龍谷 2009 No.68


研究最前線 Topix

人間・科学・宗教オープン・リサーチ・センター公開講座
「いのちのバトンタッチ〜映画『おくりびと』に寄せて」 


〈講師〉青木 新門 氏
〈日時〉6月25日

  青木新門著『納棺夫日記』は、2009年第81回アカデミー賞外国語映画賞を受賞した映画「おくりびと」に、大きな影響を与えた作品である。
  俳優の本木雅弘氏は、1996年に青木新門著『納棺夫日記』を読んで感銘を受け、映画化にあたって、青木新門宅を訪れた。「蛆も命なんだ、そう思うと蛆が光って見えた」という一節に、本木雅弘氏は感動したという。青木氏は、人は死を受け入れた時、それまで当たり前のように見えていた世界がすべて光り輝いて見えてくるという。がんを患い亡くなる井村医師は、スーパーマーケットで遊んでいる子どもたちが輝いて見えたと記している。宮沢賢治は妹トシを亡くした悲しみから、『銀河鉄道の夜』を書いた。すすきやリンドウが光り輝く世界は、妹トシとの別れから実感した世界であろう。とんぼもごきぶりもあらゆるものが差別なく輝く。それが死を深く知ったものの世界観である。納棺夫となったことを親族から反対された時、昔の恋人が、納棺をしていた青木氏の額の汗をぬぐってくれた。また一番反対していた叔父が、亡くなる直前、ベッドで青木氏に「ありがとう」と言った。こうしてまるごと認められると人は生きていける。人生の終末に寄り添い、死の瞬間に、家族のそばにいることこそが、いのちのバトンタッチとなる。父や母の死に立ち会うとき、報恩感謝の気持ちもあふれてくる。先に生まれるものは後を導き、後に生まれるものは先を導く、それがいのちのバトンタッチである。
  参加者約750名の学生や教授、市民の多くの人々は青木新門氏の話を聞いて涙があふれた。

 

人間・科学・宗教オープン・リサーチ・センター公開講座 「いのちのバトンタッチ〜映画『おくりびと』に寄せて」  

人間・科学・宗教オープン・リサーチ・センター公開講座 「いのちのバトンタッチ〜映画『おくりびと』に寄せて」



人間・科学・宗教オープン・リサーチ・センター公開講座
「自死(自殺)という“いのち”の問題にどう向き合うか」  


〈講師〉藤澤 克己 氏
〈日時〉6月24日

 藤澤克己氏は、「自殺対策に取り組む僧侶の会」やライフリンクの活動を通じて、私たち一人ひとりが生き生きと暮らせる社会、安心して悩むことのできる社会づくりをめざしている。日本の自殺者数は1998年以降年間3万人を超え、その数は、交通事故死者の約6倍にあたる。
 自死(自殺)の問題は、経済が優先され、過酷な競争を強いられる社会の中でうまれている。リストラや倒産などの経済問題、健康問題や家庭の不和、いじめや虐待にあう時、本当は生きていたいのに、生きていくことが辛く、個人の力ではどうすることもできずに、死しか見えなくなってしまう。職場の配置転換により昇任した人が、職場の人間関係に悩み、責任を感じて孤立し、自殺に結びつくケース もあるという。行きすぎた能力主義が、他者の気持ちを顧みることを忘れさせている。支えあって生かされるという縁起的な生命観、そして悩みを相談できるセイフティーネットが日本社会に求められている。
 自殺念慮者の悩みを聞くうちに、藤澤氏は、「死にたくて、自死する人はいない」「本当は生きていたい」ということに気付かされた。藤澤氏は、自殺念慮者に「死んではいけない」と是非を言い渡すのではなく、「死んでほしくない」という願いを伝えることが大切であると言う。
  現場から生まれた藤澤氏の言葉は、会場の学生や市民に優しく伝わった。多くの学生が、自殺に対する見方が変わり、自殺防止や自死遺族のケアに関わる僧侶の活動を、心から支援していきたいと思った。

 

藤澤克巳氏(「自殺対策に取り組む僧侶の会」代表)  

人間・科学・宗教オープン・リサーチ・センター公開講座 「自死(自殺)という“いのち”の問題にどう向き合うか」 

藤澤克巳氏(「自殺対策に取り組む僧侶の会」代表)    


