若原 話は変わりますが、本学の最近の動きの一つとして、高大連携の推進があります。本学としては、地元の高校生の皆さんに本学に来ていただきたいという希望があり、滋賀県においても高大連携をさらに強化していきたいと考えています。これは、単に推薦入学枠を広げるというだけではありません。こちらから高校に出向いて授業をおこなったり、大学に来ていただいたりという双方向型の連携を図ることで、大学に入る目標を定めたり、学習の動機付けの一助になればと考えています。
嘉田 大学がどういうところなのかが実地で学べるわけですから、高校生にとって、うれしい制度ですね。
若原 大学教育の質の向上のためにも、学力があり意欲的な学生に来ていただきたいのです。本学には宗門関係高校が全国で27校あり、ご承知のように、京都の平安中学校・高等学校は、今春から本学の付属校となりました。また、そのほかの一般高校とも、関西の14の高校と高大連携協定を結んでいます。
そのなかで、滋賀県では6校との協定締結が実現しました。そのうちの3校は公立高校です。滋賀県の公立高校が特定の大学と提携するのは初の試みです。
嘉田 高校と大学のなめらかな接合をめざす高大連携の今後が楽しみです。
また、高校生のみならず、小学生や中学生へのアプローチもされています。地域の子ども達を対象にした理工学部の「研究室公開」も、その一つですね。
若原 最近では子ども達の理工、理数離れが著しいと言われています。その対策として小さいうちから理工、理数分野に興味を持ってもらいたいと、オープンキャンパスや学園祭の時期に研究室を公開しています。
嘉田 小学生や中学生にとって大学は遠い憧れの世界。そこに行き、研究室に入って実験をするなんて、きっとドキドキワクワクすることでしょう。多感な子ども達には、そういう新鮮な感動や好奇心が何より大切です。
若原 ところが現実の教育現場は、子どもの頃のみずみずしい感性がそのまま育まれるかというと、そうではありません。受験勉強という現実があるからです。
嘉田 現実問題として県内の高校でも「実験は、教科書通りの化学変化が起きないことがあるので、一切させません」という話もあるようです。受験に都合のよい答えを教えることが優先されるからです。
実験というのは、教室の温度や薬品の微妙な量など、様々な条件で結果は変化します。実験で予想通りにならなかったら、「なぜか」と考えるのが学びです。それをはじめから拒否するような動きがあり、私もかなり深刻な問題だと感じています。
若原 マニュアル通りの答えを鵜呑みにするような教育では、生き生きとした好奇心が失われてしまいます。
嘉田 ですから、そういう心をなくさないためにも、やわらかな心を持っている小学生、中学生を対象にした、ペーパーの上だけでない学びの機会づくりが必要です。龍谷大学にも、そのような機会づくりをお願いしたいと思います。
本気で取り組んでいらっしゃる研究者の姿は、多感な小、中学生には感動的で刺激的です。教科書では得られないインパクトがあります。ずいぶん前の話ですが、彦根でのホタル観察会の時でした。「ホタルはなぜ光るのか」という子どもの質問に「子どもをつくるためにオスとメスが呼び合うんだよ」とホタルの研究者が答えたところ、「ではなぜホタルの幼虫も光るの?」という疑問が投げかけられてきました。これには、博士号をもっているその研究者も即座には答えられず、「これはすごい質問だ。研究者でも気がつかないことだった」と、その子を大いに褒めると、質問した子どもは誇らしげに瞳をキラキラさせ、座が一気に活気づきました。実はそのホタルの研究者が貴学の遊磨正秀教授です。
今の学校教育においても、研究者との直接的なやりとりを通じて、小学生や中学生の知的好奇心をどんどん刺激してほしいものです。
若原 本学では、中学校にも「授業の出前に行きます」と働きかけています。
子ども達との関わりといえば、1993年から毎年夏の終わりに、小・中学校や高校のブラスバンドと本学の吹奏楽部が参加して瀬田学舎で「夕照(せきしょう)コンサート」を開催しています。美しい夕日をバックにしたこのコンサートには、保護者はもちろん、地域の方々にも来ていただき、お祭りのような賑やかでなごやかな交流の場となっています。
また、本学の吹奏楽部は幾度となく日本一になった実績あるクラブなのですが、その成果を地元の方々に知っていただくとともに、子ども達に音楽を楽しみ、親しんでいただこうと、びわ湖ホールで演奏会を開催することもあります。
嘉田 ありがとうございます。子ども達の健やかな育成に、大いに力を貸してください。
若原 子ども達へのアプローチも、社会福祉の一環と言えるでしょうが、そのほかにも社会福祉の分野では、「共生(ともいき)」と「協働」をキーワードに、地域の福祉関連の方々や施設と連携した『龍谷大学福祉フォーラム』を開催し、21世紀の新しい街づくりを模索しています。
また、湖南地方には広域の消防組合がありますが、本学の社会学部の教員がそこに参画し、火災現場や事故現場での経験がPTSD※として残る消防士のための問題解決を図るなど、自己治癒のプロセスに力を注いでいます。
嘉田 それも一種の産官学連携ですね。さまざまな角度から、大学の持っている専門性を最大限に地域に活かせるよう努力してくださっている様子がうかがえます。
※PTSD・・・心的外傷後ストレス障害。地震・交通事故・監禁などの強いストレスの後に起きる精神障害。
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