発想の原点は
「人が考えつかないことをやろう」
木村研究室での研究テーマは「薄膜トランジスタの研究と応用」。そもそも薄膜トランジスタとは何か。液晶テレビや携帯電話のなかにある液晶の事で、その液晶を動かすために、一つ一つに電圧を掛ける役割をしている。それが薄膜トランジスタなのである。
最近の高精細な携帯電話の画像には10万個もの画素が要求され、その10万個の画素に対して、1個ずつトランジスタが入っている。だから、「多くの人が通常生活のなかで、10万個くらいの薄膜トランジスタを持ち歩いているんですよ」。
大手液晶メーカーは、薄膜トランジスタメーカーでもある。しかし、「メーカーがやっていることと同様の研究では面白くない」。そこで木村教授が考えたのが、薄膜トランジスタによる人工網膜の開発だ。人工網膜については、LSIでの研究がアメリカなど海外だけでなく国内のいくつかの大学など、世界で進められているが、薄膜トランジスタでの研究は、木村研究室が初めて。これに賛同する企業の協力も取りつけた。
なぜ、薄膜トランジスタが人工網膜に適しているか。それには二つの理由がある。一つ目は、プラスチックなどの上に形成する薄膜であるため、眼球に沿ってカーブを描くことができる。曲がる基板だ。これはシリコン基板上につくられるLSIではできない。
二つ目は、透明であること。人工網膜は、眼球の裏側に置かれる。レンズから入った光が、透明な基板を通して裏側のトランジスタへ到達し、それをトランジスタが感知して眼球の内側に出力する。こうして人は画像を見ることができるのだ。
木村研究室では現在、網膜として単に光を感じるだけではなく、明るい・暗いという「階調」が確認できるか、モノの動きを「動画」として捉えられるか、「色」が感知できて、その違いを判断できるか、などを研究中。
加えて、「薄膜トランジスタに、いかにして電気を送るか」も実験している。薄膜トランジスタは、電気を送ることではじめて動作する。薄膜トランジスタの機能の向上と併せて、電源も重要なのだ。その答えとしては、「メガネにコイルを入れ、人工網膜側にもコイルを入れてやれば、ワイヤレスで電気が送れるはず」と考えている。
薄膜トランジスタによる人工網膜の研究は、多方面から大きな期待が寄せられている。自らの求めるものと、多くの人の想いに応えるために、木村教授はLSIの研究者をはじめ、人工網膜や人工内耳、人工心臓など人工臓器の研究者とも、学会、研究会を通して意見を交換し、教えを受けながら、一歩一歩、未知の領域を突き進んでいる。
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