親和会講演会

津田 敏一氏
(株)北海道日本ハムファイターズ代表取締役社長
「Challenge with Dream」
津田 敏一 氏
 つだ としかず(本学OB)
1952年生まれ。大阪市出身。
龍谷大学法学部を卒業後、日本ハム株式会社へ入社。
営業、広告宣伝、営業企画などを経験した後、
2005年に全国の日本ハムの直販子会社5社の代表取締役社長、
2008年に日本ハム西販売株式会社代表取締役社長に就任。
2011年3月より株式会社北海道日本ハムファイターズ代表取締役社長。


龍谷大学深草キャンパスにて開催された親和会講演会では、本学法学部のOBでもある北海道日本ハムファイターズ代表取締役社長の津田敏一氏にお越しいただき、「Challenge with Dream」と題してご講演いただきました。北海道日本ハムファイターズの経営手法を交えて、 成長するために必要なことについて語っていただきました。

●親会社である日本ハム(株)って?

日本ハムの売上高は、だいたい1兆2百億円ほどです。今日本の食品会社で、一番売上高が大きい会社が、日本たばこ産業。売上高は6兆2千億円ほどありますが、大半がたばこの売上で飲料・冷凍食品等の食料品は1兆4千億円程度です。食品会社の売上高だけでいうと、2番目がキリンホールディングス、3番目がサントリー、その後アサヒ・味の素・明治と続き、日本ハムはベスト7に入っているかなという感じになります。同業でいきますと、2位が伊藤ハム、その後プリマハム・丸大ハムが続きます。

日本ハムはハムをたくさん作っている会社かといいますと、ハム・ソーセージの売上高が1349億円、全体の13%程度しかなく、ハムの構成比はそれほど高くありません。実は食肉(テーブル肉)が一番多く、日本の食肉市場の約20%程度を占めています。他にもマグロの養殖などをやっています。例えば、回転寿司のマグロなどきっちり規格が決まっている、こういう分野でシェアがナンバー1です。意外と魚もやっているんです。

●北海道日本ハムファイターズって?

日本ハムは1942年創業、1963年に現在の名称となりましたが、もともとは関西の会社でした。1973年、東京で日本ハムの知名度を上げるために、球団(当時の日拓ホームフライヤーズ、以前の東映)を買収しました。私の入社が1974年、球団の買収翌年からのシーズンで考えると、ファイターズと私の歴史は一緒ということになります。

当時のファイターズはというと、買収から30年間で優勝が1回しかありませんでした。成績が悪く、万年Bクラス、人気もありません。球団経営としてもこのままではダメだと判断して、球団の位置付けを、従来の『社名広告』という役割から改め、新たな『価値創造』へ戦略を転換することで、「企業球団」から「地域球団」に変えました。これはJ1、サッカーと同じ考え方を採り入れています。企業の名前が出てきませんよね。この考え方を取り入れたのは、プロ野球ではファイターズが初めてなんです。

●北海道に移って…

日本ハムファイターズが北海道を拠点とする以前は、北海道人口550万人のうち、80〜90%がジャイアンツファンでした。読売新聞がサマーシリーズといって、円山球場でほとんどの試合(ジャイアンツ戦)をやっていたのです。テレビの放映もジャイアンツ戦ばかりで、それ以外はやっていませんでした。

この現状を変えていくために、地元メディア等と協力することを考えました。そのための戦略として、北海道の企業に株主・スポンサーになっていただき、それが功を奏して、現在では200万人近くのお客さんに入っていただく球団に成長しています。

●Challengeの連続

球団理念「スポーツ生活が近くにある、心と身体の健康をはぐくむコミュニティを実現するために、地域社会の一員として地域社会との共生をはかります。そして、私たちは人々の心と身体の健康に貢献し、人と人が触れ合う交流の機会となり、人と人との心がつながるコミュニティを創造する力となります」は、あえてスポーツコミュニティとし、ベースボールコミュニティとしていません。親会社が食品会社ですので、食べることとスポーツがなくてはならないものという考え方から、心と身体の健康のためにと制定しています。

