今年は麻疹が学生の間で大流行し、ちょうど4月から6月にかけての大切な新学期に学校閉鎖や休講が続出しました。麻疹は感染から約10日間の潜伏期を経て、熱発や咳などの風邪症状の後に高熱と全身の発疹が出現するウィルス感染症です。病原体である麻疹ウィルスは人から人へ、咳やくしゃみからの飛沫や分泌物への接触で伝染します。飛沫は、通常は1m以内で下に落ちますが、飛沫中のウィルスは落ちずに空気中に漂い、講義室のような大きな部屋のなかでも2時間ほど感染力を保つと言われています。ウィルスは鼻やのどの粘膜に付着・侵入し、その近くのリンパ節から全身のリンパ組織に拡がり増殖します。粘膜付着・増殖を経て風邪症状が出るまでが潜伏期です。ウィルスは体内で十分に増殖していますから潜伏期の終わりから風邪症状期の間は他人に対する強い感染力を示します。この三日ほどの風邪症状期の熱が下降した頃に再び、高熱(39度〜40度)が出現し、同時に耳後部・頚部・顔面から上肢、体幹、下肢へと発疹が拡がります。この発疹期が三〜四日ほど続き、その後、七日ほどの回復期をへて治癒へと向かいます。感染者はこれにより麻疹に対する強力な自然感染免疫を獲得したことになるのです。
さて麻疹を流行させないためには、免疫を持っている人を一定数以上保つ必要があり、一般的には、1歳時と小学校入学時の2回のワクチン接種が必要とされます。なぜ2回の接種が必要かと申しますと、1回のみでは約15%の人が十分な抗体価を獲得できず、また、後に非典型的な修飾麻疹を発症することがあるからです。従って、日本でも2006年度からは、MRワクチン(風疹、麻疹の混合ワクチン)の形で2回接種が基本となりました。今回の流行に曝された、自然感染もワクチン接種も不十分な大学生群は、これら小学校低学年群までに2回ワクチン接種をすませた群と、50歳以上の自然感染による終生免疫獲得群との谷間に位置付けられるのです。現に近年の成人麻疹発病者のうち6割までが15歳から24歳までの年齢層なのです。
世界保健機関(WHO)が各国の麻疹対策状況を調査したところ、日本は、東南アジアやアフリカなどの開発途上国と同じ「最低ラインの制圧期段階」とされています。この対策としては、さしあたって各大学の、とくに、教育実習、医療関連実習、対外スポーツ活動、海外留学予定の学生諸君に必ず、抗体検査を行ってもらい、抗体価が不十分であればワクチン接種をして頂かなければなりません。このためには保護者の皆様のご理解とご尽力が不可欠です。学生諸君の抗体検査やワクチン接種を積極的に推進し、我が国の「予防接種後進国」「はしか輸出国」の汚名を返上するためにどうか宜しくご協力をお願いいたします。
|