忘れない、忘れさせない 東日本大震災支援を続ける『ともいきDAN』

震災の影響を受けた子どもを支援「ともいきDAN」
上野 敏寛(うえの としひろ)さん  大学院政策学研究科修士課程2年生 比叡山高等学校出身
南 有紀(みなみ ゆき)さん  文学部2年生 大阪教育大学付属高等学校天王寺校舎出身
大門 篤(だいもん あつし)さん  社会学部4年生 日吉ヶ丘高等学校出身
石原 竜太(いしはら りょうた)さん  法学部5年生 甲西高等学校出身

忘れていくには、早すぎる

世界各地で、止まることなく様々な事件が生まれている。メディアは新しいニュースの報道に躍起になり、昨日までの出来事は人々の心から消えていく。これが私達の毎日だ。

東日本大震災から、1年半の月日が経過した。昨年の3月には、世界中の人々があれほど心を痛めたというのに、いまや被災地の情報は減り、我々の関心も薄まっていると言わざるをえない。しかし、大切な人を失った方は心を痛めたままで、家を失った方は仮設住宅で、今日も慣れない日々を送っている。

まだ震災は終わっていない。そんなメッセージを発しながら、継続的な被災者支援をおこなっているのが、龍谷大学の学生、教職員からなる有志の復興支援プロジェクト『ともいきDAN』だ。震災以降、様々な活動をしていた学生達が、「何らかの形で支援を続けたい」と集まり、昨年発足した。ボランティア団体は学内にいくつかあるが、『ともいきDAN』は、活動対象を東日本大震災の支援のみに絞っているのが特徴だ。現在活動しているのは、約15名。中心となって活動している石原さん、上野さん、大門さん、南さんの4名に集まってもらい、話を聞いた。

3671個のカイロに込めた想い

大門「昨年の夏、ボランティアで岩手へ行きました。行くまでは、イメージが全くできず、何ができるのか漠然とした状態でしたが、実際に現地で活動をしてみたら、自分にもできることがたくさんあったんですよね。もっともっといろんなことができるんじゃないか、仲間や活動の幅をひろげたい、そう思っているときに出会ったのが、『ともいきDAN』でした」

今年の1月には、「ほっとぬくもり届け隊!」と題して、使い捨てカイロ募金をおこなった。集まったカイロには、京都の小学生にメッセージを書いてもらい、一つひとつに添付した。届けたかったのは温もりと、「忘れていないよ」「応援しているよ」という想いだ。

「被災地で活動しているとき、おばあちゃんが震災の写真をたくさん見せてくれて驚きました。私は封印したい記憶なんじゃないか、と勝手に思っていたんです。でも、知ってほしい、話したい、という気持ちを持っている方が、意外にもたくさんいらっしゃった。そして、忘れられていくんじゃないか、と心配される方もとても多かったんです。だからこそ、忘れてないよ、という気持ちを届けたい、と思いました」

上野「目標はカイロ1000個としていたのですが、実際はそんなに集まらないだろうな、と思っていたんです。それが、やってみたら、3倍以上の3671個も集まった。深草と瀬田のキャンパスでカイロ募金を実施したのですが、一人で50個以上も持ってきてくれる人も。学生だけでなく、私達の活動が載った新聞を見た地元の方が、両手にたくさんのカイロを抱えてきてくださったこともあり、感激しました」

集まったカイロは、被災地の小中学校や本願寺仙台別院へ郵送され、寒さの厳しい東北の心と身体を温めた。

また、京都に避難している子ども達が孤立しないように、と「東北子ども会」という活動も立ち上げ、子ども達と京都の観光地へ遊びにいったり、八ツ橋づくりなどを通して交流。京都水族館に行ったときは約40人もの子どもが集まって、わいわいと楽しい時間を過ごした。このときは同時に、保護者の交流会も実施。なかなか周囲とコミュニケーションがとれずに困っていたお母さん達から、とても好評だったという。

石原「京都へ避難してきたということは子ども達にとってマイナスの記憶かもしれない。でもそれが少しでも楽しい思い出に変わればと思ってはじめました」

ボランティアのあるべき姿とは

これらの活動が新聞やラジオにも取り上げられたことから、NPOや行政の間でも『ともいきDAN』の名が広まり、物産展や募金活動など、様々な活動の依頼が舞い込むようになった。活動のたびに新たな出会いがあり、学外のネットワークも広がっている。

大門「ボランティアをしていると、偉いね、すごいね、なんて言われますけど、僕達は、特別な大義名分があるわけじゃない。ただ、子ども達の楽しそうな姿が見たいな、というくらいの気持ちでやっているんです。喜んでくれる人がいたら嬉しいですから。でも、そんな単純な喜びから自分達も、たくさんのエネルギーをもらっているんですよね」

前向きに活動を広げる『ともいきDAN』だが、なかなかメンバーが増えないという課題も抱えている。現在の主なメンバーは4年生と大学院生。新1年生への呼びかけがなかなかうまくいかないまま、立ち上げメンバーだった先輩達が卒業する。代替わりするごとに、想いも薄れていってしまうんじゃないか、そんな危惧もある。

石原「ボランティアのあるべき姿って難しい。強制してやってもらうものではないので、入団を勧誘するのもおかしいような気がするし」

純粋な気持ちで活動したいという学生らしいまっすぐな気持ちと、現実がなかなか折り合わないようだ。しかし東日本大震災が、私達の記憶から薄れないように活動している『ともいきDAN』の存在は、我々に何かとても大切なことを伝えているような気がした。悩みながら、迷いながらも、納得のできる活動方法を見つけ、これからも力強く活動を続けてほしい。