水鳥が羽を休め、釣り人が糸を垂れるのどかな宇治川。
そこに架かる宇治橋東詰から北に向かい、信号を右に折れると、まもなく「源氏物語ミュージアム」が迎えてくれる。
平安ロマンの薫り高い王朝世界へ、『源氏物語』研究を専門とする、龍谷大学の安藤徹准教授(教員NOW参照)と訪れた。
平安時代の女性作家・紫式部が書いた『源氏物語』は、世界最古の長編小説といわれ、執筆の時期は定かではないが、『紫式部日記』の1008(寛弘5)年の記事の中に物語の登場人物の名前が見える。
それから、今年でちょうど千年。長い年月を経て今日まで読み継がれてきた物語の、後半部にあたる十帖の主な舞台は宇治であり、「宇治十帖」の名で呼ばれている。
その宇治の地に開館した源氏物語ミュージアムは、「源氏物語をテーマとしたまちづくり」を推進する宇治市が、そのコア施設として1998年に開館したもの。本年1月4日には、予想よりはるかに早く、来館者100万人を達成した。
折しも京都市や宇治市で源氏物語千年紀の事業が展開される中、一日の来館者は今年に入ってから例年の2倍に、また週末には3倍にもなる盛況ぶり。人々の関心の高さをうかがうことができる。
ミュージアムのエントランスを通って最初に足を踏み入れる「春の部屋」は、物語の主人公である光源氏が華やかに活躍した光りの世界を表現。光源氏の住まいである六条院の模型、調度品などから、栄華を極める光源氏の雅やかな暮らしぶりを垣間見ることができる。
光源氏亡き後、物語の主な舞台は宇治に移るが、「秋の部屋」は、その宇治十帖の世界をイメージしたもの。雲間から降り注ぐ青白い月光の下、光源氏の子・薫が宇治の大君の姿に心を奪われるという有名な「橋姫」巻の場面を立体再現している。
また映像展示室では、篠田正浩監督の映画「浮舟」を上映(約20分)。人形師ホリ・ヒロシ制作の人形はときに気品に満ち、ときに妖艶に、あるいは鬼気迫る雰囲気で、観客を物語最後の女君・浮舟の世界へと誘う。
なお、同ミュージアムはこの夏には一時休館。さらに工夫を凝らして、9月初旬にリニューアルオープンの予定だ。
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