親和会だより

大学懇談会講演会7月17日(日) 講題:「親子で学ぶ、就職の現実」
株式会社ニッチモ 代表取締役
講 題:海老原(えびはら)嗣生(つぐお)氏
龍谷大学アバンティ響都ホール
 大手メーカーを経て、リクルート人材センター(現リクルートエージェント)に入社。系列のリクルートワークス研究所で『Works』の編集長に就任。2008年に、HRコンサルティング会社、ニッチモを立ち上げ代表取締役に就任すると同時に、リクルートエージェントの第1号フェロー社員となり、人事経営雑誌「HRmics」の編集長を務める。
 「雇用のカリスマ」と呼ばれ、漫画エンゼルバンクの作中人物“カリスマ転職代理人、海老沢康生”のモデルでもある。

 全国保護者懇談会のなかでも、もっとも保護者数の多い大阪府で開催される保護者懇談会は、大学懇談会と称し、大学・親和会・校友会の三者の共催事業でおこなわれます。大学懇談会は例年、保護者の関心が特に高い「就職支援」に焦点をあて、開催しています。
 毎年社会の第一線で活躍する方にご講演いただいており、今年度は株式会社ニッチモ代表取締役 海老原嗣生氏をお招きし、講演会を開催させていただきました。
 
●就活氷河の真相
 1980年代後半、大卒で就職している人の数の平均は29万4534人でした。今まで何度か就職氷河期といわれる時代があり、今回が3回目と言われています。その3回のどの時代を見ても、80年代後半の平均である29万4534人を一回も下回ったことがなく、実際は増えているんです。
 では、新規求人はどうでしょうか。新聞等のメディアが、バブル時代には84万人、今年は58万人しか求人がないと報道していますが、実はこれは景気の良いときと景気の悪い時を比べた結果なんです。それぞれ景気の良いとき同士、悪いとき同士を比べると、今の方が環境は良くなっています。
 それでも就職氷河期と言われる理由は、いくら企業の求人が多くても、それ以上に大学生数が増えているからなんです。昔は高校を卒業してすぐに就職した人たちが、製造工場の海外移転や自営業の衰退で就職ができないため、大学に進学しているんです。また、学歴の価値も昔とは変わっています。今や大卒といえば、当たり前の学歴になっています。
 就職氷河は、企業側の採用は増えているにもかかわらず、大学生の増加には追いついていないということが最大の要因です。現在、大卒は当たり前の学歴なのに、過去の「大学=高学歴」という幻想が現実とのギャップを引き起こしていることも一要因です。
 
●採用市場というもの
 昔の大学生はどういう企業に就職していたんでしょうか。過去20年間、主要企業に就職している人は、多いときでも1〜2割しかいません。いつの時代でも、圧倒的多数が中堅・中小企業に勤めているという事実があります。今でも、5千人以上の会社に就職する人は、全体の15%しかいません。
 超大手企業への就職が、どれだけ厳しいかということを説明します。大卒で就職を希望する人は、約45万人、このうち就職できる人は約35万人、超大手と言われる200社に就職するのは約2万人だけです。東大・京大・旧帝大・トップ国立大学7校・早稲田・慶応、それに専門分野のトップ大学の新卒を全部足すと約4万4千人になります。超難関大学に入学しても、超大手企業に入れる数の方が圧倒的に少ないんです。
 それでも最初、大学生は大手企業を志望します。これは仕方がないことなんです。なぜなら、大学生は、22年間、キャリアに関して何の相場観も形成できずに育っているからです。就職活動をして、何十社も落ちるうちに「なかなか大企業って無理なんだな」と、次第に相場観を形成していきます。大企業への就職に失敗して落ち込んでいる子どもに対して、親がフォローしてあげてほしいんです。「それが当たり前のこと。私はあなたの価値観に合う会社を選んでほしい。大企業ばかりではないよ」と。
 
●中小企業に対する誤解
 中小企業は、不安定で給与が安いと思われがちです。赤字を抱えている会社が中小企業に多いのは間違いない話ですが、儲かっている企業の比率をみると、大企業よりも中小企業の方が多いんです。中小企業はフリーター等から昇格して正社員になる場合が多いのですが、給与に関しては、大企業と年齢を基準に比べがちです。勤務年数を基準に比べてみると、実は大企業と中小企業で給与に大差はありません。
 不景気の中小企業の求人は非常に狙い目です。なぜなら、苦しい時期に採用できる体力があるからです。大企業は好景気に大量の人材を獲得しますが、実力のある中小企業は、不景気に実力ある人材を獲得します。だから、不景気を終えた後の中小企業は業績が伸びやすいという現象が起こるんです。
 
●20代前半は実力次第で大手に「再チャレンジ」可能
 もし、子どもが「中小企業に就職してうかばれない」と言ったら、「そんなことはない。20代前半は転職が盛んだから、実力次第で大企業に転職できる。もし実力がなくても、あなたのことを愛してくれる会社で頑張ればいいじゃないか」と話して下さい。
 転職について、過去30年、どの時代を見ても20代前半で約10%の人が転職しています。また、30歳までの人の約6割が転職を経験しています。つまり、日本は昔から転職が盛んな国なんです。そして、大企業は中小企業から転職する若年層を多く採用しています。中小企業で働いて3年目に、成績が良くて実力もあれば、その業界の大手にいけるチャンスがあります。なぜなら、同じ業界だからこそ、その人の実力が測れ、実績・職歴が通用するからです。
 
●日本は今でも「再チャレンジ」可能な社会
 どうして日本企業では長く働けるのでしょうか。例えば、上司とかみ合わない場合には、人事異動という仕組みがあります。それでもうまくいかない場合、支社・支店等の地域を変更できる可能性があります。さらに、それでもうまくいかない場合は、別の事業を担当する方法があります。これが日本の雇用なんです。だから、「好きな会社」に就職すれば再チャレンジがありますが、「好きな仕事」で就職すれば、いつ変わるかわからない脆弱な仕組みになっているんです。選ぶのは「仕事」か「会社」か。これでだいたい結論が見えてきましたね。
 
●最後に
 中小企業の良いところを見つける方法として、経済産業省の中小企業インターンシップへの応募をお薦めします。2ヶ月勤務で、何社も確認できますし、給与もあります。またOB名簿を活用するのも良い手です。10年以上前のゼミのOB名簿を使い、同窓会を企画してみてください。希望する会社のOBがいたら、その会社の生の情報が手に入る上に、自分と同じような境遇の人がずっと辞めずに同じ会社で働いている、そんな良い環境の中小企業だということがわかります。こういう自由な形で就活を進めていただければ良いんじゃないかなと思います。


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