龍谷 2007 No.64

教学クローズアップ 「市民の目線になって、法務の専門知識を活かした仕事を」

藤井 真知子さん 行政職員やNPO職員、学部卒業生が共に学ぶことができる「NPO・地方行政研究コース」。
設立されて4年、自治体やNPOからの社会人院生の受け入れも着実に増えてきている。
その社会人院生の2006年度修了生が甲賀市役所総務部・法務室係長の藤井真知子さん。
修士論文「市町村合併における自治体法務の現状と課題〜甲賀市の条例整備を手がかりとして〜」が昨年末、5つの政策系大学・大学院が参加した研究発表会で61件の論文中、最高賞を受賞した。

 藤井さんがこのコースに応募したのは甲賀市の誕生(2004年10月に水口町、土山町、甲賀町、甲南町、信楽町の5町が合併)がきっかけだった。もともと大阪体育大学の出身で中・高・大学とソフトボールに打ち込んだスポーツウーマン。「実は体育の教師になるつもりでしたが、滋賀県の採用がなく、地元の水口町役場職員になりました。人事異動で法規担当になり、まもなく5町の合併が決まりました。合併協議会では、新市の条例や規則を作る作業を合併5町の法規担当職員とともに担当していたのですが、合併3カ月前に新市の人事内示があり、私以外の4町の担当が別の部署に異動になってしまったんです」。
 そこで藤井さんが新市の文書法規係長として、条例と規則を作る作業を一人で行うことに。まとめた条例・規則は612本。合併までの3カ月は土・日返上で徹夜の連続だった。「振り返ると、地方分権により『自分たちのまちは自分たちで作る』となったものの、自分の行なった作業において分権社会の法務の能力はあったのかと疑問を感じました。それで法の基礎知識を勉強したいと思い、このコースに応募したんです」。半世紀にあるかどうかの自治体の合併過程における自分の経験を書き残すことと、今後仕事を続けていく上での知識をきちんと学びたかったのだという。「通学には2時間かかるので、6時間目の授業に出るためには職務時間中に市役所を出ないと間に合わないのですが、快く送り出してくれた職場の皆さんには本当に感謝しています」。
 家庭を持ち、仕事もこなしながらの通学は並大抵の熱意ではできないはず。その努力の結果として、修士論文も評価され、市役所内に新しく法務室もできた。「苦労しながら1年間やってきたことが報われたと思います。勉強そのものも楽しかったし新鮮でした。大学の先生とも意見交換ができて、とても身近に感じられました」。大学から帰ると午前0時を過ぎることもしばしばだったというが、家族の理解と協力があったので乗り越えられたと語る。若い学生やNPOの人達との交流もいい刺激になったそうだ。
 「実はそれまでは『行政ありき』で運営する側の目線しかありませんでした。参加する側になったことがなかったんです。施策も選挙も執行する側ばかりにいたので、市民がどう考えているか、正直わかりませんでした。でも今回、外に出ていろんな人と話し、指摘されたときに気がついたのですが、今まで私は『市民であって市民でなかったのかもしれない』と思いました。今の仕事で『市民の視点』が欠けていると条例を作るときに、市民の目線では考えられなくなり、行政側の押し付けになってしまいます。今後は、条例づくりにこの市民の視点を生かしたいと思っています。また自治体職員の後輩には、今の状況に甘んじず、一つ上の意識を持った職員をめざしてほしいですね」

大学院NPO地方行政研究コース

 NPO地方行政研究コースとは、2003年4月に経済学研究科ならびに法学研究科が合同で設置した学際的な研究プログラムで、龍谷大学が掲げる21世紀の大学像「共生(ともいき)をめざすグローカル大学」の一環として、地方自治体や市民活動など分権社会において活躍する高度専門的な資質を有する人材を育成することを目的とした大学院修士課程のコースです。
 公共政策に関する総合的な研究機会・学習機会を提供するとともに、地域の行政・市民活動に直結した実務教育を通じて、分権社会が求める多様かつ高度な要求に応えうる人材を育成することを教育目標としています。
 なお、本コースでは、地方自治体やNPO等諸団体と『互恵的連携協定』を結び、これらをインターンシップ先として、半年から1年間の実社会での実務経験と研究をおこなうことにより、理論と実践を総合した高度かつ多様な公共政策に携わる能力を育成する「総合型(2年制修士課程)コース」と、就業しながら、その業務内容の高度化を図ることができ、かつ研究評価の対象(単位化)とすることができる「オンジョブ型(1年制修士課程)コース」の二つがあります。
(注)オンジョブ型(1年制修士課程)コースは、入試による公募は実施していません。
2007年度 文部科学省「大学院教育改革支援プログラム」に採択されました




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