5長のグランドデザインの策定にあたり、学内外環境の分析を実施されたとお聞きしています。その結果を踏まえ、複雑化する昨今の社会情勢のなかで、大学が担うべき役割とは何だとお考えですか。
若原 一つ目として、21世紀というのは知識基盤社会、生涯学習社会の時代であると考えます。新しい知識・情報・技術があらゆる分野の活動基盤となり、ますます重要な意味を持つことになります。これからの大学は、新しい知の創造・継承・活用のサイクルをより充実させていくことと創造的人材の育成がますます重要となるでしょう。
二つ目に、産業を中心に、グローバル化がさらに進行していきます。現代はヒト・モノ・カネ・情報が国境を越え、経済的な国際競争力が厳しく問われる時代です。日本では科学技術創造立国とか知財立国と言われるように、先端的な科学技術を開発して経済成長を遂げ、国際的な競争に対処していこうという国家戦略がとられています。そういう社会では、新しい知を創造することのできる人材を養成する高等教育機関、特に大学への期待が大きくなっていきます。
三つ目には、21世紀は少子化と大学の増加、大学進学率の上昇により大学全入時代、ユニバーサルアクセスの時代に入ります。それに伴い学生像が変化してきています。かつてのように、学生は目的を持って大学に入ってくる、学生は大人である、大学が細かく指導しなくても自ら学ぶものである…というような学生像は通用しません。それを念頭に置きながら、大学は新しい学生像に対応した教育をしていかなければなりません。
四つ目に、少子高齢化社会がさらに進み、労働力不足が顕在化してくるでしょう。それを補うためには、一人ひとりの労働力としての質を高める必要があり、これを実現するのは教育であるといえます。
大学には、今述べていただいた四つの社会変化に対応できる人間、21世紀型市民の育成が求められているということですね。
若原 現代社会では絶えず新しい知識が生み出され、世界規模の競争が起こっています。これに対応するために、創造的な人間、主体性のある人間、新しいものを生み出すことのできる人間が求められています。
すなわち、「しっかりとした基礎学力」「幅広い豊かな教養」「広い視野から物を見る力」「高度で専門的な知識・技能」「高い公共性と倫理性」などを持ち合わせたグローバルに活躍できる人間の育成が必要となります。
そのなかで本学が特に重要視しているのは、「高い公共性と倫理性」です。これらは、浄土真宗の精神という明確な建学の精神に基づく教育によるものであり、本学の個性、特色であると言えます。
5長のグランドデザインには、これらの環境分析が加味されている…。
若原 私達は、学内外環境分析の結果を考慮しながら、建学の精神に根ざした価値観を持って、持続可能な社会を創ることに寄与する教育、研究、社会貢献活動を展開するべく、5長のグランドデザインを策定しました。
5長の話に入る前に、これまで10年間にわたり展開されてきた4長の成果についてお聞かせください。
若原 教育、研究、社会貢献等、多岐にわたって成果がありました。教育では、2005年に専門職大学院として法科大学院がスタートし、2009年には文学部真宗学科を設置母体にした実践真宗学研究科という新しい大学院修士課程も開設しました。また教育改革を担う組織として大学教育開発センターの立ち上げや、キャリア教育の導入を進め、文科省のGP(大学において教育の質を向上させる優れた取り組みに対する支援)も複数件獲得することができました。
研究では、基盤的な研究を着実に進めると同時に、研究の高度化という面で大きな成果がありました。文科省の私立大学学術研究高度化推進事業、それを引き継ぐ私立大学戦略的研究基盤形成支援事業に延べ10数件が採択され、現在も8件が稼働中です。
社会貢献では、REC京都の開設をはじめ、ボランティア・NPO活動センター、知的財産センターの設置や東京オフィス、大阪オフィス(現大阪梅田キャンパス)、バークレーセンターなどの活動拠点の拡大にも積極的に取り組みました。
さらに学校間連携では、平安中学校・高等学校の付属化や高大連携校の拡大を実現するとともに、国内外の大学との協定締結を促進しました。キャンパス整備では、新校舎の建設、セミナーハウスの取得や深草キャンパスの整備、課外活動施設の整備などを実施。総合的学生支援体制については、奨学金、学習支援の新しい制度をはじめ、メンタルヘルスに関する支援体制などを整備しました。
そして、4長の仕上げとして、今年度、様々な創立370周年記念事業を展開しています。
4長で、浮き彫りになった課題とは…。
若原4長では多くの成果がありましたが、その一方で、本学の確固たる特色が打ち出せていない。ガバナンス体制が弱いなどの反省点も挙げられました。これらは5長において克服すべき課題であると真摯に受け止めています。
では現在の龍谷大学のポジション、言い換えるなら「強み」を挙げるとしたら何でしょうか。
若原 本学の独自性、特色というのは、仏教系の総合大学であることと、長い歴史と伝統を持っているということです。浄土真宗という明確な建学の精神に基づいて、総合大学として多様な教学を展開しており、長い歴史と伝統のなかで蓄積した豊かな知的資源があり、それを活用することができます。例えば、伝統的な仏教研究は、日本はもとより、世界的にも拠点となりうるだけの実力を持っていると自負しています。
大学運営に関しては、設置母体である浄土真宗本願寺派との強固な信頼関係ができています。また、宗門関係学校が国内外にに28学園あり、その内の25学園が龍谷総合学園という日本でも最大規模の学園グループを形成しているのも強みと言えます。
また、大学の諸活動、諸事業の基盤となる財政面では、財政基本計画の策定と推進により、健全で安定的な経営基盤を確立しました。学内の意思決定も民主的におこなわれています。5長においては、これらの恵まれた資源をもっと活かしていくべきであると考えています。
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