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2019.02.04

深尾 昌峰 × 石塚 伸一 対談「生涯学習の新しいあり方で築く、大学と社会の繋がり」【犯罪学研究センター】

大学の教育・研究成果を社会へ還元する役割を担うセンターの展望

犯罪学研究センターと、龍谷エクステンションセンター(REC)。「社会との共生」を掲げ、大学の教育・研究成果を社会へ還元する役割を担った2つのセンター長に、今後の課題と展望を語ってもらいました。


深尾 昌峰(Masataka Fukao)本学政策学部教授、龍谷エクステンションセンター(REC) センター長

深尾 昌峰(Masataka Fukao)
本学政策学部教授、龍谷エクステンションセンター(REC) センター長

深尾 昌峰(Masataka Fukao)
本学政策学部教授、龍谷エクステンションセンター(REC) センター長

龍谷エクステンションセンター(REC)のセンター長を務めるほか、学生が主体となり地域社会の課題解決に取り組む実践型プログラム“Ryu-SEI GAP”(龍谷大学 政策学部 Glocal Action Program)の運営委員長も務める。一貫した現場第一主義で、市民性に主眼を置いた社会課題の克服を日々追求。


石塚 伸一(Shinichi Ishizuka)本学法学部教授、犯罪学研究センター センター長

石塚 伸一(Shinichi Ishizuka)
本学法学部教授、犯罪学研究センター センター長

石塚 伸一(Shinichi Ishizuka)
本学法学部教授、犯罪学研究センター センター長・「治療法学」「法教育・法情報」ユニット長

犯罪学研究センターのセンター長を務めるほか、物質依存、暴力依存からの回復を望む人がゆるやかに繋がるネットワーク「“えんたく”(アディクション円卓会議)プロジェクト」のリーダーも務める。犯罪研究や支援・立ち直りに関するプロジェクトに日々奔走。専門は刑事学。



――おふたりの共通点として「地域社会と深く繋がる活動」が挙げられます。きっかけや活動にかける想いとは?

石塚:
例えば20年ほどお手伝いしてきた薬物依存者のための民間リハビリ施設「ダルク(DARC)」は、私の知識や研究を、社会で実践的に役立ててくれる希有な場所です。私は、1990年代にドイツで「社会治療メソッド」を学んだものの、当時の日本では斬新すぎて活かす場がありませんでした。心が折れかけていた時に「ダルクをつくりたい」という人と出会ったのがお付き合いの始まりでした。研究というものは、役立ててくれる先がなければ持て余すだけですから。私がダルクのために活動しているというより、ダルクが私を助けてくれているんです。“えんたく”やほかの活動も同じで、私にとって宝物のような存在です。

深尾:
現場での活動にこだわっているのは、学生時代からです。当時、阪神・淡路大震災のボランティアに参加したのですが、そこでNPOの方々が被災者に寄り添ったり、さまざまな資源を繋いだりする姿を見て、「市民が持つ可能性」の大きさに惹かれました。それ以降社会的な課題を、市民自らが主体的に解決する、そんな市民社会の成熟に向けて、何かをあきらめかけている人たちの状況改善に貢献できることがモチベーションの源です。



――今の社会における生涯学習、また大学の価値創造のあるべき姿について、考えをお聞かせください。

深尾:
RECは1991年の創設以降、龍谷大学と社会との繋がりをつくる中枢的役割を担ってきました。展開は年々広がり、現在は産学連携、地域との連携、生涯学習など6事業を展開しています。

石塚:
RECコミュニティカレッジ*1では、私も講座を担当した経験があります。カレッジ全体のリピーターが増えて「興味があることを学ぶ場」という社会貢献のあり方は、ある程度確立できていると思います。近年、生涯学習は新しい価値創造を必要とされてきているので、課題は次の展開ですよね。

深尾:
たしかに従来の生涯学習像は古くなってきたと感じます。社会のあり方が「共存」から「共創」へ気運が高まっているのと同様に、生涯学習も、大学と受講生が社会の一構成員として同じ視点に立ち、その上で社会変革へ寄与・貢献する方法を模索する時が来たということでしょう。

石塚:
大学が学ぶ側――いわゆる「市民」と同じ視点に立つ。となると、市民が教える側に立つ機会があっても良いですね。私は「法律家と市民が一緒に法律をつくるには?」を研究テーマのひとつにしています。法律をつくった人たちは運用の現場がどうなっているかに疎い。より良い法律をつくるには、現場の市民の声が圧倒的に不足しています。法律家や立法者が市民から実情を教わる機会が増えたら、これまでにない発想が生まれそうです。

深尾:
大学の知の構造に化学反応が起こりそうな、ワクワクするアイデアですね。私は、RECが小学生を対象に展開している「龍大ジュニアキャンパス」で模擬裁判をするのはどうか、と考えてみましたがどうでしょう?

石塚:
模擬裁判は一人ひとりが能動的に参加することが必須の教育メソッドですから、小学生が司法を理解する優れた機会になることは間違いありません。日本では2009年から裁判員制度が導入されたのにもかかわらず、未だに裁判所に行ったことがない成人が圧倒的に多いのは問題ですから。当センターの「法教育・法情報ユニット」では、この模擬裁判を実施するための教員向けプログラムの開発とセミナーの実施を行っています。

深尾:
いま、リカレント教育*2が注目を集めていますが、RECでは子どもも含め、老若男女を問わない「多層的な学び方」を考えていきたいですね。
大学が本質的に社会連携・社会貢献をするには、地域と悩みや課題を共有した上で、いかに研究と融合させ、新たな価値を創造できるかがカギになるのではないでしょうか。
本学には、本学ならではの研究や資源が豊富にある。その代表格が犯罪学研究センターであると思います。今後、犯罪学研究センターとRECが連携する機会を増やすことができれば、新たな価値創造への本学のパフォーマンスはきっと大きく向上するはずです。

石塚:
今ある制度の枠を崩すには、エクステンション的な視点が不可欠ですね。深尾先生は「産学官民の関係性の構築」のスペシャリストだし、RECには時代に応える組織力、機動力があります。これからの展開を期待しています。



――おふたりが感じる、いまの龍谷大学の学生に必要な力とは?

深尾:
私が日常的に使う言葉に「『変人』は変える人」があります。龍谷大学の学生はみんな感性豊かで、社会に対してまさに「変なまなざし」を持っている子が多くて嬉しいですね。ただ、そのまなざしの対象を突き詰めていくしなやかさに欠け、私からみると惜しいなぁと感じる学生を見かけることが多いです。


石塚:
突き詰めきれないのは、共感力が高く、やさしい学生が多いからかもしれませんね。他者にやさしい子が多いのも龍大生の特長だと思います。

深尾:
たしかに。でももう少し自分の感性を信じてもいいんじゃないか、と。アンテナに引っかかったことをモノにする「最後まで折れない強さ」を持ってほしいです。


石塚:
私が学生に望む力は「穴から早く出てくる力」かな。最終学年になって急にその子らしさが開花する学生がチラホラいて、もどかしい。自分の価値観の外側を知るって、成長する絶好のチャンス。怖くないから穴から飛び出してみなさい! と声を大にして伝えたいですね。

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*1 RECコミュニティカレッジ:
龍谷大学の生涯学習公開講座(2018年現在、年間受講者数 約10,000人)
http://rec.ryukoku.ac.jp

*2 リカレント教育:
日本では、社会人によるキャリアアップや生きがいのための学び直しを示す。

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