人間・科学・宗教オープン・リサーチ・センター研究展示
「いのちの重さを見つめて−自死の悲しみと死を超えた慈愛」  


人間・科学・宗教オープン・リサーチ・センター研究展示 「いのちの重さを見つめて−自死の悲しみと死を超えた慈愛」 

 「いのちの重さを見つめて−自死の悲しみと死を超えた慈愛」展を、深草学舎至心館パドマにおいて6月1日より2ヶ月間にわたり開催し、2100名を越える来館があった。自殺予防対策に取り組む「内閣府自殺対策推進室」「国立精神・神経センター自殺予防総合対策センター」や、自死遺族を支援している「NPO法人 自殺対策支援センター ライフリンク」「あしなが育英会」「浄土真宗本願寺派教学伝道研究センター」などの取り組みを紹介し、自死念慮者や自死遺族の悲しみに向き合い、自死の問題を、医療レベルからだけでなく、経済・生活対策レベル、宗教的ケアのレベルから見つめた。
  また、ダライ・ラマ14世、五木寛之、水谷修、上田紀行、青木新門、谷川俊太郎、金子みすゞなどの「珠玉の言葉」を通して生きる意味を考え、『自殺っていえなかった』という自死遺族の願いなどを綴ったパネルなども展示した。
  初公開の展示品として、紀元2〜3世紀頃のガンダーラ出土の「仏三尊像」「仏坐像」「仏立像」を公開した。仏の微笑や仏伝レリーフの物語は、時を超えて見るものに安らぎを与え、悩めるすべての人に寄り添う姿をしのばせた。この他、「臨終の善悪をば申さず」という親鸞聖人の消息写本や「ひとに負けて信をとるべし」という蓮如上人御一代聞書(本学図書館所蔵)など、自死遺族の大きな心の支えとなる書物も公開した。
  この展示を通して、自殺の現実を理解し、慈しみと思いやりという人間のより深い価値を一人ひとりが育んでいくことが大切であるということを学んだ。

 

人間・科学・宗教オープン・リサーチ・センター研究展示 「いのちの重さを見つめて−自死の悲しみと死を超えた慈愛」   




アフラシア平和開発研究センター
朝日・大学パートナーズシンポジウム
「Who Cares? 誰が私たちの面倒をみるの? 介護現場のいま」を開催  


 2009年6月20日(土)、アフラシア平和開発研究センターは、深草学舎顕真館において、朝日・大学パートナーズシンポジウム「Who Cares? 誰が私たちの面倒をみるの? 介護現場のいま」を開催、約660名が聴講した。朝日・大学パートナーズシンポジウムとは、大学の高い水準の研究や独自性のある取り組みをテーマとして、朝日新聞大阪本社と共催でシンポジウムを開催するというものである。
  現在、超高齢社会を迎える日本では、誰がその介護を担うのかという問題に対する不安が高まっている。はたして介護労働者は本当に足りないのか。シンポジウムでは、基調講演者に上野千鶴子氏(東京大学教授)をお迎えして、グローバリゼーションとの関連を定めつつ、このテーマについて報告していただいた。続いて、2008年の二カ国間経済連携協定(EPA)によってインドネシアから来日した看護師・介護福祉士候補者2名に、職場での介護体験談を語ってもらった。
  シンポジウムの後半では、外国人介護労働者の現状と課題について、安里和晃氏(京都大学特定准教授)、高畑幸氏(広島国際学院大学講師)、マリア・レイナルース・D・カルロス氏(本学国際文化学部准教授)の3名が報告した。最後に、パネルディスカッションでは、施設担当者などさまざまな立場の人をパネリストに迎え、これからの新しい介護のあり方とは何か、また、社会のあり方とは何かについて、「介護の国際化」を視野に入れつつ議論をおこなった。
(6月28日付け朝日新聞朝刊においてシンポジウムの特集記事が掲載された。)

 

アフラシア平和開発研究センター 朝日・大学パートナーズシンポジウム 「Who Cares? 誰が私たちの面倒をみるの? 介護現場のいま」を開催   

アフラシア平和開発研究センター 朝日・大学パートナーズシンポジウム 「Who Cares? 誰が私たちの面倒をみるの? 介護現場のいま」を開催 



人間・科学・宗教総合研究センター

2001(平成13)年に人文・社会・自然科学分野において、「人間」「科学」「宗教」をキーワードに、龍谷大学が有する資源を活かし、全学横断型・複合型・異分野融合型等の学術的研究を推進することを目的として設立。その成果は、国内外から高い評価を得ている。




←トップページへ戻る