文学部 英語英米文学科
ラザリン・マイケル教授 50歳
 大宮学舎のコンピュータ教室。ラザリン教授のバリトンの英語が響く。

 学生たちの画面には、オーソン・ウエルズの名画「市民ケイン」が映し出されている。

 「映画を題材にして、心理とマスメディアについての講義をしています。コンピュータには辞書が内蔵されているし、インターネットを通して世界で一番大きな図書館が教室にできるという利点があります」

 写真や絵などの美術作品も鮮明に、そしてタイムリーに現れてわかりやすい。学生たちにとって素晴らしい学びの環境だといえるだろう。

 専門は「ハイデッガーの現象学」だが、研究領域は広い。言語学・文学(とくに批評論)・比較文化・芸術にも及び、哲学を中心に据えた総合的な人間の精神活動を対象としている。アメリカ・デュケイン大学の博士号を持つ。

 中国の大連外国語学院大学や広島大学で教鞭をとった後、龍大には8年前に着任。このごろの学生の「変化」に首をかしげる。

 「読書が日常生活に入っていない。英語を母国語とする人も同じだと思いますが、全体的な成熟度が低くなっている。新人類というか全く新しい世代になったように感じます」と顔を曇らせる。

 文学とはエンタテイメントであり、道徳教育であり、そして精神を高揚させるもの。

 「古典文学においては、エンタテイメントの部分すら、理解できなくなっている。他の2つも人間として学ぶべきものですが、教えるのが難しくなった」

 とはいえ、「学生たちの未来を信じなければ教える意味がない」と教材や教え方を工夫する。コンピュータを使うのもそのひとつだ。

 大学では「哲学」とともに「工学」も学んでいたからコンピュータはお手のもの。そして芸術や美術は「大好き!」

 この秋、京都で催された音楽とダンスをメインにした公演で、舞台美術や照明、コスチューム・デザインを担当した。ときに、演出まで手がけることもあるそうだ。

 京都市内聖護院の明治時代に建てられた民家に住む。ネズミがいて、青大将がいて、冬はトイレや風呂が寒くて、という暮らしが気に入っている。
 

法学部
村井 敏邦教授 59歳
 今年4月、一橋大学から迎えられた「刑事法」の第一人者である。

 昨年、少年法の集中講義で龍大の教壇に立った時、学内の雰囲気の良さ、そして学生たちに好感を覚えたという。

 「少しおとなしいかな、と思ったけど、答案やレポートを読んで手ごたえを感じました。決してヌクヌクと育っていない、心に葛藤をもっているから法を考えたいという学生が少なからずいる。自信をもてば必ず素晴らしいものが発揮できる」

 教授自身、大阪の商家に生まれ、「教育環境という点では理想からかけ離れたところ」で様々な人たちの苦しみや悩みを見聞きしながら育った。

 「いろいろな経験をするのが法律家の生きざま。勉強はあまりしなかったけど、おかげで社会勉強はできた」ときっぱり。

 学生たちにも「何にでも興味をもち、自分で考える力を身につけて欲しい」と願う。

 大学在学中に司法試験に合格。

 「試験は技術的なものだから、どれだけ勉強に集中するかがカギ。だから司法試験に受かったくらいで偉そうにするのはどうかと思う。たかが商売のひとつなんだから」

 おだやかそうな外見に似合わない、反骨精神に溢れた言葉が威勢良く飛び出す。

 「東大や京大に右に倣え、する必要はない。大学は、学生たちの悩みや試行錯誤の受け皿であるべき。それが本来の教育であり、龍大にはそうした素地があると思う。他大学にない『矯正保護課程』をもつ大学としての特色など、龍大法学部ならではの教育を」

 現在、学部1年生から大学院生まで、刑事法以外にも全刑法学的視点で講義やゼミなどを、週に7コマ受け持つ。一橋大にも週1回通い、京都と東京を往復する生活。着任後の5月に、日本刑法学会の理事長に推挙されたのも忙しさに拍車をかけた。

 さらに、11月4日に大宮学舎で開かれた「法と心理学会」設立総会では、中心メンバーとして準備段階から全力投球してきた。

 「法律は人がつくった単なる手段。犯罪に適用するには、いろいろな角度から総合的に見る必要があります。人間の心を分析する心理学や社会科学からのアプローチも重要」

 実際に学生たちにも、「痴漢と間違えられた人」の心理や行動など、日常的な素材で法律と心理学の結びつきを講義する。

 少し暇になったら…やりたいことは2つ。国立大学教授の身分では叶わなかった弁護士登録をして、実際の刑事事件を担当したいとの念願。そして、祖父にあたる36歳で亡くなった新派の脚本家・間無声(はざまむせい)足跡を調べて本にするという「父との約束」を果たすことだそうだ。h@の足跡を調べて本にするという「父との約束」を果たすことだそうだ。
 

