003年に、本誌「龍谷」54号で、学長は本学が教育と研究の両方を重視した大学であらねばならないとしたうえで、本学は、浄土真宗の精神に基づく教育を施すと宣言しています。このことを本学の存在理由にかかわることとして重く受け止めていきたいと言っておられますが、教育と研究、そして建学の精神のために、この4年間に本学はどんなことに取り組んできたのでしょうか。

神子上 教育に関して申しますと、まず1学期13回以上の授業数の確保があります。昔のような、勝手に休講するという態度は許されなくなりました。大学のさらなる教育活動充実のために、FD(ファカルティ・ディベロップメント)に対する意識を高めようと、授業アンケートも改善されました。また新入生のために初年度教育や入学前教育を工夫しました。加えて、キャリア教育にも力を入れるようになりました。

――学科の増設や新設などもありましたね。


神子上 はい。学生の多様な関心に応えるため、理工学部に情報メディア学科と環境ソリューション工学科を増設し、社会学部にはコミュニティマネジメント学科を新設しました。また、経済学部では経済学科一学科だったのを現代経済学科と国際経済学科の二学科に編成しました。国際文化学部でもカリキュラムの改革が行なわれました。海外拠点「RuBEC(ルーベック)」の開設も大きな意味を持っていると思います。
 大学院では、臨床心理相談室「大人と子どものこころのクリニック」を開設して、文学研究科教育学専攻で臨床心理士の受験資格が取れるようになりました。何より大きいのは法科大学院の開設です。

――なるほど。では研究に関しては、どのようなことがあげられるのでしょう。


神子上 研究については、毎年、文部科学省が実施する私立大学学術研究高度化推進事業に申請し、現在は8研究プロジェクトが採択されています。本学には法務研究科(法科大学院)を含めると8研究科あるわけですから、本学の得意研究分野が何かということがだんだん認識できてきたかなと思っています。また本学特有のプロジェクトとして、アフガニスタンの学術調査があります。

――建学の精神については、どうお考えですか。

神子上
 建学の精神に関して申しますと、本学が広く知識を授けると共に、深く専門の諸学科を教授研究するというだけのものであれば、本学は存在しなくてもよかったかもしれません。そのようなことは他の大学でもできることですから。

――では、本学の存在理由とは何なのでしょう。

神子上
 本学の存在理由はやはり「浄土真宗の精神に基づく教育を施す」というところにあります。したがって浄土真宗の精神が学問にどのようにかかわるのかということが、私にとっては課題になりました。
 そこで、2000年度から本学が取り組む「第4次長期計画」(4長)で示された「共生をめざすグローカル大学」という大学像において、「共生」の根拠を仏教の教えに求めると共に、共生の前提として相互理解をあげて、相互理解の深化・拡大に学問探求の意味を見出そうとしてきました。私は、今の大学は競争に勝つということ以外、学問探求の意味を見失っているのではないか、と思っています。

2005年度卒業式で式辞を述べる学長
2005年度卒業式で式辞を述べる学長
●創立370周年を迎えるにあたって

――2007年度には「大学全入時代」が到来したと言われていますが、このような時期に本学が創立370周年を迎えることに対して、どのような思いをもっていますか。

神子上
 本学は2009年に創立370周年を迎えますが、これは4長の最終年度に当たります。そこで、4長事業の完成ということを、記念事業の内容として寄付をお願いしました。
 少子化が進み、大学間競争が激化している今、大学にとって必要なことは、学生から選ばれる大学になることです。実は4長は、本学が学生にとって魅力ある大学になるための、また本学の社会的評価を高めるための計画なのです。ですからこれらの事業の完成が今の本学には何より大事なことなのです。一番大事なものを創立370周年記念事業にしたわけです。

――魅力ある大学になるための方策としての寄付をあげられていますが、具体的にはどういうことでしょうか。

神子上
 私は、これからは、370周年記念事業の寄付とは別に、日常的に寄付が行なわれるようになることが大切だと思っています。莫大な借金を抱えている国が、今後、私立大学のための予算を増やすことは考えられません。むしろ減額されていくでしょう。これ以上、学費を上げるわけにはいきませんから、大学が生き生きと活動していくためには、寄付に頼らざるを得なくなると思います。寄付を集めることのできる大学が残っていくということになるでしょう。

――寄付を集められる大学ですか。それは、どのようなことが考えられますか。

神子上
 例えば校友の皆さんが、母校のために4年に1度くらいは1万円寄付してやろうと思ってくださると、それが校友の3割ほどだとしても、毎年1億円ほどの寄付を受けることになります。そういうお金があれば、学生の課外活動支援にも使えます。
 良い指導者を迎えることができ、良い成績をあげることができるようになれば、課外活動を通じて母校の名が新聞に載り続けることにもなるでしょう。また名前をつけた奨学金を幾つも設けることもできるでしょう。
 このような少額寄付が盛んに行なわれる寄付文化が育つことを期待しています。そのためには手軽に寄付ができ、また寄付することが楽しくなるような仕組みが必要だと思っています。

