龍大生×地域

学生ならではの柔軟な発想、そして若いエネルギーが、地域社会の行き詰まった問題を解決するカギとなることが多くある。また、最初は戸惑いを感じながら取り組んでいた学生達も次第に、「社会人力」と言われるコミュニケーション能力や、チームワーク力を身につけていく。地域と大学が共生し、双方向に好循環な関係を築きながら、新たな「市民社会の担い手」を育成する活動が今、活発におこなわれている。その事例を紹介しよう。

#01.らくなん進都

食で町おこし《らくなん大食堂》

経済学部では、2009年以来、京都市都市づくり推進課の協力を得て、京都市南部のまちづくりの先導地区である「らくなん進都」(油小路通沿道を中心としたエリア)で、学生が様々な活動をおこなっている。

辻田先生「もともとこの地域は、企業を誘致して産業集積型の地域を作るという構想で、市が長年取り組みを進めていましたが、なかなかうまくいかないということで、近隣である龍谷大学に、学生目線での提案をしてほしいという要望がありました」

そこで辻田ゼミのメンバーが立ち上がり、住民や企業にアンケート調査を実施。そこで見えてきたのが、企業、住民、行政の一体感や、地域に根ざす感覚が薄いということだった。

永井「実際にこのエリアを歩いてみると飲食店がとても多い。九条ネギ、万願寺唐辛子など京野菜の産地としても知られており、食品加工の会社も集まっている。そこで、誰もが興味を持ちやすい『食』をキーワードに、地域が一丸となれる企画ができないかということになりました」

そこで考えたのが、食べ歩きマップの作成だ。タイトルは、親しみやすい昔のデパートの食堂をイメージして『らくなん大食堂』と名付けた。

中西「マップに掲載されることで、飲食店の方々に「らくなん進都」の一員としての意識が生まれることを狙いました。そこから交流が生まれ、京野菜を使ったオリジナルメニューの開発や、食べ歩きツアーの企画などにつながれば、地元が盛り上がり、売り上げも上がる。そんな仕組みができれば、〝らくなん進都〟のPRにもなるのでは、と考えました」

『らくなん大食堂』に掲載したのは24店舗。3年生を中心に、手分けして各店を訪ね歩き、人気メニューやスタッフの声など生の情報を集めた。

永井「龍大の近くに住んでいても、地域と関わることがなかなかないので、良い経験になりました。取材はむちゃくちゃ緊張。写真を撮る前に料理を食べてしまい、もう一回頼んだことも(笑)」

湯澤「店長さんが店のこだわりなどを、生き生きと話してくれたのが印象的でした。お客さんの立場では、わからない側面を知ることができたのが良かったです」


#02.大山崎町

密林化した竹林を整備せよ!

古来より、天然資源として日本の生活を支えてきた竹が、今、森林関係者の頭を悩ませる厄介ものとなっている。竹の生長速度は驚異的で、毎年地下茎で7~8mも伸び、ほかの植物よりも早く養分を吸って生長する。やがて単一の林を作り、薮化して人が入れなくなってしまうのだ。

そんな竹林をはじめ、京都府の森林を守り、育てるため、2006年に設立されたのが、公益社団法人京都モデルフォレスト協会だ。この活動は、企業・行政・大学機関と市民が共同で森林づくりをおこなうという、日本初の画期的な試みであり、すでに多くの森林ボランティア達が、間伐や植樹に取り組んでいる。

この活動を環境サイエンスコースの「環境フィールドワーク」の授業の一環として取り入れようと、本学も、大山崎町が実施する天王山周辺での里山林の整備活動に協力することとなり、今年の3月に、龍谷大学、大山崎町、京都モデルフォレスト協会の三者で協定が締結された。

京都府全域の竹林面積は1・5%。対して天王山は40%にもなる。かつて豊臣秀吉と明智光秀が戦い「天下分け目の天王山」と言われた地も、今でははびこる竹によって、分け目もなにも、立ち入ることすら難しい場所もあるそうだ。「環境フィールドワーク」を履修する学生は、この天王山で地元ボランティアの方々とともに、伐採や竹の子採りなど2回の実習をおこなった。

北山「まず、山が急斜面すぎて登れないのです。竹にしがみつきながら、なんとかという感じ。山の所有者や地元の方々はご高齢の方が多いので、これは大変だなと思いました」

古角「伐採体験では、ノコギリで竹を切り倒し、切ったものをさらに小さく玉切りにしていくのですが、思ったよりも手間がかかるし、力がいる。汗だくになるまでやっても、思ったほど本数は切れず、この果てしない作業には人手がいるな、と痛感しました。また、終わってから地元の方に昔の生活や、竹の活用法を聞けたのが良かったです。僕達もどうしたら利用が増えるか、アイデアを出しあいました」

切った竹は、竹細工だけでなく、バイオマス発電に使用するなど、様々な研究が進められているが、いずれも人件費がかかりすぎる。

谷垣先生「昔は食料として食べられていましたが、現在は安価な輸入ものが増え、消費が減っています。竹細工はいつしかプラスチック製品に変わり、いまや安い中国製品には勝てません。目の前の問題はもちろん、構造的な課題も解決せねばならないのが、難しいところですね」

北川先生「地域の課題を、みんなで解決しようという動きが出てきたのは素晴らしいこと。そんなやり方を学生には見てほしいです。天王山はサントリーなど、民間企業も力を入れて活動されているので、ともに活動をする機会も作っていきたいですね。また、私達は瀬田にある龍谷の森でも里山の研究をしておりますので、その研究成果を天王山に還元していけたらと考えています」

ようやく現状が見えてきたばかりの活動であるが、見つかった課題を通して、様々なことを考える過程も大切な学びとなるだろう。今後は教職員も参加して、龍大としての活動に拡大していく予定だ。