龍谷 2009 No.67

大学院 実践真宗学研究科(修士課程)開設 宗教を現代社会で実践するために

大学院 実践真宗学研究科(修士課程)開設 宗教を現代社会で実践するために

今年4月、宗教を現代社会で実践するための大学院、実践真宗学研究科が開設される。これは、多様化・複雑化する現代の諸問題に対応可能な実習を重視した教育をおこない、実践的な宗教家の育成が目的。
そこで、開設プランの中心的役割を果たした矢田了章教授に、立案の動機や開設への思いなどを語ってもらった。

矢田 了章 矢田 了章(やた りょうしょう)
1941年生まれ、香川県出身。
龍谷大学大学院文学研究科博士課程単位取得満期退学。
文学部真宗学科教授。専門分野は浄土教理史。

時代に応える実践的な宗教家を

 龍谷大学の文学部真宗学科は「浄土教理史」「真宗教義学」「真宗教学史」「真宗伝道学」の4つの分野で構成。既存の文学研究科真宗学専攻は、主に「浄土教理史」「真宗教義学」「真宗教学史」という3つの分野を研究する研究者養成のための大学院となっている。では、4つ目の「真宗伝道学」をどうするか。今回の教育プランは、この課題への答えともいうべきものである。
 近年の仏教教育の歴史を簡単に振り返ってみると、1888(明治21)年、新島襄がキリスト教を徳育の方針とした私立大学の設置方針を発表した。これにより、仏教諸派は新時代に対応するため仏教の近代化の必要性を痛感。伝統的な学林、学寮の組織を改革し、大学の設置に進むことになる。
 時代は下って1999(平成11)年、アメリカ開教100周年を迎え、龍谷大学でも海外開教についての研究が精力的におこなわれる。また同じころ、仏教文化研究所では真宗伝道学の研究が始まった。そしてこれらの経緯の後に、これまで不十分とされた「伝道学」に絞り込んだ専門職大学院の構想などが生まれ、紆余曲折を経ながら実践真宗学研究科開設への取り組みが、実質的に始動した。
 その開設プランの中心的役割を担ったのが矢田了章教授である。早くから構想を温めていたという矢田教授は、実践真宗学研究科開設への思いをこう語る。
 「仏教というのは、その時代に対応したものであることが大前提。日本の寺院を取り巻く環境が変化しつつある中、真宗学は従来の学問研究にとどまらず、現代社会の諸問題に応えるものにならなければならないし、実践、活動のできる人材の育成を図らなければならない。一方、日本全国の寺院には、存在意義を失いつつあるものも少なくない。こうした状況に対応するために、最高レベルの情報を収集し、最高レベルの講義をおこない、実践する場が必要と感じていました」。

3年間で高い専門性と実践力を養う

 大学院の修士課程は通常2年間。ところが、新設の研究科は3年となっている。「浄土真宗という宗教を理解した上で、具体的な実践の方策を身に付けるには3年は必要」というのがその理由。現実の社会のなかで実質的に活動できるためには深い知識と広い経験を必要とする。したがって、十分に力を蓄え、実践していくには、それだけの時間が必要。1年目は、仏教だけでなく社会問題がいかに多様であるかを学び、2年目では、自分の目標を定めてゼミを選ぶ。その上で、3年目に入って本格的に現場での実習をおこなうのである。
また2年目からの専門研究科目では、「宗教実践活動」に関わる分野と、「社会実践活動」に関わる分野の2つの分野で多面的・重層的な学修を実施する。前者は寺院経営に特化した分野とし、寺院が伝統的な制度にとらわれず、新たな進路を見出すための教育をおこなう。一方後者は、より外(社会)に向かう実践分野。カウンセリング、ビハーラに焦点を合わせ、同時に社会的活動に関する学問をも取り入れながら、社会に貢献できる人材を育成する。
 現在予定されているゼミは5つ。それぞれの分野に精通した教員が、学生の積極的な活動をサポートする。ゼミごとの5つのテーマ(案)は次のとおり。
(1) 現代社会を視野に入れた宗教的実践・伝道学の再構築。
(2) 時代の変化に即応した具体的実践力の涵養、特に都市開教、及び海外開教。
(3) 様々な事情から罪を犯し、社会から孤立した人への対応。
(4) 現実の苦悩を乗り越えるためのカウンセリング。
(5) 現実の老病死への対応の中で、生きる意味を見出すビハーラ活動。
 どのテーマも人間の心の深層に関わることであり、特に(3)〜(5)の実践には、相手に対するより慎重な配慮が要求される。「真宗学を学ぶ学生は、無意識にではあっても、日々、仏教に接していることもあり、優しい学生が多い。うまい言葉をかけられなくても、心で接することができるはず」と、矢田教授。

