藤井さんがこのコースに応募したのは甲賀市の誕生(2004年10月に水口町、土山町、甲賀町、甲南町、信楽町の5町が合併)がきっかけだった。もともと大阪体育大学の出身で中・高・大学とソフトボールに打ち込んだスポーツウーマン。「実は体育の教師になるつもりでしたが、滋賀県の採用がなく、地元の水口町役場職員になりました。人事異動で法規担当になり、まもなく5町の合併が決まりました。合併協議会では、新市の条例や規則を作る作業を合併5町の法規担当職員とともに担当していたのですが、合併3カ月前に新市の人事内示があり、私以外の4町の担当が別の部署に異動になってしまったんです」。
そこで藤井さんが新市の文書法規係長として、条例と規則を作る作業を一人で行うことに。まとめた条例・規則は612本。合併までの3カ月は土・日返上で徹夜の連続だった。「振り返ると、地方分権により『自分たちのまちは自分たちで作る』となったものの、自分の行なった作業において分権社会の法務の能力はあったのかと疑問を感じました。それで法の基礎知識を勉強したいと思い、このコースに応募したんです」。半世紀にあるかどうかの自治体の合併過程における自分の経験を書き残すことと、今後仕事を続けていく上での知識をきちんと学びたかったのだという。「通学には2時間かかるので、6時間目の授業に出るためには職務時間中に市役所を出ないと間に合わないのですが、快く送り出してくれた職場の皆さんには本当に感謝しています」。
家庭を持ち、仕事もこなしながらの通学は並大抵の熱意ではできないはず。その努力の結果として、修士論文も評価され、市役所内に新しく法務室もできた。「苦労しながら1年間やってきたことが報われたと思います。勉強そのものも楽しかったし新鮮でした。大学の先生とも意見交換ができて、とても身近に感じられました」。大学から帰ると午前0時を過ぎることもしばしばだったというが、家族の理解と協力があったので乗り越えられたと語る。若い学生やNPOの人達との交流もいい刺激になったそうだ。
「実はそれまでは『行政ありき』で運営する側の目線しかありませんでした。参加する側になったことがなかったんです。施策も選挙も執行する側ばかりにいたので、市民がどう考えているか、正直わかりませんでした。でも今回、外に出ていろんな人と話し、指摘されたときに気がついたのですが、今まで私は『市民であって市民でなかったのかもしれない』と思いました。今の仕事で『市民の視点』が欠けていると条例を作るときに、市民の目線では考えられなくなり、行政側の押し付けになってしまいます。今後は、条例づくりにこの市民の視点を生かしたいと思っています。また自治体職員の後輩には、今の状況に甘んじず、一つ上の意識を持った職員をめざしてほしいですね」 |