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理工学部 物質化学科 兵藤憲吾助教らが蚕の蛹に含まれる酵素の反応から着想を得たオキシム転移反応によるオキシムの触媒的合成法を開発

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2016年9月21日

 龍谷大学理工学部物質化学科の兵藤憲吾助教らは,過去に日米の化学工場で起きた爆発事故の原因となった危険で不安定な化学物質、ヒドロキシルアミン及びその鉱酸塩類の代わりに、安価で入手容易かつ化学的にも比較的安定なオキシムを用いることによって、化学合成繊維や医農薬品の原料としても利用される価値の高いオキシム化合物を、汎用性の非常に高い酸触媒のもと、環境負荷低減型溶媒として着目される水溶媒中で効率的に合成することに成功しました。
 兵藤助教らは、これまでに酵素反応に着目した触媒反応を中心とする研究開発を行う中で、今回蚕の蛹に含まれる酵素、トランスオキシマーゼが織りなすオキシム転移反応(トランスオキシム化反応)に注目しました。一般的に、オキシムはヒドロキシルアミン及びその鉱酸塩とカルボニル化合物を化学両論量以上の塩基存在下、脱水縮合によって合成されるが、今回酵素反応からヒントを得て、安定なオキシムを爆発性が知られるヒドロキシルアミン等価体と見做すことができないかとの発想のもと、汎用性の高い硫酸などの酸触媒を水溶媒中で駆使することによって、酵素反応同様の温和な条件の中、オキシム化合物を化学的に合成しました。
 今回開発したオキシム転移を利用したオキシム合成は、プラントでの医農薬品の中間体となるオキシム合成におけるリスク軽減や資源の再利用可能な合成法によってグリーン・ケミストリーへの貢献が期待できます。

 なお、本研究成果は2016年9月2日付けで英国ジャーナル「Green Chemistry」Accepted Manuscriptsとして掲載されました。またこの研究企画に対して、2016年2月18日に公益社団法人 有機合成化学協会より研究企画賞を授与しました。


■発表論文について
英文タイトル:Brønsted acid catalyzed transoximation reaction: synthesis of aldoximes and ketoximes without use of hydroxylamine salts

和訳:ブレステッド酸触媒によるオキシム転移反応:ヒドロキシルアミン塩を使用しないアルドオキシム及びケトオキシムの合成

掲載誌:Green Chemistry(イギリス王立化学会誌)

著者:兵藤憲吾 他4名


<研究の背景>
 オキシム化合物は、医農薬品の合成過程や合成繊維の中間体などとして知られ、汎用性が極めて高く、有用で安定な化合物です。その古典的な合成方法はカルボニル化合物とヒドロキシルアミンとの脱水縮合によって得られますが、ヒドロキシルアミンやその鉱酸塩は爆発性が知られ、過去にアメリカ(1999年)、日本(2000年)の製造工場でそれぞれ爆発事故が起き、死傷者を出しました。その後、日本ではヒドロキシルアミンやその鉱酸塩が危険物に指定された経緯があります。一方で、現在及び将来を見据えた化学においては、龍谷大学理工学部物質化学科でも柱とする、環境に配慮した化学(グリーン・ケミストリー)の実践や、資源の持続可能な化学(サステイナブル・ケミストリー)が求められているだけでなく、物質を扱う人にもやさしい合成手法の開発が望まれております。
 このような背景のもと、九州大学の山藤教授らが1953年に発見した蚕の蛹に含まれるトランスオキマーゼと呼ばれる酵素が、別のオキシム化合物からカルボニル化合物へのオキシム転移を経てオキシムを合成する反応に着目し、化学的に安定なオキシムを危険なヒドロキシルアミンの代替化合物として扱えないかと考えました(図1)。これまでオキシム転移によるオキシム合成は極数例に限られ、主にオキシム転移はオキシム化合物をカルボニル化合物へ戻す用途で利用されてきましたが、その従来の目的とは逆に、オキシムを合成するのに展開できないかと捉え、作り手にも安心で安全な合成手法の開発を目指し、研究を着手しました。


<研究の結果>
 本研究では、使用するオキシムに、現在塗料のはがれ防止剤などの用途で工業的にも大量に生産される安価なメチルエチルケトンオキシム(MEKO)をヒドロキシルアミンの代替として用い、工業的にも非常に汎用性の高い酸である硫酸などを触媒として用いた結果、温和な条件のもと、目的物質であるオキシム化合物を合成することに成功しました(図2)。またその合成法は、ガンジダ症に抗菌活性を示す候補物質の合成にも適用可能であり、その反応スケールは実験室レベルでは比較的大きい100 グラムスケールへと拡張できるだけでなく、安全面でも反応中の温度は常に一定に保たれることが確認できました。そして、反応溶媒には環境への負荷が低く、安全性の高い“水”を使用できたことは特筆すべき点です(図3)。さらに、興味深いことに、得られた製品が固形で水に溶けないときには、製品回収後に、合成に用いた酸触媒や水を再び次の合成に使用することが可能であり、計10回以上繰り返しそれらが再利用できることが分かりました。
 以上の結果より、我々は爆発性を有する不安定なヒドロキシルアミンやその鉱酸塩の代わりに、比較的安定なオキシムをその代替物質として扱い、オキシム転移を利用した画期的な手法で目的とするオキシム化合物を得ることに成功しました。


<研究の意義と今後の展開>
 自然界での生物による合成をモチーフとして、化学的にその合成を具現化する試みは、盛んに行われていますが、蚕の蛹に含まれる酵素による反応を合成化学的に試みる研究はこれまでにあまり例がなく、有用な望みのオキシムを得るのに、汎用性が高く安価なオキシムを用いる着想は、従来まであまり注目されてこなかった逆説的な発想であり、世界的にみても斬新です。また生体内での消化器や酵素へ食料や原料が入れば、それらが繰り返し働くように、今回の合成で用いた“水”と“酸触媒”は、原料を新たにそこへ投じさえすれば、何度でも繰り返し使用できたことは付随的に得られた結果であったものの、ユニークな発見であり、グリーン・ケミストリーの観点からも特筆すべき成果です。
 今後、リスクのなるべく少ない安全な合成手法を開発する上で、生体内で行われる反応は、模範となるガイドブックの1つになることを示した研究成果といえ、また合成する上で簡便に高い収率が得られやすい反面、その危険性を孕んでいることをあまり顧みられていない試薬の使用に対して一石を投じるとともに、今後そのような試薬類の使用をなるべく控えることが可能な、環境だけでなく、物質を扱う人にもやさしい合成手法の開発を加速させていきます。



<発表論文>
Brønsted Acid Catalyzed Transoximation Reaction: Synthesis of Aldoximes and Ketoximes without
Use of Hydroxylamine Salts
Kengo Hyodo、 Kosuke Togashi、 Naoki Oishi、 Genna Hasegawa、 Kingo Uchida、 Green Chemistry、 2016、 in press、 DOI: 10.1039/C6GC02156E.
http://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2016/gc/c6gc02156e#!divAbstract

以上




<参考図>

図1.蚕の繭(蛹)

図2.
(a) 蚕の蛹の中で観察された生物的なトランスオキシム化反応、
(b) ヒドロキシルアミン硫酸塩を用いる一般的なオキシム合成、
(c) 今回行った触媒的トランスオキシム化反応

図3. 水中でのトランスオキシム化反応の経時変化
(a) 10分後
(b) 3時間後
(c) 12時間後
図1 
図1
図2 (a)(b)(c)
図3 (a)
図3 (b)
図3 (c)

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