経営理念「Challenge with Dream」、既成概念にしばられない夢をもった挑戦の実践です。これまでのプロ野球の既成概念にとらわれず、長期的視点・継続的視点に基づき、チームのファン、地域的社会と共に成長するプロ野球球団をめざしています。私が社長になってから、コネクション中心だった採用方法をリクルートに変更しました。「Challenge with Dream」、今まで野球興行では考えられなかったことを実施しています。

最後に行動指針「ファンサービスファースト」、すべての活動にファンサービスを優先させています。チーム・選手にとどまらず、フロント、私たち一人ひとりまでファンサービスの姿勢が必要です。ファンサービスを徹底させようということです。

会社の経営理念・行動指針のお話をさせていただきましたが、やはりチームは強くないと応援いただけません。お金の話をしますと、球団にもたくさんのお金を出せる球団、そうでない球団があります。お金があれば強い選手を集められますが、年俸が低くてもチームが勝つということは、効率的な編成、若手選手の育成、他球団にはできない編成の差別化が必要です。BOS(ベースボールオペレーションシステム)という仕組みを使って、ファイターズはそれを実践しています。

BOSシステムは、「IT化」が支えています。球団内での情報の共有を図るため、選手のケガの状態を含め、1軍・2軍の試合終了後レポートを作成することとしています。毎日レポートを書くためには、監督・コーチがしっかり選手を見る必要があるし、見られている選手も必死になってがんばります。また本拠地(札幌)と千葉鎌ヶ谷にある2軍とを結ぶためにもIT化は必要です。ファイターズはこういう仕組みで育成しています。

今学生のご両親の最大の投資は大学だと思いますが、もしこの4年間で新しい投資をするならば、視点を変えて、例えば海外で勉強するとか、それが大きな変化になるかと思っています。正直に詰め込んでいくよりも、違う目線で考えることが大事ではないでしょうか。本人が気付かないことに対し、気付かせることによって、新しい芽が出てくる可能性があるんじゃないかと思います。


大学懇談会講演会
楠木 新氏
「就活は最後の子育て−親ができること−」
作家 楠木 新 氏
 くすのき あらた
1954年(昭和29年)、神戸市生まれ。
京都大学法学部卒業後、大手企業に勤務し、人事・労務関係を中心に総合企画、支社長等を歴任。
この間、総合職や事務職の採用責任者も務める。
4年前に、娘の就職活動をリアルタイムに追った「父と娘の就活日誌」を連載するとともに、
「就職に勝つ!わが子を失敗させない『会社選び』」(ダイヤモンド社)を出版。
その他の著書に、「就活の勘違い」(朝日新書)、「人事部は見ている。」(日本経済新聞出版社)などがある。
勤務の傍ら、大学で非常勤講師(「学部学生のための会社学」)もつとめている。

例年、大阪における保護者懇談会は「大学懇談会」と称して、大学・校友会(卒業生組織)とも連携し、近年非常に厳しいといわれる就職≠ノ焦点をあてた形で実施されています。
 今年度は、企業採用側(人事)・お子さんを取材した保護者・大学非常勤講師・企業人という様々な立場を理解している作家 楠木新氏をお迎えして講演会を開催致しました。

■就活は、総論ではなくて各論

就活の様子は、テレビの特集番組でもよく取り上げられます。皆さんも関心を持って見られているのではないでしょうか。
マスコミは、厳しい就職状況の原因をリーマンショックや急激な円高に求めるので、不況で求人数が減っていると思いがちです。しかし大学生が増えたことも要因の一つです。ここにおられる親御さんの世代では、4年制大学への進学率は4人に1人だったのですが、現在は2人に1人になっている。これもマスコミが指摘しない「就職氷河期」の隠れた理由なのです。