生きた実践真宗学の拠点に

 では、実践真宗学を龍谷大学がおこなう意義とは何か。それは、グローカルを標榜し普遍性と個別性を希求する大学が、宗教全体を見据えて新しい時代の学びの方向性を切り拓くことにある。そしてこれには、「文学部だけではなく、他の学部とも連携を図り、さまざまな学問を研究している教員、学生と連携・協力していくことが重要」。
 新設研究科の対象者は、将来住職となる学生だけでなく一般の学生も含まれる。また現役の学生に限らず様々な職種の経験をもつ社会人や、退職後の人生において何に命を賭けるかを学び、実践していこうとする人々にも門戸を開く。
 「この試みは僧侶を中心とした日本の寺院の在り方を問い直すことであり、何百年の伝統を大きく崩すことになるかもしれない。しかし、仏教が置かれている現状を考えれば、今こそやらなければならない時期」と、矢田教授は語気を強める。そして、「いつの日にか、ここで育ち実践活動した人に、また戻ってきてもらう。この大学院を拠点に、実践真宗学の大きなムーブメントを起こしていければ…」。穏やかな表情に戻り、最後にそんな未来像を語った。



Graduate School of Practical Shin Buddhist Studies

Graduate School of Practical Shin Buddhist Studies

宗教を社会で実践するプロフェッショナルを育成

「現代社会の諸問題に対して、宗教がいかにしてその使命を果たしうるか」という課題に応えるため、親鸞聖人の教えを建学の精神とする龍谷大学は、新たに実践真宗学研究科を開設します。

■研究・教育内容
2つの専門分野で多面的・重層的な学修を実施し、高い専門性と実践力を3年間で磨きます。

研究科の教育課程は、既存の文学研究科真宗学専攻が担ってきた研究・教育を基礎とした「基礎研究科目」と、現代の様々な問題に対応できる実践力の養成をはかる「専門研究科目」とで構成されます。
「専門研究科目」は、〈宗教実践活動に関わる分野〉と〈社会実践活動に関わる分野〉に分かれます。

宗教実践活動に関わる分野
既存の文学研究科真宗学専攻が担ってきた文献学的・思想的研究と連携しつつ、それとは区別された宗教的実践活動に関する基礎的な理論と方法を、社会実践の立場から教育・研究する。過去の歴史における宗教的実践の具体的形態を研究し、その本質を学ぶことをも視野に入れつつ、主として、現代の情報化時代に対応するための新しい方法論と実践理論、及び実践活動を研究します。

社会実践活動に関わる分野
仏教がもつ縁起的生命観に基づく共生的社会の具現化のために、人権・平和・環境等の問題に関する幅広い知識・教養を修得し、また具体的展開としてビハーラ活動(仏教を基盤とした患者・家族への全人的支援)、カウンセリング、ボランティア、NPO活動、矯正・保護等の実践理論を学ぶことと現場実習を通じ、宗教が果たしうる社会実践のあり方について教育・研究します。

■概要
研究科専攻名:実践真宗学研究科 実践真宗学専攻
学位名称:修士(実践真宗学)
所在地:龍谷大学 大宮キャンパス
(京都市下京区七条通大宮東入大工町125-1)
入学定員:30名
修業年限:3年

【お問い合わせ先】文学部教務課 電話:075-343-3317
URL:http://www.let.ryukoku.ac.jp/sinshu/





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