龍谷 2010 No.70


政策とは、目指す未来にたどり着くための手段。それを決めるのは、私達自身。TSUCHIYAMA,Kimie

教員Now
 

土山 希美枝

社会学部社会学科教授

わき た けんいち

脇田 健一

 

●最終学歴
関西学院大学大学院社会学研究科博士課程・
後期課程単位取得満期退学・修士(社会学)

●専門分野
環境社会学、地域社会学、地域社会・地域づくり論、文化遺産の社会学

●主な著書
『流域環境学-環境ガバナンスの理論と実践』(共著)京都大学学術出版会、2009年
『むらの社会を研究する フィールドからの発想』(共著・日本村落研究学会編・
鳥越皓之責任編集)農山漁村文化協会、2007年
『文化遺産の社会学』(共著)新曜社、2002年ほか

●主な活動
「大津エンパワねっと」推進委員
「滋賀県琵琶湖総合保全学術委員会」委員

ツイッターアカウント @wakkyken

 
 2007年からスタートした「大津エンパワねっと」では、滋賀県大津市域が抱える様々な課題に取り組んできた脇田教授。昨年からは「農学連携」をめざして、新たに「北船路米づくり研究会」を立ち上げた。今、農村が抱える多くの課題に、学生達が主体となって懸命に向き合っている。
 
めざすはプチ<Oリーン・ツーリズム
 「文献から学ぶことも大切ですが、自分の足で歩き、見聞きした一次情報から得るものはとても大きい。フィールドワークを通じて知る公共的な課題は、その地域で学ぶ学生達自身の課題でもありますからね」そう話す脇田教授は、社会学部のモットーである「現場主義」を単なる理念にとどめず、具体的にゼミの取り組みとして展開させていこうとする。
 「農家の高齢化や後継者問題、農作物の流通方法など、現在、農村地域が抱えている課題は少なくありません。特に北船路(大津市八屋戸北船路)では、農作業が難しい棚田の保全課題も深刻です。私や学生達にその全てを解決することはできませんが、地域の方々と一緒に考えることはできる。そんな自分達の限界を理解したうえで研究会での活動を謙虚に『プチ<Oリーン・ツーリズム』と呼んでいます」
 脇田ゼミの学生達が指導農家とともに米や野菜を育て、地域のイベントにも積極的に関わるこの活動は、たんに農業体験にとどまらず、農村地域全体の活性化を視野に入れたものだ。昨年は収穫した米と里芋を「龍大米」、「龍大芋」と名付けて、学生達自身で京都市内のカフェやレストランに出荷して好評を博した。
 昨年は北船路の農家の皆さんとの信頼関係構築を中心とした、北船路米づくり研究会の土台づくりに終始した。2年目となる今年は一歩前進して地域活性化につながる三つの提案と活動をおこなうという。
 「まず一つ目は『レストランプロジェクト』。これは大津市内にある4軒のレストランに協力を仰ぎ、北船路で生産した農作物を使ったメニューで競演してもらうというものです。また二つ目の『農作物プロジェクト』では、農村地域に隣接する新興住宅地の住民に生産者の顔が見える農作物をアピールして地産地消を促進するというものです。このプロジェクトでは農作物を媒介として新旧両住民のコミュニケーションを活性化させることも大きな狙いです。そして農作物を使った加工食品を商品化する三つ目の『特産品プロジェクト』は、農作物の付加価値について考えてみようというものです。これらの三つの活動を通して、棚田のある北船路を訪れ、野菜を買い求めにくる方達を増やし、農村と都市との交流を促進できればと思っています」
 「これらのプロジェクトは北船路の将来につながる『種(シーズ)』」だと話す脇田教授。「速効性はなくとも情熱を持って継続することでいつか必ず実を結ぶはずだ」。今、一番楽しい時間は?という質問に「学生と一緒に農作業をしているときですね」と答えた。
 「指導農家の方々に鍛えられて日々成長していく学生の隣を伴走できるのは教員としてとても幸せなこと。それに、豊かな自然のなかで思いっきり汗をかくのは本当に気持ちが良いんですよ。家では妻に『あなたは好きなことが仕事で良かったわね』っていつも笑われています」
琵琶湖を一望できる比良山麓に広がる北船路の棚田 様々な政策関連の委員会で議論に参加する。
 
「見えない壁」を越えて
 

脇田教授が「北船路米づくり研究会」を立ち上げるきっかけとなったのが、インターネットを通じたコミュニケーションだった。
 「私が参加しているSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で知り合った方が北船路の兼業農家だったんです。最初はその方の素性は何も知らずにお付き合いをしていたのですが、話題が大津市域の課題点や地域活性化に及んだとき、『北船路の農村活性化について、龍大と何か一緒に取り組みができないだろうか』と連絡を頂いたんです」
 脇田教授はこの出会いを「ご縁」と呼んで感謝の気持ちをあらわす。
 「『大津エンパワねっと』が誕生した一つのきっかけは、社会調査実習で知り合った地域の方々との『ご縁』でした。偶然と言ってしまえばそれまでですが、私達に課題を示し、活動を支え続けてくださっている地域の方々との出会いは『地域共生』を理念に掲げる瀬田学舎にとって大きな財産です」
 地域社会の公共的課題を解決するためには、日頃、関わりの無い人達との間に積極的な連帯が生まれることが重要となる。脇田教授は、地域と大学の間の「見えない壁」を乗り越えて学生達が主体的に地域の人々と交流し、課題解決のために議論を重ねることで、北船路米づくり研究会は成長していくはずだと話す。
 比良山麓に広がる北船路の棚田からは琵琶湖を一望することができる。脇田教授は、夕暮れどきに作業の手を休めて赤紫色に染まったその湖面を眺めていると、あらためてこの地域の大自然の豊かさに心動かされるという。
 「そんな美しい景色を眺めていると、まだまだ北船路でやりたいことがたくさん思い浮かぶんです。ただ、それを実現するのは私じゃない。学生達が考え、地域に提案しながら少しずつかたちにしていくことが大切です。私の役割は、例えていえば、学生達が田んぼの畦から落ちないように、そっと手を添えながら見守り続けることですね」

 

※グリーン・ツーリズム
都市と農村や漁村において、それぞれの住民が交流し「人・もの・情報」を分かち合う取り組み。
地域の魅力を理解し合うことで互いの活性化を図る。

 
龍谷大学LORC主催 「議員のための政策提案能力短期研修」の様子 レストランのメニューとなった 「龍大米」と「龍大芋」
 

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