龍谷 2010 No.70


青春クローズアップ
 
ボランティア・NPO活動センター
休学の1年は 「自分探し」ではなく「自分創り」

藤澤 良介さん
世界の貧困問題に課題を感じ、ボランティア・NPO活動センターの学生スタッフとして講演会企画などに取り組んできた藤澤さん。3年生の夏、「自分のために、夢のためにもっといろんな経験をしたい」と休学を決めた。彼が思い描く夢とは?
ふじさわ りょうすけ
藤澤 良介さん
経済学部4年生(現在休学中)
和歌山県立橋本高等学校出身

助けを必要としている人がいるなら、その力になりたい
 幼い頃から、貧困問題など世の中の矛盾を取り上げたテレビ番組などがあると、なんとなく気になってよく観ていた。藤澤さんはそんな自分自身を「不思議な想像力があるのかもしれない」と話す。「遠いように思える場所の話でも、まるで自分や身近にいる人のことのように伝わってくる。例えば家族だったら、無条件に助けなければという気持ちになりますよね。いつも、なんだか他人事で済ませられない、といても立ってもいられなくなっていました」
 自分は豊かに暮らしている、その一方、貧困で苦しむ子ども達がこの世界にいる。そんな思いを片隅に抱えながらも、高校までは野球少年として白球を追いかけていた。実際に行動に移そうと思ったのは、大学に入ってからだ。野球とは違う何か新しいことをと考えた時、昔からの「助けを必要としている人の力になりたい」という自分の気持ちに応えてみたくなった。だったら、ちょうど経済学部なので、経済格差と貧困の問題を学びたい。授業以外にも、貧困問題に取り組める活動はないだろうか。そう思ったときに目に留ったのが、ボランティア・NPO活動センターだった。さっそく学生スタッフとなってみた。
 最初にボランティアに駆けつけたのは、新潟中越沖地震。活動としては、炊き出しや避難所でのサポートなどをイメージして向かった。しかし2日間おこなったことは、ボランティア車両の誘導。現実はボランティアが飽和状態で、センターの指示が追いつかず、待機するしかない人が多くいる。その様子を目の当たりにして、「現場のボランティアと同じくらい、仕事を振り分ける役割のボランティアセンターの機能と運営スキルも重要なのだと気づきました」
 自分のように力を貸したい人はたくさんいた。では、自分の「助けを必要としている人の力になりたい」という目的をなるべく大きな形で叶えるためには、ボランティアセンターの位置で、つなぐ役になってその機能を高めること、力を貸したいと行動できる人の数を増やすこと、課題に応じた的確な人材・人力をスピーディーに送れるようにすることだと思った。
 以降、藤澤さんは、ボランティア・NPO活動センターで学生にボランティアを紹介する相談役に回った。またホームレスをはじめ様々な問題を発信するための講演会の企画スタッフとしても参加するようになる。「日本での貧困と言えば、ホームレス問題が代表的です。その現状を自分の目で見ておきたくて、大阪駅や難波駅周辺での野宿者支援活動に参加しました。ホームレスと言っても様々な状況があって、ひとくくりにできないとわかった。けれども世間の人には、その辺で寝ている人のように、大まかな理解しかされていない。その無関心状態を少しでも変えたいという気持ちで講演会企画に関わっていきました」
 そのほかにもフェアトレード講演会を通して身近なことで可能な国際協力を伝えていくなど、同年代に世界の貧困問題について考えてもらう機会をつくっていった。

ウガンダの子ども兵にNPO法人テラ・ルネッサンスを通じて届いた横断幕 まず問題が認知されることが、
解決のための一歩
ウガンダの子ども兵にNPO法人テラ・ルネッサンスを通じて届いた横断幕
 
 講演会のなかで特に思い入れの強かったのが、自ら企画した子ども兵の講演会。自らが1年生の頃に聴講した、「NPO法人テラ・ルネッサンス」の鬼丸昌也氏による子ども兵の話が頭から離れなかった。あの話を、もっと多くの人に伝えなければ。そこで、講演者だった鬼丸氏にコンタクトをとった。「NPO法人テラ・ルネッサンス」は海外で子ども兵の自立支援や地雷撤去支援などをおこなっている。「子ども兵は、絶対にあってはいけない問題だと思ったんです。自分が企画主になってもう一度鬼丸さんに講演をしてもらおう、と3年生の春から準備を進め、秋に講演会を実施しました」
 その講演会では、参加者みんなで、元子ども兵の皆さんにエールを込めて横断幕とビデオレターを作ることも企画し、NPO法人テラ・ルネッサンスを通じウガンダまで届けた。
 鬼丸氏とのやりとりのなかで印象に残っている言葉がある。やはり『様々な問題は、認知されないと解決する力は生まれてこない』ということ。世界の様々なところに、困っている人がいる。それを誰かが知らないと、助けるための力は生まれないのだと改めて思った。

休学の1年で、
次の自分を創りたい
カンボジアスタディーツアーに参加中の藤澤さん
  カンボジアスタディーツアーに参加中の藤澤さん
 誰かの痛みを他人事と思えない。積極的に社会の抱える課題に取り組み、解決のための行動に移す。若者にはめずらしいほど真摯に「この世界」と向き合っているという印象を受ける藤澤さん。この先の自分をどう考えているのだろう。「とても一人ではできないことだし、簡単には言えないことなんですが、究極の夢はやっぱり世界平和。苦しんで亡くなる人を少なくしたいと思うとそこに行きつく。そのための力になれる大人になっていきたいと思っています」でも今の段階では、その手段も思い浮かばないし知識もない。自分がどんな仕事をしたら良いかも明確にはなっていない。自分自身、「今のままでいいのか」という疑問も残っている。
 「振り返ってみると、自分はまだ優柔不断で流されるタイプでした。まだまだ無難な道を歩んでいたように思えるし、このまま一般的な流れに乗って卒業、就職…と進んでしまうとずっと今のままかもしれない。そんな気持ちで就職活動をするのは嫌で、休学することにしました」  逃げなのか、攻めなのかわからないが、休学の1年は、自分を創る年だと思っている。探すのではなく自分で創る。いろんなことを取り入れて、多くの人とのつながりを活かして、納得できるこれからの自分のあり方を創っていきたい、彼はそう語る。
 休学後、彼が最初にチャレンジするのは、ピースボート。大型船で世界を回っていく企画だ。「これまでたくさんの人との出会いがあって、様々な影響を受けてきました。その積み重ねで今の自分があると思っています。ピースボートは、年齢も職業も越えて千人規模で集まる場所なので、また新しい発見があるんじゃないかって。人生観が変わったり、進みたい方向に気づくことができればいいなと思っています。もちろん、いろんな国を自分の目で見てくることも楽しみです」
 世界を巡る80日間は、彼にとってどんな人生の旅となるのだろう。



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