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2019.02.05

【犯罪学研究センター】嘱託研究員 佐藤 舞氏 インタビュー

海外を拠点に日本人の司法制度への考え方を研究

佐藤 舞 犯罪学研究センター嘱託研究員

佐藤 舞 犯罪学研究センター嘱託研究員


佐藤 舞(さとう まい)
本学 犯罪学研究センター嘱託研究員、オーストラリア国立大学 School of Regulation and Global Governance 准教授
<プロフィール>
専門は犯罪学。ロンドン大学キングス・カレッジ校法科大学院で博士号を取得。これまでにオックスフォード大学、レディング大学で准教授を務める。2017年より、NPO法人監獄人権センター・田鎖麻衣子氏と日本の死刑制度を含む刑事司法制度に関する情報サイト「CrimeInfo」を共同運営。2019年より、オーストラリア国立大学 准教授に着任。2019年1月には、本学深草キャンパスにおいて開催した写真展の企画に携わったほか、「龍谷・犯罪学」英語セミナーの講師としても登壇した。

「死刑制度の存置派多数」は揺るぎないものなのか?
イギリスとの縁は、日本の大学在学中に交換留学生として渡英したことが始まりでした。現地での学びを1年という短い期間で終えるには惜しく、日本の大学を中退して編入することを決意。卒業後、一時は日本で就職したものの、再びイギリスへ渡り大学院で博士号を取得し、以来オックスフォード大学とレディング大学で研究を進めてきました。
私の研究テーマは、主に「死刑制度に対する国民態度」です。日本は先進国の中でも、今や少数派となった死刑存置国。海外の目は日本の刑事政策の遅れを指摘しています。日本人は死刑を尊重している、望んでいると言われますが、その意見がどれほどフレキシブルなものなのか。情報提供や意見交換をすることで、一人ひとりの考え方がどのように変化するのか。政府の世論調査と近しい条件下での実証を行い、死刑賛成派の人が必ずしも強い意志を持って意見表明しているわけではないことなどを明らかにしてきました。その様子はドキュメンタリー作品として発表し、同様の調査をインド、ケニア、ジンバブエでも実施しています。


龍谷大学で開催した写真展:刑務所の「いま」を知る写真展のようす

龍谷大学で開催した写真展:刑務所の「いま」を知る写真展のようす


人々が刑事司法制度を考えるための「CrimeInfo」プロジェクト
研究を進める中で強く感じたのが、日本には刑事司法制度に関するデータを提供している場が少ないということでした。例えば、いつ、誰に対して死刑が執行されたかといったデータや、死刑制度に関する論文など。人々がより深く考える基となる情報、批判的な視点からの記事が圧倒的に不足しているのではないか、と。そこで立ち上げたのが「CrimeInfo」です。Webサイトを開設し、掲載可能な論文やデータ、制作したドキュメンタリー映像を随時公開。メディアや一般の方にはもちろん、教育機関での授業に役立ててもらうことを目的としています。
プロジェクトの一環として2018年から開催してきたのが「刑務所の『いま』を知る写真展」です。法務省にかけ合い、東京工芸大学写真学科の学生の協力を得て、刑務所・拘置所の日常風景を展示しました。日比谷図書文化館を皮切りに、日本弁護士連合会の会館、東京工芸大学、一橋大学で開催し、2019年1月には龍谷大学へ。特に日比谷では、図書館を訪れた際に写真展を知った方が多かったようで「未知の世界だったので新鮮に感じた」といった声を多くいただきました。所内の環境についても「意外と整っている」と評価する人がいる一方で「劣悪な環境だ」と感想を抱く人も。日頃は司法制度に興味がない人にも考える機会を提供できたという点で、価値のある催しになったと思います。
【関連記事>>】龍谷大学で刑務所の「いま」を知る写真展がスタート

今の日本の刑事司法について思うこと
刑務所のあり方について「犯罪をおかした人が社会コミュニティに戻る」という前提を踏まえた運営が展開されていくことを期待します。日本の刑務所は、統計だけを見ると受刑者同士の争いや自殺の数、ドラッグ問題などが少なく、問題のない印象を受けます。しかしその裏で、受刑者のプライバシーや行動の自由に厳しい制限があります。私はイギリスを始め、諸国の刑務所を視察してきました。日本の刑務所で他との違いを感じるのが「音」の存在です。欧米の刑務所は、生活音だけでなく人々の話し声に満ちています。刑務所は服役の場であると同時に、社会復帰に向けて資格を取ったり、人と接する能力を高めたりする場でもあるのです。受刑者たちを社会から完全に隔離することが、果たして出所後の暮らしのためになるのか。 写真展を開催した動機でもありますが、死刑制度同様、人々がより深く考えていくべき日本の課題だと感じています。


龍谷大学で開催した「龍谷・犯罪学」英語セミナーのようす

龍谷大学で開催した「龍谷・犯罪学」英語セミナーのようす


今後の研究活動について
ここ5年ほどは、前述の「死刑制度に対する国民態度」と並行し、イギリスにおける刑事事件再審査委員会(Criminal Cases Review Commission)の研究を行っていました(Holye and Sato ‘Reasons to Doubt: Wrongful Convictions and the Criminal Cases Review Commission’ (2019) Oxford University Press - https://global.oup.com/academic/product/reasons-to-doubt-9780198794578?lang=en&cc=hu)。
2019年からオーストラリア国立大学に移ったことを契機に、いま新たな研究に着手しています。テーマは「アジアにおけるサイの角・象の牙の密輸需要をなくすためのアプローチ」。現在、サイの角や象の牙は、特に中国やベトナムでの需要が高まり、アフリカ諸国からの密輸・売買が急増しています。国際機関では摘発のための対策を講じていますが、私は「需要自体をなくす」という観点からのアプローチを探りたい。オーストラリアへ移ったことで、アジア・アフリカの各国へアクセスも良くなります。死刑制度存置国の研究と同様、精力的に取り組んでいきたいと考えています。