西本願寺境内の南東隅には、塀で囲まれた一郭がある。この場所は、国宝の飛雲閣があることで知られているところである。約四九〇〇平方メートルにおよぶこの別区は、飛雲閣(ひうんかく)を中心に池を配して樹木が植えられた庭園とされており、「滴翠園」と呼ばれて、国の名勝(めいしょう)に指定されている。
滴翠園は、その見所を十カ所に分けてそれぞれ名付けられたのが「滴翠園十勝」である。それぞれは、「飛雲閣 滄浪池(そうろうち) 龍脊橋(りゅうはいきょう) 踏花塢(とうかう) 胡蝶亭(こちょうてい) 嘯月坡(そうげつは) 黄鶴台(おうかくだい) 艶雪林(えんせつりん) 醒眠泉(せいみんせん) 青蓮謝(せいれんしゃ)」である。
本願寺第十八代門主の文如(もんにょ)は、法嗣(ほっし)であったときの明和五年(一七六八)に飛雲閣をめぐる庭園の整備を行い、園内に茶室「澆花亭(ぎょうかてい)」を造っている。この時滴翠園と命名され、あわせて「滴翠園十勝」が選ばれたようである。
その後滴翠園の名は世に知られることとなり、明和九年(一七七二)一月には、文如が文人らを集めて滴翠園で詩会を催している。それ以後詩会は、毎月の定例とされた。
このように名声の挙(あ)がった滴翠園について、その美しい姿を描いたのが、ここにある「滴翠園十勝」である。 |