龍谷大学付属平安中学校入学式学長祝辞

2012.04.05

龍谷大学付属平安中学校の新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。夢と希望に溢(あふ)れる未来に向かって、今日(きょう)、新しいスタートを切った皆さんに、龍谷大学を代表して、心からお祝いを申しあげます。 また、保護者の皆さまにもお祝い申しあげます。お子さんの学びは、これから本格的に深まっていきます。中等教育を通じて、豊かな人間性と基礎学力を身につけることができるよう、篤い期待を抱(いだ)きつつ、温かく、しっかり見守り、支えてあげてください。

さて、去年の3月に起きた東日本大震災から、1年が経ちました。1年前、だんだんと明らかになっていく被害の大きさに、私たちは言葉を失いました。その一方で、想像できないほどの苦しみや悲しみを経験したたくさんの人が、それでも立ち上がり、がんばって生きていこうとする姿や、そういう人たちを一生懸命助け、支えようと活動するボランティアの姿は、私たちに確かな希望を与えてくれたのではないでしょうか。

それだけではありません。世界各地にまで広がった支援の輪は、実は私たちが世界中の人たちと繋がっているのだということ、お互いに支え合いながら生きているのだということを、改めて教えてくれました。特に、決して裕福とは言えず、これまで日本がさまざまに援助してきた「発展途上国」からも多くの支援物資やお金、励ましの手紙が届けられたことの意味は、とても大きいと思います。かつて国連の難民高等弁務官という大変重要な仕事をされていた緒方(おがた)貞子(さだこ)さんは、「他者を助けることで、彼らも我々を支えてくれる」こと、言い換えれば「互いに依存していること」がいかに重要かということが、震災の困難を通じて、よりよく理解されるようになったのではないか、とおっしゃっています(*)。

龍谷大学と同じく、仏教の精神に基づいて、心の籠もった教育を展開している付属平安中学校に入学された皆さんは、人のことを思いやり、悲しみや喜びを分かち合うことの大切さを理解した上で、行動することのできる人にきっとなれると、私は信じています。

皆さんは今日(きょう)、いろいろな夢や希望に胸を膨らませて、この龍谷大学付属平安中学校の門をくぐってきたと思います。同時に、不安で心が一杯かもしれません。新しい環境に慣れるまで気分が落ち着かないとしても、それは当然です。誰でも最初は大変です。今たまたま皆さんの隣に座っている人も、同じはずです。

回りをよく見てください。皆さんには支えてくださるご家族がいます。毎日毎日、生徒一人ひとりと真剣に向き合い、熱心に教えてくださる先生方がいます。そして、ともに学ぶ仲間がいます。困ったら力を借りる。悩んだら相談する。迷ったらアドバイスをもらう。自分一人ですべてを抱え込まずに、必要に応じて周囲の人の助けを求めることも大切です。まずは、隣にいる人、あるいはすぐ前の人、後ろの人と友達になって、夢を語り合ったり、不安なことを相談し合ったり、勉強のしかたを教え合ったりしてみてはどうでしょうか。お互いに高め合い、学ぶことの面白さや知ることの楽しさを分かち合える友達は、皆さんにとってかけがえのない宝となります。“ともに学ぶ”仲間ほど、心強い存在はありません。

これからの3年間は、子供から大人へと成長する大事な時期です。努力しても、すぐによい結果が出ず、あせることもあるでしょう。しかし、人は試行錯誤を繰り返しながら成長するものです。今は、躓(つまづ)いたり転んだりしながら、そういう経験も自分の力にして、いろいろなことを学んでいく時です。すばらしい先生に導かれ、充実した施設で勉強できるという、恵まれた環境は整っています。どうぞ、有意義な中学生活を送り、確かな学力を身につけながら、力強く、かつしなやかに前に進んでください。そして、次の3年間、つまり高校での学びへ、さらに6年後には龍谷大学をはじめとする大学での学びへと、たくましく羽ばたいてください。

龍谷大学は、1639年に本願寺の境内に開設された「学寮」という教育施設を起源とし、以来、370年以上にわたって、親鸞聖人の精神を大事にしながら教育・研究に取り組んできました。現在では、すぐ隣にある文学部をはじめとする8つの学部を中心に、約2万人の学生が集う総合大学へと発展しています。

皆さんが、そうした誇るべき歴史と伝統を有する龍谷大学付属平安中学校の一員としての誇りと自覚を持って、実り豊かな中学生活を送られることを、そして皆さんの前途に輝かしい未来があらんことを願って、私の祝辞といたします。

龍谷大学の付属高校であることのアドバンテージを活かして、実り豊かな高校生活を送られることを、そして皆さんの前途に輝かしい未来があらんことを願って、私の祝辞といたします。

本日は、まことにおめでとうございます。

2012年4月5日

龍谷大学学長 赤松 徹眞


(*) 『朝日新聞』2012年3月12日朝刊、オピニオン欄の「私の視点」による。

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