龍谷 2010 No.70


政策とは、目指す未来にたどり着くための手段。それを決めるのは、私達自身。TSUCHIYAMA,Kimie

教員Now
 

土山 希美枝

法学部政治学科准教授 (政策学部准教授就任予定)

つちやま きみえ

土山 希美枝

 

●最終学歴・学位
法政大学大学院社会科学研究科政治学専攻・博士課程修了・博士(政治学)

●専門分野
地方自治、公共政策、日本政治
研究テーマは、変動する社会の構造と、政策、市民、政府の機能。
持続可能な社会のための<政策・制度のネットワーク>である公共政策のありかた。
研究キーワードは都市型社会、社会変動、地方自治、持続可能性。

●主な著書
『高度成長期「都市政策」の政治過程』日本評論社、2007年
『地域人材を育てる自治体職員研修改革』(地域ガバナンスブックレットシリーズ)、
公人の友社、2005年、ほか

●主な活動
「京都市市民参加推進フォーラム」 座長
「草津市自治体基本条例検討委員会」 委員長
「彦根市まちづくり基本条例検討委員会」 コーディネーター

 
多方面で政策の現場に携わる土山希美枝准教授。
歯切れの良い語り口から、 地方自治における政策、今求められる地域公共人材、
新設される政策学部への想いが溢れ出た。
 
自治体の未来への責任は市民にある
 高度成長期の社会変動によって人々の暮らし方も、職業も、利害関係も多様化。市民生活は昔ながらの共同体依存、国主導の近代化を超えて、自治体の政策によって支えられるスタイルへと変わった。いわば自治体の政府化であり、市民が必要としている政策や制度を、市民に代わって自治体が実現しようというもの。「地域のことはまず地域で――ということで2000年の分権改革以降、自治体の役割は制度のうえでも大きく変化してきています」と、土山准教授は語る。
 今や自治体は地域の問題、課題解決に深く関わる地域の政府である。「政策とは、まさにポリシー(方針)であり、今の課題を超えて、めざす未来にたどり着くための手段=Bだから、最後に決めるのは主権者である市民です。自治体の未来への責任は市民にあります」。
 そのためには市民の質や力の向上というものが、重要な課題となるだろう。「市民を教育するという発想はありません」、と言う土山准教授が、若き市民である学生達の教育について語った。
 「知識とか視角とかは教えられますが、人格を教えられると思っていません。それは、学生自身が学ぶもの。私が同じ言葉を発しても、ある学生はそれを大切だと感じ、またある学生は忘れ去る。人格や市民性を形成していくのは、自ら感じ考える、その繰り返しなのです」。
 そして市民に向けた講演などでは、教えるのではなく「伝える」という感覚なのだと言う。今の社会や自治体の位置づけや役割について説明することで見える化≠オていく。
 そして、政策は国や自治体だけのものではない。自ら課題と考えることに自ら取り組む市民の政策が、社会や地域を変える大きな力になっている。多様な人間が混在しているなかで、いろいろな課題を解決していく、それが政策の仕事。
様々な政策関連の委員会で議論に参加する。 様々な政策関連の委員会で議論に参加する。
 
異質な相手とも地域公共人材としてつながることができる
 いろいろな利害や価値観や事情を持つ人間が社会で共に生きている。自分はそことどうつながり、行動し、課題を解決していくのかを考える。これは新設される政策学部のコンセプトでもある。
 「しかし、つながり≠語るうえで前提にしておきたいことがあります。それは、人々の異質性を前提につながるということです」と、土山准教授。昔のように、同じ地域に生まれ住んでいるという同質性につながりを求めるのではなく、まず、お互いの異質性を認め合う。そのうえで、例えばゴミ処理の問題など、社会の政策や制度を共有している人間同士が課題を媒介に地域公共人材としてつながっていく。
 そして、それを可能にするための重要な要素となるのが、〈つなぎ・ひきだす〉能力。自分とは異なる相手と課題や目標を共有し、相互理解や連携、協力、あるいは緊張や対立などを引き出していく。
 「政策とは、めざす未来にたどり着くための手段で、未来は誰にもわかりません。『正解』はないんです。はそこで、みんなで集まって知恵を出し合い、どうやったらめざす未来にたどり着けそうかを話し合い結論を見つけていかねばなりません」。その鍵は対話・議論だ。
 市民参加を得た委員会運営では、濃密な議論を積み重ねることに力を注ぐ。委員長を務めた草津市自治体基本条例検討委員会では、委員会と勉強会で40回、一回が3時間を超えることも珍しくなかった。「時間をかければいいというわけではありません。しかし、正解がないからこそ、市民の多面的な意見を議論で集約していく過程が、『まちの未来』を考える基盤に不可欠なのです」。座長を務める京都市市民参加推進フォーラムも、議論を基礎に進めている。「結論や合意形成の過程を見る。参加する。その拡充が今後の市民参加のポイントだと思います」。同委員会では多様な参加のかたちも模索する。市民団体C-Mediaと協力し、京都市では初の審議会インターネット中継をU-Streamでおこない、Twitterからの意見をとりあげた。
 
何かを生み出せるコミュニケーション力を培う
 新設される政策学部では、学生が自分達で学んでいく「学びのコミュニティ」づくりをめざす。20数人規模の基礎演習を1年生におき、大学での学びの基礎を養う。2年生の前半では、対話・議論で〈つなぎ・ひきだす〉能力を養うため、自分と利害や価値観の違う人とも関係をつくり、そこから何かを引き出す力をつけるコミュニケーションワークショップ演習を経て、後半からゼミに入る。
 「地域政策に関わる職業についても使えるスキルを養う目的もありますが、ある意味、市民として当然の能力でもあり、どんな職業にとっても必要なものではないでしょうか」。
 土山准教授が公共政策や地方自治に関心を持ったのは自身が北海道の旧産炭地に生まれたことに起因する。「故郷は過疎化が激しくて、ここが好きだからここで生きていきたいと思っても叶わない。故郷のようなまちが持続可能であるためにはどうしたらいいんだろう、と考えたのが始まり。今も自分にとって大きな課題です」。
 自らの課題を見つめるうえでも、新設学部の活動に期待を込める。
 「政策学部では、学生の皆さんに政策について深く考え、話し合い、結論を見出す、その面白さを知ってもらいたい。私達は、「今」の課題を超え、めざす未来にたどり着くこと、そのためにつながることができる。それは人を元気づけ、輝かせることだと思っています」。
龍谷大学LORC主催 「議員のための政策提案能力短期研修」の様子 龍谷大学LORC主催
「議員のための政策提案能力短期研修」の様子
 

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