社会学部 地域福祉学科
久田 則夫助教授 39歳
 教室内に「おはようございます」という声が何度も何度も響く。福祉施設などへの現場実習を目前にした学生たちによる、あいさつの練習だ。

 「人の命を預かる職場へ実習につくわけですから、学生気分のままではなく、職業人としての心構えを身につけることが必要です。あいさつで、まずやる気と熱意を見せる。パフォーマンスもこの仕事では大切なんですよ」

 教わる方も真剣なら、教える方も懸命だ。

 「介護を受ける人に、これでいいですか、と必ず声をかけて確認する、目も耳も五感をフル活用してコミュニケーションする。プロだからこそ、そうした心遣いが必要です」

 技術だけでなく、福祉の仕事が何たるかの「基本」をきっちりと伝えていく。

 久田助教授は、現在は学生を現場へ「送り出す」立場だが、長年「受け入れる」側に立っていた。大学時代にボランティアを経験し、決まりかけていた企業への就職を「迷いに迷って」蹴り、知的障害者施設に生活指導員として入った。

 その後、英国に留学し、高齢知的障害者に関する研究で博士号を取得。「教育・研究・実践」を身につけた福祉のプロとして、厳しく温かい目で学生たちを育てている。

 「学生たちは磨けば光る原石。いろんな形の才能をもっています。龍大ならではの個性を伸ばせる教育をしたい」

 今、福祉は大きく揺らいでいる。まったくの新しい時代を迎えたといっていいだろう。

 「福祉はクリエイティブな仕事。広く社会の流れをとらえて、明確なビジョンをもつことが大切です。いかに良質のサービスを提供するか、そして税金を使うわけですからコストパフォーマンス感覚も必要。与えられたことだけをやる、指示待ち族はいらないのです」

 これから10年後はもっともっと変わる、と断言する。介護保険に関していえば、権利意識や「個」の主張が強い年代の人々が受益者となる。だから、さらに利用者本位の、満足度の高いサービスが求められる、というのである。

 学生を教える以外に、龍谷エクステンションセンターのコミュニティカレッジで福祉現場の職員を対象にしたキャリアアップのための講座を受け持つ。また、さまざまな福祉施設の改革に取り組んだり、現場の悩みを解決するアドバイザーや、英国ソーシャルワーカー協会発行の学術機関誌の国際編集委員を務めるなど、内外の福祉領域で活躍中。研究領域は福祉職場の「人間関係論」「組織論」「利用者本位サービス実践論」など、多岐にわたる。
 

国際文化学部
権 五定(コン・オジョン)教授 56歳
 笑顔をたやさず、ユーモアとウイットに富んだ語り口。まるで母国語のように日本語をあやつる。

 「上手ですね、といわれるうちはまだまだ」と謙遜するが、日本で過ごしたのは、大学院生時代に国費留学生として過ごした4年間と、龍大に来てからの計8年あまり。

 「授業というのは先生の個性、つまりアートと、個性に左右されないサイエンスで成り立つものです。より正確に、よりやさしく学生に伝えることが重要。今も講義の前には必ず内容をチェックして、わかりにくい言葉は調べておくんですよ」

 「比較市民教育論」「アジアの社会と教育」「異文化理解教育論」などを受け持ち、専門分野の「教育学」をベースに、国際理解、異文化理解におよぶ講義を展開する。

 「国際文化学部では『国際文化学』を学ぶというより、個々で国際文化を身につけること」との持論をもち、

 「異文化を受容することは、大きな人間になるということ。たとえば、韓国の文化を理解することは、韓国の人のためではなく自分のためなのです。受容することによって認識力や情緒が高まり、行動が洗練されてきます」

 韓国では、国家プロジェクトで設立された韓国教育大学で教鞭をとっていた。民主化の時代でもあり、学生部長として学生運動への対応や政策的な研究に追われた。教育者として新たな飛躍を目指し、国際文化学部開設と同時に龍大へ。

 「龍大は柔らかい、つまり硬くないところが非常に良いですね。学問は柔らかい思考がないところでは発達しないものですから。反面、能率的でない、ルーズな面に流されるという危険性は含んでいますが」

 学生たちについては、

 「授業中に学生が私語をするのは韓国では考えられなかった。最初は私の日本語が下手なのだろうか、内容が面白くないのだろうか、恥ずかしくて同僚の先生にも聞けなかった」
と笑いながら振り返る。後で一般的な傾向だと知って胸をなでおろしたとか。

 ちなみに、権教授の授業では私語は絶対禁止。といっても決して堅苦しい雰囲気ではなく、笑いが絶えない。教授が飛ばす「オヤジギャグ」に、学生たちは「慣れました」と笑ってやり過ごしている。