広報誌「龍谷」

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2010年に『デフレの正体』、2013年に『里山資本主義』を出版。マネー資本主義一辺倒への異議申し立てと脱却の方法を提示し、里山の可能性を世に知らしめた藻谷浩介氏が赤松学長と語る。

若い人ほど時代に敏感

赤松:『里山資本主義』は、お金だけでない価値を語り、新しい日本社会と地域のあり方を示すものでした。今の学生はバブルが崩壊した1990年代に生まれ、価値観が激変する真っただなかで、生きづらさと閉塞感を抱えて生きています。大学もまた葛藤を抱えて教育に向き合っています。若者や大学の現状をどうご覧になっていますか。

藻谷:若い人の方が時代の変化に敏感なのでは。20代以下の若者は、「お金だけでは幸せになれない」と直感している。僕の本でも『デフレの正体』は経済人に多く読まれたが、『里山資本主義』は若い人が読者でした。最初は驚きましたが、でも御学の農学部を選ぶ若者もそうでしょう。「農学部っていいよね」というのは、僕が各地で出会う20代の子達に共通する感性です。


赤松:本学は昨春2015年4月、私立大学では35年ぶりに新たに農学部を開設しましたが、今年2年目を迎え、おっしゃるとおり学生も非常に元気がよく、時代に敏感ですね。志ある若者が、土に触れる身体体験から、命を支える食と農とその循環を見つめ、道理も人情も矛盾もひっくるめて、社会の持続可能性を追究しています。文理融合型で、土壌、バイオから管理栄養士をめざす学生まで、全学生が稲刈りや田植えを体験します。これからの管理栄養士はカロリー計算だけではいけないと考えるからです。

藻谷:さすが龍谷!と言いたくなるご慧眼です。 昔の農学部がめざしたものは食糧増産、カロリー生産でした。しかし御学のいう「食」はもっと大きなもの。今後の日本にとって非常に重要なものです。数値化された栄養素を過不足なく食べていればOKという考え方では、日本の食を守ることはできません。団塊の世代が75歳を超える10年後までに、主として大都市圏で後期高齢者が急増します。つまり、福祉施設に入ったりデイサービスを利用したりして、家で自炊せず給食に依存する人口が、この先、急速に増えるのです。 ところが、福祉施設の給食は管理栄養の世界です。そこに食糧はあるが、「食」はない。1円でも安く規定の栄養素を揃える発想はあっても、地産地消や里山的な循環を尊重する考えはないのです。食の全体像を総合的に把握した管理 栄養士を、御学で育てておくことが、日本の食を守るために重要ですね。

広報誌「龍谷」2016 No.82(Ryukoku University Digital Libraryへ)


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現地学生と徹底的に議論 ハードな留学が学生を変える 国際学部 グローバルスタディーズ学科  松村 省一 教授

世界最高水準の学びへ

「日本で一番勉強する学科」を標榜するグローバルスタディーズ学科(以下、GS学科)で は、提携する英語圏8大学などへの留学が必修となっている。2年次に予定する留学に備えて、1年次でReading、Writing、Oral Communicationなどを集中的に鍛え、基礎的な英語能力を身につけるとともに、プレゼン テーションやディベートなどの能力を身につけるトレーニングをおこなっている。

提携留学先は、過去に数多くのノーベル賞受賞者を輩出したアメリカの名門、カリフォ ルニア大学バークレー校や、オーストラリア名門8大学の一つに数えられるモナシュ大学をはじめ、世界最高水準の大学が名を連ねる。GS学科の留学で特筆すべきは、留学先提携校での正規専門科目の履修を推奨している点にある。海外大学の付属機関で英語を学ぶ「語学留学」とは異なり、現地の一般学生と机を並べて同じ授業を受講するのだ。留学 期間は1セメスター(現地での授業は15週間程度。留学校により異なる)以上あり、単位取得は容易ではない。

カリフォルニア大学バークレー校のサマーセッションプログラムに参加中の2年生を訪ね た松村省一教授は、「学生達は質・量ともにこれまで体験したことのない学びに苦労しながらも未知の体験を楽しんでいました」と話す。「通常、1学期でおこなう授業を1カ月に凝縮しておこないますので、息つく暇もない様子でしたね。毎日のように膨大な資料を読み込み、翌日の発表やディスカッションに備えるため、学生達は『時間がいくらあっても足りません』と口を揃えていました。とは言え、仲の良い友人ができたり、イベントへと足を運んだりと生活も満喫しているようです。勉強だけではなく、幅広い視野を身につけて帰ってくることも留学の大きな目標ですから、様々な体験から学んできてほしいですね」

広報誌「龍谷」2016 No.82(Ryukoku University Digital Libraryへ)


レイサ・モレノさん

母国 カーヴォベルデの経済発展の可能性を探る レイサ・モレノさん 経済学研究科博士後期課程3年

アフリカ島国の省庁勤務からの国費留学生

経済学研究科では、これまで国外の様々な地域から留学生の受け入れを、継続的に実施してきた。そのなかで2014年にカーヴォベルデ(アフリカ)より国費留学生として博士後期課程に入学してきたのがレイサ・モレノさん、28歳。

プライベートでは日本人学生とシェアして住んでいる一軒家から大学に通い、 最新設備が整った深草キャンパスの図書館でパソコンや資料を開く。研究室のドアをノックし英語で研究の進捗報告、マスター向けでも興味のある講義には出席。学外の交流会に出かけては様々な留学生と知り合い、ツテをたどって企業にアポイントメントをとり、研究関連のインタビュー。学会の事務局スタッフに連絡をとり情報収集し、海外での国際学会で論文のプレゼンテーション。モレノさんの日々は充実している。

彼女は高校卒業後、フランスのリール第一大学に留学し経営学を学んだ。修士課程を出た後、カーヴォベルデの財政企画庁に勤務していたが、日本への国費留学のチャンスを手にし、本学の西垣泰幸教授のもとで学ぶことを志願。京都にやってきた。

研究テーマは「サービスセクターにおけるイノベーション:新製品開発と経済成長」。それは発展途上の母国カーヴォベルデの事情に由来している。

カーヴォベルデはアフリカ西海岸のさらに西に浮かぶ、人口50万人ほどの小さな島国。大航海時代以降、アメリカ大陸への中継貿易港だったのがはじまり。長くポルトガル領であったが、つい40年ほど前に独立した。アフリカ大陸の他の国々に比べると天然鉱物資源なども少なく、他国からの直接投資が望めない。このように成長資金がない国が今後経済発展を遂げていくにはどうすればよいのか?彼女は財政企画庁での勤務時代に直面した課題に対して、第3次産業の技術開発をテーマとした研究によって挑むことにした。

西垣泰幸教授の指導の様子

広報誌「龍谷」2015 No.80 最新号

広報誌「龍谷」2016 No.82

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