花月さんが音楽に出合ったのは大学に入ってから。プロの音楽家の大半が幼少期から英才教育を受けていることを考えれば、異色の経歴である。きっかけは龍谷大学混声合唱団ラポールへの入団。それも、「勧誘で、最初に声をかけてくれたクラブに入ろうと決めていた」と言うから、よほど音楽に縁があったに違いない。ラポールでは指揮をしていたため歌う機会は少なかったが、「楽譜に向き合い音楽を研究する礎となった」と振り返る。現在その縁に応える意味でもラポールの技術顧問となり、一昨年には全国大会銅賞受賞へと導いた。
大学卒業後は金融機関へ勤務。仕事の傍らオペラの勉強を始めるが、「最初は自分の声がバスなのかテノールかすら、わからないほどだった」と笑う。そして腕試しに、と出場したコンクールで優勝した。さらにはオペラ歌手ブルーノ・ペラガッティ氏の目に留まり、イタリアに招かれて共演することに。才能と縁に導かれたかのようなこのサクセスストーリーを、花月氏自身はさらりと経緯を語るだけだが、華やかな軌跡の裏側には人並みはずれた努力、研鑽があったのも事実。音楽への深い理解に基づいた表現は、やはり一朝一夕に生まれるものではない。
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