龍谷 2012 No.73

龍谷大学 龍谷ミュージアム
 
春季特別展「仏教の来た道」4月28日(土)?7月16日(祝) 東西文化が交差するシルクロードから仏教伝潘の様相を知る
 
入澤 崇
いりさわ たかし
入澤 崇
龍谷ミュージアム 副館長
龍谷大学文学部 教授
 

龍谷ミュージアムが開館して1年。開館記念展「釈尊と親鸞」では、仏教の誕生から伝播の様相を紹介し、その多彩な展示は多くの来館者に仏教の新たな側面を伝えた。そして4月28日からは「仏教の来た道」と題して、シルクロードにおける仏教の広がりを紹介する特別展(共催:読売新聞社)が開催される。東西文化が交差する中央アジアで仏教が展開していく様相を、数多くの文物と大谷探検隊が日本にもたらした貴重な資料によって伝える。

 
文明としての仏教を知る
 「2011年度の『釈尊と親鸞』展は開館記念展ということもあって、まずは龍谷ミュージアムの方向性を知っていただくことが大きな目的でした。そういった意味では、今回の特別展が龍谷ミュージアムが本格的に始動する実質的な第一歩であると言えます」。そう話すのは、副館長の入澤崇教授だ。
 およそ2500年前にインドで誕生した仏教が中央アジアに広がりシルクロード全域に伝播した過程には、多様な民族や言語を包み込んだ東西文化の交流があった。今回の特別展では、その様子を宗教的な側面だけではなく、かつて中央アジアに暮らした人々の歴史や風俗、芸術などの多角的な切り口で紹介する。
 「今回の展示で私達がもっとも伝えたいことは『文明としての仏教』です。古代の中央アジアは数多くの民族が行き交いました。多民族社会にあって、民族の違いを乗り越えて仏教は広まったのです。中央アジアでは、ほかにも、キリスト教やマニ教、ゾロアスター教などが信仰されていましたが、仏教はそれら異宗教から刺激や影響を受けています。異質なるものを排除しない。これぞ文明の証しです。仏教の芸術作品は異文化交流の証言者といってもいいものです」
 
 例えば、壁画や石製レリーフ。ガンダーラ仏教美術にはギリシア・ローマ的な特色がみてとれるし、ウイグル族の特徴とされる極彩色の壁画には、インド、トカラ、さらには中国的な要素も見出せる。2階展示室に復元されたベゼクリク石窟第15号窟の壁画に描かれたブッダは、全てネックレスを身につけている。しかし通常、仏像は装飾品を身につけない。壁画を描かせたウイグル族はもともとマニ教徒で、壁画はマニ教の影響を色濃く受けている。展示空間に入れば、仏教が異文化と融合した様子を目の当たりにできる。

マニ教六道図(大和文華館)


如来三尊像(東京国立博物館)

 「大谷探検隊が中央アジアから持ち帰った経典資料だけでも15種類の言語が確認できます。現代では、歴史や文化を考えるときに国単位でものごとを区別しますが、当時は国境という概念がありません。これまでの『国で見る仏教史』の先入観を取り払い、より広い地域での文化の交流を感じていただけたらうれしいですね」
 今回の特別展で数多く展示されるシルクロードの優れた仏教美術は、当時の中央アジアにおいて、いかに高度な精神性が行き渡っていたかを物語っている。既存の宗教を持つ地域で仏教が広く受け入れられたのは、仏教が対話を重んじ、異文化を大きく包み込んだからであると入澤教授は語る。
 
かつて存在した人々の息遣いまでをも感じる展示
 今回の特別展の見どころの一つが西本願寺第22世宗主、大谷光瑞師が率いた、大谷探検隊がもたらした貴重な資料だ。  
 アジアで初めての学術探検隊として活躍した大谷探検隊は、1902年から1914年まで3度にわたり中央アジアに赴いて現地で精力的な調査をおこなった。まだ日本に、地理学や考古学といった学問分野が確立されていなかった明治時代、いかにして大谷探検隊が組織され、どのような現地調査をおこなったのか。今回はこれまで知られなかった大谷探検隊の概要とその調査成果を紹介し、隊員一人ひとりの人間性をも浮かび上がらせる展示となる。  
 「当時、アフリカと並び世界で『地理上の空白地帯』と呼ばれていた中央アジアに、ヨーロッパ各国は政治的な思惑を持ちながら探検隊を派遣しました。そんななか、大谷探検隊は仏教徒としての純粋な使命感で調査に臨んでいます。当時、日本の仏教は廃仏毀釈によって弾圧され、かなりの打撃を受けていました。大谷探検隊は、かつて仏教が隆盛を極め、そして荒廃した歴史を持つ中央アジアの調査を通じて、今後の日本の仏教のあり方、復興への手がかりを掴もうとしていたのです」
 また、大谷探検隊が持ち帰った調査成果は仏教分野だけにとどまらず、中央アジアの文化研究において膨大な知見を日本にもたらしている。とくに、今回展示される隊員の調査日記には、当時の中央アジアで暮らしていた人々の営みが活き活きと記録されており、風俗資料としても一級品だ。  
 「大谷探検隊には調査の全貌を記した正式な報告書も無く、現地での探検の様子もこれまであまり知られていませんでした。隊員達の日記には、現在ではすでに失われてしまった遺跡や寺院の内部などを克明に描いたスケッチも多く見られ、貴重な資料となっています。また、隊員達が実際に使用していた装備品の展示も見どころです」  
 荒廃した仏教遺跡に初めて足を踏み入れ、顔が破壊された石仏を目の当たりにした大谷探検隊の隊員達は、そのあまりの無残さに涙したという。
 今回の特別展で紹介されている文物の数々からは、中央アジアの歴史のなかで仏教の盛衰に立ち会った人々の息遣いを、きっと感じることができるだろう。

《展示構成》
第1章 仏教の源流
第2章 西域の仏教文化と多様な宗教
第3章 中国への伝播
第4章 西域の文字と言語
第5章 大谷探検隊と仏教伝播の道

 
企画展
「良如宗主と龍谷大学の歩み」
4月6日(金) ­ 4月18日(水)
 春季特別展「仏教の来た道」に先駆けて、4月6日からは企画展「良如宗主と龍谷大学の歩み」が催される。良如宗主は本願寺13世宗主として学寮を創立し、現在に続く龍谷大学の礎を築いた。373周年を迎え、我が国屈指の歴史を誇る本学の歩みを学ぶまたとない機会だ。
春季特別展
「絵解き」(仮題)
10月13日(土) ­ 11月25日(日)(予定)
 10月には秋季特別展として「絵解き」をテーマにした展示がおこなわれる。日本の仏教で古くから布教のために用いられてきた絵伝などを紹介するほか、実際に解説をおこなう絵解きの再現なども実施する予定だ。

龍谷ミュージアムはこちら


←トップページへ戻る