またマスコミは大企業を中心に取り上げますが、実際には、中堅・中小企業に就職する大学生も多く、報道だけでは就活の実態はつかめません。世の中に何十万社の会社があっても、内定を得て入社に到るのは1社限り。総論ではなくて個別論、各論の世界です。テレビ報道に影響を受けて過度に不安を抱く必要はありません。

■ネットが変えた就活

皆さんの学生時代と一番変わったのは、ネットが就活のプロセスに定着したことです。それ以前は若手社員(いわゆるリクルーター)が、直接学生に声がけをして面接対象者を集めていました。とても不特定多数の学生を相手にはできなかった。今は極端にいえば、学生はワンクリックだけで興味をもった会社に応募できます。企業側も説明会の案内を多数の学生に一斉に送ることが可能です。

このため会社に多数の応募が集中するので、選別のために就活は長期化し、学生側は、どういう企業を選べばいいのかの相場観をつかめなくなりました。また各社の応募に際しては、志望理由などを書き込むエントリーシートを作成しなければなりません。応募が多いということは、それだけ落とされる回数も増えるのです。

大学での私の授業を受けていたK君は、最終面接で立て続けに不合格になった時には、「好きでもないスナック菓子を毎日一袋部屋で食べないと気持ちが治まらなかった」といいます。学生側の負担は大きくなっているのです。

■企業側の採用は変わっていない

一方、企業側から見た採用の本質は30年前と何も変わっていません。就活に関する本を書くのに相当数の採用担当者に取材した時も同じ答えが返ってきました。

企業側の採用基準は、最大公約数的にいえば「自分の部下や同僚として一緒に働きたいかどうか」です。学生側の視点で言いかえると、立場や価値観の異なる人とうまくやっていく力量なのです。しかし受験の延長からか、学生は他の人より能力のある人が採用されると勘違いして、自分のアピールに重点をおく人が多い。そのため採用側と学生との間でギャップが生じています。

そういう意味では、面接は、コンテストではなくてコミュニケーションの場なのです。この点を頭に入れておかれると良いと思います。

■就活は最後の子育てー親ができること

私は以前、80人余りの3年生に「就活の際に親にアドバイスを求めるか?」というアンケートを実施しました。面白いことに、イエス、ノーがちょうど半数ずつに別れました。彼らの話を聞くと、親子の関係は百者百様です。子どもを支援する統一したマニュアルは存在しないといっていいでしょう。

また受験などとは違って、一方的に教える、支援するという関係ではもちません。上から目線だと「それじゃ、お父さんはなぜ毎日ネクタイを締めて会社に行っているの?」という恐ろしい質問を浴びせられる可能性だってあるのです。

たとえアドバイスはできなくても、できる範囲のことをしてやればいいと思います。取材では、エントリーシートの作成を手伝ったり、知人の会社員を息子に紹介する親もいました。長期にわたる就活では交通費もかさむので資金的な援助をしている両親もいました。

私が娘の就活をルポして感じたことは、正面から子どもと向き合っているかどうかが大事だということです。子どもと私達との間にある考え方のギャップはどこにあるのかを考えてみる。たとえば、「(親が)今から就活するとすれば、どういう会社を訪問するか」を親子で話し合うのもいいと思います。

会話を通して目の前の子どもに自分は一体何ができるかを検討してみる。その姿勢が真剣であれば、何も与えるものがなくても子どもたちはがんばれると思います。

長年進路指導を担当している高校の先生が、「親が『本人の好きなようにしたらいい』と、放任の態度をとっている場合は、良い結果が得られない」と語っていました。

今、子どもが不安を抱えて就活という船出をしようとしています。子どもが成長できる姿を見るチャンスが目の前にあるのです。これを逃すと子どもと向き合う好機はもう巡ってこないかもしれません。まさに最後の子育てです。こんなまたとない機会を逃さない手はないと私は思います。

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