龍谷 2008 No.66

Question of News 専門家に聞く ニュースの中身の素朴な疑問

「低炭素社会に向けた環境政策」

「低炭素社会に向けた環境政策」

 今年7月におこなわれた洞爺湖サミットを契機に、地球温暖化問題が世界中で注目を集めています。
また、日本では6月27日、「経済財政改革の基本方針(骨太の方針)2008」が閣議決定され、
「低炭素社会」実現に向けての道筋が盛り込まれました。
そこで、低炭素社会に向けた環境政策について、素朴な疑問をぶつけてみました。


村 ゆかり
<回答者>
法学部法律学科教授

村(たかむら)ゆかり

最終学歴・学位
一橋大学大学院法学研究科博士課程単位修得退学
専門分野
国際法、国際環境法
研究テーマは国際環境条約の遵守手続き・制度、京都議定書など
地球温暖化防止の国際制度、予防原則
主な著書・論文など
『地球温暖化交渉の行方-京都議定書第1約束期間後の国際制度  設計を展望して』(大学図書・2005年)、
『京都議定書の国際制度』(信山社・2002年)、
「国際環境法における予防原則の動態と機能」『国際法外交雑誌』
104巻 3号(2005年) 他多数


目標は2050年、50%削減

7月の洞爺湖サミットでは、環境問題について、どのようなことが話し合われたのですか。

 洞爺湖サミットでは、先進国首脳による会合だけでなく、中国・インドなど発展途上国による会合や、アメリカ主導による大規模経済国会合など温暖化に関するいろいろな会合がおこなわれました。サミットでの大きな合意点として、京都議定書には入っておらず、かつ今まで数値目標を掲げることを嫌っていたアメリカを含めて、2050年には世界中の温室効果ガスの排出を少なくとも50%削減するという長期的目標を先進国が共有したことがあげられます。

最近、「低炭素社会」という言葉を耳にします。これも、50%削減目標と関係があるのでしょうか。

 そのとおりです。2050年に二酸化炭素(CO2)排出量を50%減らすというと、はるか遠い未来に思えるかもしれません。しかし、実際は2020年の段階で、世界全体で排出量が頭うちの状態になっていないと50%削減は達成できません。ほんの10年後の話です。
  中国やインドなど途上国に排出を増やさないように努力してもらうのはもちろんですが、それでも増えてしまう分を先進各国が担い、全体として伸びないようにしないといけないのです。
先進国も途上国も発展したい。しかし、排出量は大幅に削減しなければならない。となれば、「エネルギーを消費する」ということと、「CO2が出る」ということを切り離して考えなければ、温暖化に対応できません。そこで出てきたのが「低炭素社会」の実現です。
  低炭素社会というのは、電気やガソリンなどのエネルギーを極力使わない、どうしても必要なエネルギーはCO2を出さないエネルギーに変えていく、環境にやさしい社会のことです。

それには、先進国と途上国の協力が不可欠ですね。

 温室効果ガスの代表であるCO2を排出しているのは、圧倒的に先進国です。しかし、2020年頃には、途上国のエネルギー起源のCO2排出量が先進国を上回るだろうという予測がなされています。
  他方で、このような問題を起こした原因の多くが先進国にあり、また、削減のための技術も先進国にあるのですから、持っている資金や技術で途上国をサポートするのが、先進国に課せられた責任であり、任務といえます。
  先進国は自国を低炭素社会に向かわせながら、一方で、途上国の努力を支援する。例えば、途上国がインフラを整備するときに、省エネのインフラづくりに協力する。そういう政策が必要です。


待たれる「仕組み」づくりの強化

1997年に京都で開かれた地球温暖化防止国際会議(COP3)で、京都議定書が採択されてから10年。日本の温暖化防止政策はどのようになっているのでしょうか。

 ちょうど今年1月から、京都議定書で決めた約束を達成する期間に入っています。5年間の平均を、1990年の頃より6%減らすというのです。ところが現実は、すでに1990年の頃より7%くらい増えています。トータルで13〜14%のレベルで減らさないといけないというのが日本の現状です。

そのためには、私達は何をおこない、企業は何を努力するべきなのでしょう。

 無駄なエネルギーを使わないというのが第一です。また、日本の温室効果ガス排出量の約60%が産業部門とエネルギーを供給するエネルギー転換部門であることから考えても、事業者の役割は重大です。私達がいくらエネルギーを消費しないように努力しても、電化製品や自動車などは産業部門がつくっています。ですから、いかに優れた省エネ製品をつくれるかは、事業者にかかっています。
  私達は消費者として、省エネ型の製品を買うようにする。企業活動を厳しく監視する。また、最近は個人投資家も増えていますが、環境にやさしい事業に投資する。そのようにして、がんばっている事業者を支えることが大切です。

低炭素社会のエネルギーとは何でしょうか。

 当座の問題として考えられるのは、太陽光発電や風力発電でしょうか。日本には、その技術力があります。ではなぜ普及しないのか。私は、それを広める政策の問題ではないかと思うのです。
  一時期、家に太陽光発電パネルを付けると補助金がもらえるということで、太陽光からの電力が伸びました。しかし、補助金を停止してからは伸びどまりの状態です。また、火力発電の石炭を天然ガスにするだけで排出量は確実に減ります。高いと言われる太陽光などの再生可能エネルギーや天然ガスの価格差を補う制度をつくれば、かなり削減できるはずです。行政には、「温暖化対策をするとお得」という仕組みをどんどんつくってほしいものです。

身近なところでは、スーパーにエコバッグを持っていくという運動がおこなわれています。

 それだけで排出量の削減にそれほど効果があるとは思えませんが、みんなで環境問題を考えるという動機付けにはなるでしょう。
  いずれにしても、問題は石油依存の社会から、いかに低炭素社会に切り替えていくかということ。2050年の目標を達成するために、行政や企業の動きをしっかりと監視し見守りながら、企業人は企業のなかで、学生は学びの場で、あるいは日常生活のなかで、私達一人ひとりが今何をするべきかを本気で考えなければなりません。



表 「2050年50%削減」の意味

分類 二酸化炭素濃度
(ppm)
二酸化炭素換算
濃度(ppm)
工業化以前からの
全球平均気温上昇
(℃)
二酸化炭素排出量
頭打ちの年
2050年の
二酸化炭素排出量変化
(2000年排出量比)
I 350-400
445-490
2.0-2.4
2000-2015
-85〜-50
II 400-440 490-535 2.4-2.8 2000-2020
-60〜-30
III 440-485 535-590 2.8-3.2 2010-2030 -30〜+5
IV 485-570 485-570 3.2-4.0 2020-2060 +10〜+60
V 570-660 710-855 4.0-4.9 2050-2080 +25〜+85
VI 660-790 855-1130 4.9-6.1 2060-2090 +90〜+140

出典:IPCC第四次評価報告書

※このコーナーでは、身の回りのニュースの中身について、「素朴な疑問」「今さら聞けないこと」を龍谷大学教授陣がお答えします。皆さんも取り上げてほしいテーマがありましたら、「学長室(企画・広報)」までお寄せください。






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