以下の2項目の質問に対して教員から寄せられた回答をコラムにした。
(1)2010年の龍谷大学はどうなっているか。
(2)生き残るための大胆で具体的な対策

 赤木弘文(国際文化学部教授)
(1)ある程度の倍率を維持しながら入試を行っている大学と、無試験同然で入学できる大学に二極分化していくだろう。たとえ受験生が定員を上回っている大学でも、従来の「落とすための入試」ではなくなっているはずだ。いずれにせよ各大学とも受験生確保のために血眼の競争を展開しているに違いない。龍谷大学もその対策に手を打たず、現状のまま推移すれば受験生激減は必至で、経営基盤を揺るがしかねない事態に陥っている。学内は危機感に包まれ、システム改革を求める論議が巻き起こり、各学部とも百家争鳴の場となっているだろう。

(2)生き残るためには、何はさておき受験生の確保以外にはない。そして経営の安定化を図ることである。全入時代に突入すると、入試そのものの価値は失われていく。受験生の視点は、この大学に入ったらどんなメリットがあるのかに向けられるだろう。そのためにはどんな建学理念があるのか、どんな教員スタッフをそろえ、どんな講義内容なのか、どんな設備を整えているのか、何の資格が取得できるのか、どんな留学制度があるのか、進学や就職のためにどんな対策がとられているのか、そして大学グッズに何があるかということまで、他大学との差異や優越性を強調しなければならない。 
 以下は当大学への社会的な評価や予備校のデータなどから若干の対策を選び出し、項目別に列記した。

1)広報活動の全国的展開
2)学内広報誌『龍谷』の市販化
3)各種入試方式の簡素化と地方入試の拡大
4)全学部とも定員、教員ともに30%削減
5)国際文化学部の全教員を外国人にする
6)就職率100%を確保
 上杉孝實(文学部教授)
(1)2010年ごろには、どの大学もレベルダウンが問題になる可能性がある。龍谷大学でも、受験生の減少だけでなく、この問題が生じることになると思われる。なりふりかまわない学生確保の大学間競争に龍谷大学も巻き込まれかねないが、特色を明確にし、周知をはかる必要性は一層高くなることに着目することは重要である。近代の問題の表面化によって、宗教への関心は高まる面があるかと思われるが、過去への回帰でなく、ポストモダンとの関連づけがどのようになされるかによって、大学のあり方も規定されてくる。心の落ち着きと活気の調和した環境が確保されるかどうかも、影響するところが大きいと考えられる。

(2)大学の差異化が進み、評価の高いところとそうでないところがはっきりしてくる時代になる。拡張をはかるよりも、質の向上に力を入れるべきであろう。多くの学生を採るよりも、優れた学生の確保に努め、また教育を重視して、年数をかけても高い評価を受ける学生が出るようにすべきである。その一方で、開かれた大学として、地域の課題にとりくむなどで、自治体や住民との結びつきを強めることが必要である。また、大学の文化施設を充実させ、専門職員を配置して、そこで絶えず各種文化事業が開催され、それが住民のためのものでもあるというようにすることによって、大学の存在価値が高まるであろう。
 大林 稔(経済学部教授)
(2)今、大学は学生のニーズに応え、同時に教職員の要望に応じなければならない。前者のみでは大学は経営の従属物となり存在理由を失う。他方後者に偏れば健全経営に結びつく保証はない。しかし、両者は矛盾するものではない。そもそも教員や職員の潜在力を爆発させなければ、魅力的な大学は生まれるはずがない。新しい龍大は上からの「計画」からは生まれないだろう。

 龍大のエネルギーを解放するためのキーワードとして、分権化とプロジェクト化の二つを提案する。まず、資源と権限は現場へと委譲されるべきだ。現行の中央集権システムは、大型投資を続けた時代の産物であり、質的革新の時代には、むしろ有害である。そして具体的な仕事は全てプロジェクト型に転換する。教職員個々人の新しい試みをプロジェクトとして支援する。プロジェクトは期間を限定し、成果に応じて発展ないし廃止する。これにより組織の枠と規制を打ち破る。既存のリソースにより発想が限られることを防ぐため、プロジェクトには外部の人材を多く登用する。
 押田榮一(社会学部教授)
(1)大学の価値は何で決まるのか、

