龍谷 2009 No.69


 
様々な方面で活躍する INTERVIEW 龍谷人 人とは違う歩みで進んできたオペラ歌手への道 既成概念を超えて「創造」することは、与えられた使命
オペラ歌手 花月 真さん
オペラ歌手 花月 真さん

昨年の10月24日、深草学舎顕真館に朗々と響き渡った重厚な歌声。
 龍谷大学創立370周年記念式典の壇上で奉讃演奏を披露した花月真さんは、国内外から高い評価を得るオペラ歌手。その恵まれた声と幅広い表現力は、実は独学からスタートしたものだと言う。

 日本でクラシックの音楽家をめざす場合、著名な先生に師事し、音楽大学へ進んで留学というのが主な流れ。ところが花月さんは、その稀有な才能を直接オペラの本場イタリアのオペラ歌手に見出され、歌手としての道を歩み出したいわば変わり種。声楽コンクールで入賞入選経験を積み、これまでイタリア、日本などの100以上のオペラ公演で主要な役を演じてきた。


 花月さんが音楽に出合ったのは大学に入ってから。プロの音楽家の大半が幼少期から英才教育を受けていることを考えれば、異色の経歴である。きっかけは龍谷大学混声合唱団ラポールへの入団。それも、「勧誘で、最初に声をかけてくれたクラブに入ろうと決めていた」と言うから、よほど音楽に縁があったに違いない。ラポールでは指揮をしていたため歌う機会は少なかったが、「楽譜に向き合い音楽を研究する礎となった」と振り返る。現在その縁に応える意味でもラポールの技術顧問となり、一昨年には全国大会銅賞受賞へと導いた。

 大学卒業後は金融機関へ勤務。仕事の傍らオペラの勉強を始めるが、「最初は自分の声がバスなのかテノールかすら、わからないほどだった」と笑う。そして腕試しに、と出場したコンクールで優勝した。さらにはオペラ歌手ブルーノ・ペラガッティ氏の目に留まり、イタリアに招かれて共演することに。才能と縁に導かれたかのようなこのサクセスストーリーを、花月氏自身はさらりと経緯を語るだけだが、華やかな軌跡の裏側には人並みはずれた努力、研鑽があったのも事実。音楽への深い理解に基づいた表現は、やはり一朝一夕に生まれるものではない。


 異色のオペラ歌手にはもう一つ、誰もが驚く肩書きがある。それは僧侶であること。とくに近年は公演活動で各地を飛び回るなか、念仏を題材にした仏教讃歌の録音・演奏を手がけてきた。自身が企画する『念仏コンサート』では、クライマックスにおこなわれる客席参加の大合唱に、純粋な感動と喜びを味わうという。西洋音楽と念仏が本来持っている音楽性を融合させることができるのも、花月さんならではだろう。

 また現在、親鸞聖人大遠忌にあわせたオペラ『幻の如くなる一期』を制作している。歌手活動を続けるなか、長年日本語による日本人のためのオペラが創れないものかと模索していた。そんなあるとき、オペラに日本人の魂を宿すには、私達の暮らしの背景に深く根ざす仏教を音楽の背骨として据えればいいのではないかと考えた。本作では、人間親鸞の 藤や、日々の営みのなかにある念仏をオペラを通じて描きたいと言う。芸術としての「共感」こそが人々の胸に響くと考えるからだ。


 従来の概念にとらわれない活動は昨年起業した『K2オペラプロデュース』でも実現し始めている。オペラと念仏が融合したように、ミュージカル、日本舞踊など垣根を越えて優れたアーティスト達を結ぶことも自分の使命と感じている。昨年発表したCD『二度とない人生だから』でも、いま生かされている一瞬への思いを歌に託した。「私に与えられたものが音楽の才なら、それを活かすことに自ら限界を設けてはいけない」。そう話す表情は開拓者のものだ。

 何ものにもしばられず自由に、しかし人と人との絆、縁を大切にすること。「これは、私が学生時代を謳歌した『龍大カラー』そのものかもしれません」と笑顔を見せる花月さん。これからも自分にしかできない役割を果たしていきたいと語ってくれた。


舞台での花月氏(オペラ「フィガロの結婚」より)
舞台での花月氏
(オペラ「フィガロの結婚」より)


●このコーナーでは、様々な方面で活躍する「龍谷人」を紹介しています。
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