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「ダムの魚道は機能しているのか?」理工学部 山中裕樹 講師らが生き物に配慮した河川整備に貢献する魚類調査手法を開発

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2016年3月28日

本学理工学部環境ソリューション工学科の山中裕樹講師と神戸大学大学院人間発達環境学研究科の源利文特命助教の研究チームは、魚から体表の粘液や糞などとともに水中に放出されたDNA(環境DNA)を分析することで、海から河川への魚の回遊状況を把握する評価手法を開発しました。
山中講師と源特命助教はこれまでにも、水中を漂う魚類のDNAを回収・分析することで生息する魚種やその生息量を推定する、いわゆる「環境DNA分析」の技術開発を先駆的に手掛けてきました。水中に潜って魚を観察したり、網などの漁具を使って魚を捕るなど、多大な労力と費用がかかる従来の魚類調査手法とは異なり、魚類の体表の粘液や糞などとともに放出されたDNAを分析対象とする環境DNA分析では、魚に関する専門的な知識がなくても、水を汲んでDNAを分析するだけで魚種類や量を推定できます。
今回発表された研究は、これまでに基礎技術開発が進んできた環境DNA分析を、「生物に配慮した河川整備を行う」ための新たな生態学的評価手法へと発展させるものです。現在日本の河川には、ダム等の河川横断構造物が多数設置されていますが、平成9年に改正されて以降の河川法においては、河川横断構造物が水棲生物の「回遊行動」をできる限り阻害しない構造や操作法をとることが求められています。しかし、従来の手法(目視や漁獲)では、構造物設置による魚類への影響を低減する目的で設置される魚道等の設備が、正しくその役割を果たしているのかを長期に渡って、かつ、簡便に評価することがコスト的にも技術的にも困難でした。本研究では淀川大堰を含む淀川本流に設置された3つの河川横断構造物を対象に、海から遡上するスズキとボラがどこまで遡上しているのかを環境DNA分析によって明らかにして、魚道が機能を果たしているのかを評価する手法を提案しています。大きな労力と時間をかけずに、魚道に代表される影響緩和施策の効果を評価できる新手法として、環境DNA分析を社会的な要請に応える実用ツールとして発展させる重要な研究成果と言えます。
本研究は、一般財団法人 水源地環境センター のWEC応用生態研究助成と、一部、独)科学技術振興機構(JST) の戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)および環境省の環境研究総合推進費の支援を受けて実施されました。
本研究成果は学術雑誌「Ecological Indicators」の2016年3月号で公開されました。

1.発表論文について
英文タイトル:The use of environmental DNA of fishes as an efficient method of determining habitat connectivity
和 訳:環境DNA分析による魚類の生息地間移動の把握
掲載誌:Ecological Indicators
著 者:山中 裕樹 (龍谷大学) ・ 源 利文 (神戸大学)


<研究の背景>
海から河川への魚類の回遊は、通常は陸から海へと一方向に物質が流下する河川において、栄養分の陸域への輸送という重要な生態学的機能を持ちます。こうした回遊行動が可能な河川環境の保全は、生態系にとって、そしてもちろん魚類自身にとっても産卵場所への移動が保障されるなど、河川整備をする上で配慮すべき重要課題です。また、平成9年に改正された河川法においても、河川に生息する生物の移動(回遊)をできる限り阻害しないような河川整備を実施するよう求められています。例えばダムの様な河川横断構造物を設置する場合、魚類等の回遊に影響を及ぼし得るため、事業主にはその影響を緩和する施策の実施が求められます。ただし、実際に採用した施策が有効に機能しているのかを確認することは容易ではありません。魚類の移動を追跡し、魚道を通過したかを確認せねばならないからです。最も簡単には、設置した魚道で定点観測し、調査対象の魚類が通過したか否かを確認することで、その魚道が魚の移動ルートとして利用されていることが確認できます。しかし、これには習熟した調査員と、長い時間が必要となる上に高い不確実性が伴います。特に、生息量の少ない魚種の場合は観測できない可能性が高くなります。また、標識を付けた魚を放流し、魚道を通らねば到達できない他の地点で再度捕獲して、その通過を確認するという手段もあります。この場合も、標識を付けた魚をもう一度捕獲できる確率は非常に低いため、高い不確実性が伴います。こうした理由から、河川横断構造物建設の環境影響対策として設置されている魚道について、その効果をモニタリングするのは困難です。しかしながら、こうした評価は河川に人為的改変を与える以上、事業主に課せられた必須の責務と言えます。
本研究では河川横断構造物の存在が魚類の回遊に及ぼす影響を評価するため、魚類の分布を簡便に推定できる環境DNA分析を用いて、海から遡上する魚類が淀川のどの地点にまで到達しているのかを明らかにしました。 

<研究の結果>
淀川には下流側から、淀川大堰、天ヶ瀬ダム、瀬田川洗堰という3つの大規模な河川横断構造物がありますが、これらのうち、魚道が設置されているのは淀川大堰のみです。淀川河口から琵琶湖に至る15地点で月毎の採水調査(1地点あたり2リットル)を1年間実施した結果、対象としていた海産魚であるスズキとボラは淀川大堰を通過して、河口からおよそ36kmの京都市伏見区付近まで遡上していることが確認されました。一方で天ヶ瀬ダムや瀬田川洗堰より上流側ではこれらの種のDNAは検出されませんでした (図1参照)

<研究の意義と今後の展開>
天ヶ瀬ダムや瀬田川洗堰の様な大型の河川横断構造物は、魚道が無ければ魚が遡上できないのは当然のことと言えます。一方で淀川大堰には魚道があり、結果としては魚類の移動ルートとして機能していることが示されました。これらの結果は研究の前から予想されたことではありますが、1)対象魚類がいないはずの場所からは環境DNAを検出しなかったこと、2)調査分析を研究者2人だけで周年実施できた実例を示せたことは、環境DNA分析の信頼性や実用性を担保するという意味において大きな成果と言えます。魚道の規模、設置場所、角度、水量といった魚類の通過に影響する各種要因が適切に設定されていないと、設置されても魚類に利用されない、つまり機能しない無意味な魚道になります。そもそもダム等の河川横断構造物は利水や治水等の社会的要請に答えるべく建設され、それに伴う魚道の設置は生物への影響緩和策として認知されていますが、その機能の有効性が十分に検討されねば「生物に配慮した川づくり」がなされているかどうかの評価が全く行えません。こうした評価を困難にしていた要因の多くを、本研究で提案する環境DNA分析による評価手法は解決できると考えています。
今後は様々な河川横断構造物建設の際に、事前・事後調査手法として、環境DNA分析が活発に利用されることを期待しています。

<参考図>

図1.淀川におけるスズキとボラのDNA検出結果。調査を行った2012年の4月から翌年の2月までの分析結果をパイチャートで示しており、赤、もしくは青で塗られていれば対象種のDNAがその月に検出されたことを表す。両種とも京都市伏見区付近(S08地点)まで遡上している様子が見て取れる。天ヶ瀬ダムより上流側(S10-12)では一度も検出されなかった。発表論文中の図を改変。



<発表論文>
英文タイトル:The use of environmental DNA of fishes as an efficient method of determining habitat connectivity
和訳:環境DNA分析による魚類の生息地間移動の把握
掲載ジャーナル:Ecological Indicators
著者:山中 裕樹 (龍谷大学) ・ 源 利文 (神戸大学)


<研究に関する問い合わせ先>
〒520-2194 大津市瀬田大江町横谷1-5
龍谷大学理工学部・講師 山中裕樹
Tel: 077-544-7113 / Mail: yamanaka@rins.ryukoku.ac.jp

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