――最後になりましたが、4年間を振り返ってみていかがですか。うれしかったこと、苦しかったことをお話しください。

神子上
 苦しかったのは、法科大学院が不認可になったことです。うれしかったのは、事務の方に親切にしていただいたことですね。

・ インタビューを終えて

 世間では、近年の少子高齢化の影響と大学進学率の向上から、大学進学希望者と大学の入学定員が拮抗する「大学全入時代」を迎えたと言われている。かつて経験したことがない厳しい時代を迎え、多くの大学が社会のニーズに対応するため、次々と改革方策を展開し、大学としての競争力を維持するために躍起になっているようだ。
 しかしながら、今回のインタビューで、神子上学長は、社会からのニーズに対応することを急ぐあまり、大学としての本来の役目である社会への啓蒙活動を、とりわけ私立大学にあっては建学の精神に根ざした教育を施し、混迷の時代にあって正しく社会を導いていくという役目を見失いがちな状況にあることに警鐘を鳴らし、この龍谷大学が高等教育機関として正しく歩んでいくことを指南されたように感じた。


神子上惠群学長就任中における龍谷大学の主な出来事 (2003年度〜2006年度)
年 度
キーワード
出 来 事
2003 教  育 理工学部に情報メディア学科・環境ソリューション工学科を開設
  教  育 法科大学院の設置を文部科学省に申請
  教  育 文部科学省「特色GP」に短期大学部の「実習事前指導の体系的な実施」が採択
  教  育 経済学研究科と法学研究科が共同で「NPO・地方行政研究コース」を開設
  研  究 文部科学省学術研究高度化推進事業「地域人材・公共政策開発システムオープン・リサーチ・センター」を設置
  入試改革
入試制度改革で受験者5万人を確保
  記念事業
大谷探検隊100周年記念事業が終了
  イ ベ ン ト 第1回青春俳句大賞を開催
  施設整備 深草学舎に「至心館」(矯正・保護研究センター活動拠点、研究展示室「パドマ」)を開館
  施設整備 大宮学舎に「西黌別館」を開設
2004 教  育 社会学部にコミュニティマネジメント学科を開設
  教  育 法科大学院不認可、再申請へ
  教  育 学生ベンチャー育成事業で「創業準備ブース」を設置
  教  育 学生部SMAP計画採択事業2件が京都市の大学地域連携モデル創造支援事業に選定
  研  究 文部科学省学術研究高度化推進事業「里山学・地域共生学オープン・リサーチ・センター」を設置
  研  究 アフガニスタン政府とアフガニスタン学術調査に係る協定を締結
  研  究 古典籍デジタルアーカイブ研究センターがベゼクリクの失われた仏教壁画をデジタル復元
  研  究 古典籍デジタルアーカイブ研究センターが黒澤明アーカイブのデジタル化事業を開始
  社会貢献
経済産業省「地域新生コンソーシアム研究開発事業」にRECの取り組みが採択
  社会貢献
滋賀県経済振興特別区域産学連携新技術創出補助金事業にRECの取り組みが採択
  社会貢献
滋賀県大津市と協力協定を締結
  社会貢献
大宮学舎西黌別館に臨床心理相談室 「大人と子どものこころのクリニック」を開設
  社会貢献
大阪での産学連携拠点として「クリエーション・コア東大阪」に入居
  外部評価
理工学部物質科学科が日本技術者教育認定機構(JABEE)から認定
  施設整備 瀬田学舎に学生交流会館・SETA DOME完成、第2実験棟(デジタル・クリエイション・ホール)が完成
2005 教  育 法科大学院を開設
  教  育 学生部SMAP計画採択事業2件が京都市の大学地域連携モデル創造支援事業に選定
  研  究 文部科学省学術研究高度化推進事業「アフラシア平和開発研究センター」を設置
  研  究 第1次アフガニスタン学術調査隊がバーミヤーン西方で新たな仏教遺跡を発見
  研  究 知的財産センターを開設
  記念事業 2009年の創立370周年に向けて、創立370周年記念事業委員会を組織(龍谷ミュージアムを構想)
  高大連携 高大連携推進室を開設
  社会貢献 「RECコミュニティカレッジ東京」を開講
  社会貢献 経済産業省「広域的新事業支援ネットワーク拠点重点強化事業」にRECの取り組みが採択
  外部評価 格付投資情報センター(R&I)から格付け「AA−」を取得
  施設整備 東京オフィス(東京都千代田区)を開設
  施設整備 大宮図書館を大改修
  施設整備 瀬田学舎に青朋館(クラブハウス)が完成
2006 教  育 経済学部経済学科を現代経済学科・国際経済学科に改組
  教  育 文部科学省「特色GP」「現代GP」に短期大学部の事業が採択
  教  育 図書館司書課程・司書教諭課程を設置
  教  育 アメリカ・バークレーに海外拠点「RuBEC」を開設
  教  育 インターンシップ支援オフィスを設置
  教  育 経営学研究科に日中連携ビジネスコース(プログラム)を開設
  研  究 文部科学省学術研究高度化推進事業「革新的材料・プロセス研究センター」を設置
  研  究 文部科学省学術研究高度化推進事業「情報通信システム研究センター」を設置
  高大連携 平安中学校・高等学校の付属化を決定
  社会貢献 「RECコミュニティカレッジ大阪」を開講
  社会貢献 経済産業省「戦略的基盤技術高度化推進事業」にRECの取り組みが採択
  卒業生支援 卒業生支援センターを設置
  卒業生支援 校友サロンをオープン
  卒業生支援 卒業生向けメールマガジン「倶楽部りゅうこく通信」を開始
  外部評価 大学基準協会から大学基準に適合していると認定
  外部評価 内閣府総合科学技術会議の総合科学技術会議議員が瀬田学舎を視察
  施設整備 瀬田学舎に「智光館」(アフラシア平和開発研究センター)を開設
  施設整備 深草学舎キャンパス修景事業が完了

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