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2019.02.06

第6回 龍谷犯罪学セミナー(Ryukoku Criminology in English)レポート【犯罪学研究センター】

刑事司法は検察官のもの?—日本の司法制度と制度改革の特異点

龍谷大学 犯罪学研究センターは、犯罪予防と対人支援を基軸とする「龍谷・犯罪学」を構築し、日本国内だけでなく、広く世界にアピールしていくことを目標に掲げています。
犯罪学研究センターでは、現在までの研究成果を踏まえて英語でのトライアル授業を2018年10月より2019年1月まで8日程(全15コマ)にわたって開催してきました。
この授業は、欧米諸国では「犯罪学部」として学問分野が確立されている領域を、世界で最も安心・安全とされる日本社会の中で独自に捉え直す試みで、新たなグローバル・スタンダードとしての「龍谷・犯罪学」を目指して、全回英語で実施しています。
龍谷犯罪学セミナー(Ryukoku Criminology in English)【>>実施詳細】

2018年12月22日(土曜)、本学深草キャンパス至心館1階にて、第6回「Ryukoku Criminology in English –Let’s study the Criminal Justice System in the secure and safe society-」を開催しました。講師は甲南大学法学部の笹倉香奈教授(犯罪学研究センター客員研究員)で、テーマは「Criminal Justice System Ran by Prosecutors? -Some Peculiar Features of the Japanese System and its “Reforms”」で、日本の検察官の役割と現状、司法制度改革の現状とその課題について紹介されました。

基本情報:
Ryukoku Criminology in English –Let’s study the Criminal Justice System in the secure and safe society-
Dec 22nd (Sat) <2 lectures (13:15-14:45/15:00-16:30)>
Kana Sasakura (Guest Researcher of Criminology Research Center / Professor of the Faculty of Law at Konan University)
“Criminal justice system ran by prosecutors? -Some peculiar features of the Japanese system and its “reforms””



はじめに、検察官の役割です。日本の検察官は事案の捜査、犯罪の起訴、刑罰を主導しており、刑事手続きのすべての段階に関与します。日本の刑事司法は「検察官の楽園」とよばれることもあります。刑事事件の有罪率は99.9%です。これは、検察官が起訴する事件を非常に慎重に峻別しているためと言われていますが、問題はないのでしょうか。
具体的に検察官はどのようなことをしているのでしょう。制度を確認してみましょう。警察官は検察官と相談するなどして逮捕するかどうか、そしていつ逮捕するかを決めます。警察が被疑者を逮捕すると、検察庁に送るかどうかを48時間以内に決めなければいけません。そして被疑者が検察庁に送られると、検察官がさらに身体拘束が必要であると考えた場合、裁判官に対して勾留請求を24時間以内にしなければなりません。勾留期間は原則10日間ですが、これは一度に限り延長できますので最大で20日間勾留される可能性があり、被疑者は最大で23日間取調べを受けることとなります。勾留請求が行われたばあいに裁判官が審査するのですが却下はまれです。「人質司法」は国内外から批判されています。
日本では、検察官も被疑者の取調べを行います。供述を引き出すことはいまだに重要な仕事のひとつとされています。検察官は被疑者などの供述を聞いた上で、検察官自身が作文した「調書」を作成します。こうした捜査ののち、検察官は被疑者を起訴するかどうか決めます。その後、事件は裁判所に係属します。
検察庁には決裁制度と呼ばれるシステムがあります。検察官が起訴するかどうかなど何かを判断する際、上司による決裁を経ます。一方で、捜査の結果、証拠不十分や嫌疑不十分などによって不起訴となるケースもあります。検察官は事件の結果について大きな裁量権をもっています。それでは、その権限のコントロールをする手段はあるのでしょうか。
起訴されなかった事例については、検察審査会と準起訴手続(付審判請求)という制度があり、不起訴という処分が妥当だったか、見直しをすることができます。しかし、検察審査会は毎年2000件ほどの事件を受理するものの、そのほとんどが「不起訴相当」となり、検察官の判断を是認する結果となっています。付審判請求が認められることもほとんどありません。
検察官は日本の刑事司法制度の中心的存在であり、その権力は捜査、起訴、判決の執行にわたって非常に強力であり、外部からのコントロールはほとんどされていない状態であるといえます。
こうした状況については改革の必要性が指摘されています。実際にも、被疑者取調べの録音・録画制度や証拠開示については若干の改革がなされていますが、不十分です。そこで、次に最近の司法改革について見ていきたいと思います。


笹倉香奈教授(甲南大学法学部・犯罪学研究センター客員研究員)

笹倉香奈教授(甲南大学法学部・犯罪学研究センター客員研究員)


21世紀に入って、2004年と2016年に大幅な司法制度改革が行われました。2004年の司法制度改革では様々な改革がなされ、裁判員制度も導入されることとなりました。しかしながら、この司法制度改革では捜査手続についてはなんら改革がおこなわれませんでした。結果として、日本の刑事手続が検察主導で行われ、その手続が透明性に欠けるという問題点は維持されることとなりました。その後、2000年代には氷見事件、志布志事件、足利事件、村木事件などの冤罪事件が相次いで発覚しました。このことが刑事司法改革のきっかけとなります。法制審議会に司法制度の改革について検討するための特別部会が設置され、議論の結果、2016年に1)裁判員裁判事件、特捜事件の対象となる事案の被疑者に対する取調べの録音・録画の義務化、2)捜査・公判協力型協議・合意制度(いわゆる「日本型司法取引」制度)及び刑事免責制度の導入、3)通信傍受の効率化、4)証拠開示制度の拡充、5)犯罪被害者・証人の保護などの改正がなされました。
この改革の背景は、冤罪の被害でした。しかし、たしかに改革のいくつかは適正手続と刑事捜査の透明性を担保するためのものですが、多くは検察など捜査機関側の権力を増大させるためのものです。特に協議・合意制度(司法取引)は新たな冤罪を生みうる、非常に危険な制度でもあります。
日本の刑事司法には数多くの問題があり、「検察官司法」の改革には残念ながらなりえていないでしょう。

本講義の終了後のアンケートでは「大変興味深い講義でした。いかに、検事中心の刑事司法を変えていけるのか、その方法を引き続き考えていただきたいです」などご意見をいただきました。日本の刑事司法の現状、改革と問題点について学ぶ、非常に有意義な機会となりました。