   1.学生からの評価、入試の難易度、競争率就職率など
   2.経営の安定度
   3.教員の学術的成果
   龍谷大学はどうなのか、
   1.についてはほぼ横這いと見る。
   2.については各種雑誌などの評価を一応信じよう。
   3.については「戦略的研究機構」の成果を期待したい。

 しかし、この運用は難しい。ノーベル賞候補になってから文化勲章の貰える日本の実状を見るに、我が龍谷大学がどこまで個人の研究成果、あるいはその可能性を評価をできるのか、その運用のいかんに掛かっている。他大学が驚くような、柔軟性、視野の広さ、度量の大きさを示すことができれば、龍谷大学の将来は揚々たるものとなるだろう。その評価の決まるのが2010年であると、私は読む。

(2)1.愛校心のない教員は去れ
 研究室を持ちながら、出校少なく他大学等への出講に精を出すような教員は不要。
 学生が訪ねても留守が多いという。仏教の布教はマン・ツー・マンを大切にしてきた。その伝統   を守り、人の触れ合いを大切に出来ないような教員をこのキャンパスから排除する必要がある。

2.マナー教育の徹底
 龍大生は行儀が良い。ガツガツしていない。素直だ。などと世間の評価もあったが、最近やや乱   れが見られる。キャンパスの内外を問わず、礼儀作法教育の徹底を期したい。
 喫煙問題はやや唐突であったが、学生自治会、職員労働組合をも歩調を合わせ、龍大の教員、学   生、職員さらに、OBをも抱き込んだ一大キャンペーンを実施したい。
 生き残りには世間の評判が大切、と考える。
 桂 文子(法学部教授)
(1)大して変わっていないのでは? いや、変わっていなければさいわい、と考えるべきか。少なくとも現状よりよくなっている、とは考えにくい。ますます専門学校的になり、企業の下請け的教育が強制されているのではないか、という危惧を抱かざるをえない。

(2)現存の深草学舎・大宮学舎の4学部(文・経済・経営・法)の壁をとり払い、総合学部として一本化してしまう。その中で、いくつかのコースを設定する。いわゆる従来の主に教養科目を担当していた教員も含めて、すべて、何らかのコースの担当教員となる。学生はこのコースからメイン・コースとサブ・コースを選び、4年間で卒業単位を取得する。それぞれのコースには、そのコース修了に必要な基幹科目は必修として取得を義務づける。同一科目が複数コースの基幹科目になることは充分予想されるから、授業クラスの配置はその点を考慮する必要が出てくるだろう。

 (大宮キャンパスは、従来のように各専攻コース《東洋史コース、日本語日本文学コースなど》をメイン・コースとして選択する者が学ぶ場とならざるを得ないだろうが、従来の各講座間の壁がとり払われ、従来の経済、経営、法学系の学生もサブ・コースとして従来の文学系の学問を学ぶ機会が与えられることになる)

 既存の学部内のコース、また、経済、経営、法の三学部にまたがる英語コースなどに加え、新たに全くの思いつきだが、精神医学系コース、自然科学系コース、文芸コースなどを設定するなど、コースのスクラップ・ビルドの必要があるが――。
 田中雄三(経済学部教授)
(1)「どうなっているか」は分かりませんが、「こうなっていて欲しい」と思うことを、深草キャンパス新校地(既存の建物と空地)の利用の仕方に限って記すと…
1)博士課程学生の実習を兼ねた「法律相談」、「経営相談」、「税務相談」、「福祉相談」など、「龍谷市民相談センター」の堅実な活動が好評を博している。
2)「朝日カルチャー」の向こうを張る「龍谷カルチャーセンター」の多彩なプログラムが、大勢の市民受講者を集めて京都市南部地域の文化的向上に貢献している。
3)全国各地から来た意欲的な学生、とりわけ大学院生が、留学生とともに新築の「学生会館(寮)」で生活し、外国語や国際感覚を学びとりながら国境を越えた友情を培っている。

(2)深草3学部を社会科学系の単一学部に統合し、新入生が最初の1年間「進路探求」で真剣に考え、「進級確保」のため懸命に勉強するように仕向ける(その結果、「アルバイトを主」とする「第2種兼業学生」やただの怠け者は、良くて不本意進級を、一部では留年か退学を余儀なくされることになる)。1年後の「進路」としては、経済、経営、法といった大部屋ではなく、より専門性、具象性が高くてアイデンティティーの明確なコース(公務員志向、経営者志向、教員志向等々)を数多く用意し、時代の要請に応じて適時に改編をする(もっとも、ただ「生き残るため」だけなら、そこまですることはないかもしれませんが)。
 蜷川祥美(にながわ さちよし)(短期大学部講師)
(1)学習意欲の欠如した学生が増加している。

(2)仏教文化を実地研修などを中心に学ぶような社会人向けの講座、もしくは、学部を設ける。
 早瀬圭一(社会学部教授)
(1)学部が7学部から半分くらい減っている。定員割れの学部が出てくる一方、人気学部、競争率の高いところもいくつかある(あってほしい)。学生数がいまの半分ぐらいのコンパクトな中規模大学に変わっている(変わらざるを得ない)。

(2)学部・学科ごとに独立採算制をとるべき。他にみられない特徴を出すべき。教員は専任を出来るだけ減らし、「客員教授」制に移行する。(非常勤講師のような低賃金でなく、月額手取り20万円程度を保証。2コマぐらいを持たせ、ゼミも担当させる。場合によっては、就職の世話も)。

 客員教授は、企業のトップか準トップ。マスコミなら編集局長(新聞)。編成局長(放送)クラス。喜んで応じるはず。人件費をへらし、有名人、実力者が揃えられる。

 「駅前教室」の開講。京都駅前・東京駅前などのビルを借りて社会人講座を開く。人気講座を中心に。
 宮川中民(みやかわ ちゅうみん)(国際文化学部教授)
提案

・学部の特性を生かした広報活動を。

提案内容

・学部独立採算制を一部導入する。受験料収入
を全額、帰属学部に還元する。
・各学部は、研究費、留学費、図書費など学部にかかわる一部経費を、受験料収入でまかなう。
・受験生募集については、各学部教授会が全面的に
責任を負う。そのための諸経費は、受験料収入によりまかなう。
・残りの受験料収入の使途は、学部の管理、判断に委ねる。

提案理由

・本学の偏差値は、毎年下降し続けています。それが少子化による結果だとすると、今後も10年間、少子化は継続し、偏差値の下降はとまらないでしょう。
・このような状況のもとで、いま必要なのは、大学執行部が一回の優れた受験生対策をとることよりも、個々の教職員がアイデアを出し、そのアイデアを直ちに実践に移せる体制を一刻も早くつくることだと考えます。
・いままで学部教員は、主として教育、研究に従事し、マネージメントに類することには、ほとんどかかわってきませんでした。しかしこの破局的状況にきめ細かく対処するには、学部教授会が責任主体にならざるを得ず、もし各教員が自発的かつ具体的に動けるなら、状況を認識し、対策を講ずることができるはずです。
・学部の中身が勝負となる状況のもとで、新聞、雑誌、地域、高校、インターネットなどでの広報活動や高校の先生方との密接な交流は、不可欠です。
・この交流によって受験生のニーズを捉え、それを学部内改革やカリキュラム改革に反映することもできるでしょう。
・いままでカリキュラム改革を推進してきましたが、これを各学部の広報活動に役立てたらよいと思います。