特集2 地域社会との連携が大学を面白くする


ゼミが街に出た!地元商店街再生を担い、生きた経済を学ぶ

 ゼミが大学の研究室を出て街に入り、街は学生を受け入れて新たな可能性を探る…そんなユニークな動きが注目を集めている。

 平成13年7月からスタートした、経済学部・伊達浩憲助教授(日本経済論)の「地域活性化」をテーマにしたゼミがそれだ。このゼミでは研究を机の上だけのものにとどめず、学生たちが実際に地元商店街に出向いて調査や交流を深め、その中から生きた経済学を学んでいる。ゼミ単位で学生参加・双方向型講義、問題発見・政策提案型教育を目指している経済学部独自の取り組みの一環である。

 高齢社会が到来、地域コミュニティの再生が求められる中で、後継者難や若者不在に悩む地域の商店街にとってもメリットは大きい。

 「商店がコンサルティング会社に将来計画の策定を丸投げするケースは多いのですが、地域の大学と連携すれば、違った効果が出るはずです」と、伊達助教授。いわば「学街連携」の相乗効果である。

 対象は、地元伏見区の竜馬通り商店街。学生は各商店への聞き取り調査や来街者へのアンケート調査を実施。その結果、竜馬通り商店街が観光客も地域住民も利用する「観光型」「地域型」の両面を兼ね備えた商店街であり、観光客は府内や大阪など近隣はもちろん、関東圏からも多いなどの事実が明らかになった。「オリジナル商品がない」「入り口にインパクトがない」などの問題点も浮かび上がった。

「すばるプロジェクト」により、京都府立商業高校の学生も加わってアンケート調査を行なうなど、さらに拡がりをもちはじめている
 「若者が商店街にコンビニとは異なるノスタルジックな暖かさを感じて、親しみを感じていることが分かり、意外でした」と伊達助教授。

 現時点ではまだ基礎的な調査の段階だが、商店街側は「さらに学生との討論を重ねて、活性化の道を切り拓きたい」と期待を寄せている。

学生がパソコン指導も

調査と併行して、ITに強い学生たちのスキルを生かして、商店主へのパソコンの指導にも出向いた。題して「IT出前講習」。日ごろは店を開いているために講習会に参加できない商店主らにパソコンの使い方、活用法を伝授した。

 さらに、この商店街に無線インターネットの環境も学生たちが構築し、それを来街者や地域住民のためにどう活用すべきかも具体的に提言。今年9月からは買い物客向けの無線インターネット活用実験を開始した。パソコンを持参した買い物客が商店街へ来れば、無線LANを利用して、インターネットに高速・無料で接続できるようにする試みだ。

 こうした活動が、学生にとっては商店街を見直すきっかけになり、商店主にはいい刺激になる。「学生から若い感性やパソコンを教えてもらい、こちらは商売の基本を教える。グッドアイデアでしょう。将来は縁談を紹介したりして、ずっと付き合っていけたらいいですね」と商店街の役員は語る。

大学生と高校生が一緒に学ぶ!新しい学びのスタイルを構築する高大連携プロジェクト始まる

 大学と高校が共同して教育に当たるという、ひと昔前には、想像もつかなかった取り組みが動き出した。

 龍谷大学と地元・伏見区にある府立商業高等学校とで今春より始まった高大連携プロジェクト(通称・すばるプロジェクト)。新しい学びのスタイル構築に向けての試みである。

大学進学者の多様化が背景

 ここ数年、大学教員が高校生に講義する「高大連携」が行なわれるようになった。高校卒業者の進学率が50%近くに昇り、進学希望者が多様化する一方、少子化により18歳人は減少している。そんな状況の変化を背景に「進学の動機づけ」と「間接的大学PR」を目的に進められた。しかし、これは、大学が高校に一方的に協力する連携である。

 「すばるプロジェクト」は、そこから、踏み出し、大学と高校が相互に協力する関係を探ることが目的。龍谷大学の教員が講義を担当し、大学生と高校生が一緒に受講して、共同でフィールドワークを行なう。

高大生でディスカッション

 今年度始めより、大学側は、シラバス作成や受講学生(文・経済・経営・法学部生)の募集など事前の準備を進め、高校では生徒にフィールドワークに向けての社会調査法の授業などを行なってきた。

合同講義後のグループディスカッションの風景

 9月より、合同講義に移り、深草学舎で、週1回の講義を、経済・経営・法学部の教員が交替で担当。 毎回、教員の講義を受けた後、小グループに分かれて上級生や大学院生をリーダーにしてディスカッションも行なった。

  受講生の感想は、「高校生や院生と話せて、いろいろな見方を知った」「高校生のやわらかい思考がおもしろかった」と大学生側がいえば、高校生は、「ディスカッションで自分で考え、意見が言えるようになった」など。互いに刺激し合っていることがうかがえる。

地元伏見に役立つ調査を

 11月から、4つに分かれての合同ゼミが始まり、来年度前期いっぱいをかけて、それぞれのテーマでフィールドワークすることになっている。いずれも地元「伏見」が対象。教育成果に、種々の期待を寄せるのはもちろんだが、このプロジェクトはもうひとつ、「地域社会との共生」を目的としていて、調査・分析した情報や資料を成果としてまとめ、地元の活性化に役立てればと願う、欲張りなプロジェクトである。

  各ゼミの担当教員とテーマは、次の通り。

●佐々木淳経済学部助教授
(近代日本経済史)
「Let's Voyage−伏見の歴史家体験に向けて−」

●伊達浩憲経済学部助教授
(技術革新と産業組織)
「地域情報化−竜馬通り商店街を事例として−」

●野間圭介経営学部教授
(経営情報システム)
「伏見地域における商業集積と商圏」

●広原盛明法学部教授
(都市政策)
「伏見のまちと街並みの行方を考える」

 なお、このプロジェクトは、本学の「大学教育開発センター」が統括してプログラムを実施している。同センターは、教授法の工夫や改善をするための支援機関として、2001年4月に設置された。


福祉相談業務をスタート!
 龍谷大学福祉フォーラムは、今年4月1日から地域社会の人たちを対象とした福祉相談業務を始めた。大学が持つ最先端の専門知識とスキルを地域社会に役立て、同時に福祉現場との交流によって専門研究をさらに深化させるのが狙い。場所は瀬田学舎6号館地下1階の相談室で、社会学部臨床福祉学科の栗田修司助教授をスーパーバイザーに、2人の女性専門相談員が福祉相談に応じている。

パソコン画面を通じて滋賀県浅井町教育支援センターの相談員と話す栗田助教授
 悩みの相談の手法には、主に心理学的アプローチと福祉学的アプローチの2つがある。ここでは「その人の心」に最初の視点を置く、心理学的アプローチではなく、「人と人との関係」に軸足を置いて、関係性の中から解決へ導いていく福祉学的アプローチが特徴だ。

 「親と子、上司と部下、私と内なる私…人は今生きている状況の影響を受けているのですから、状況と人間は切り離して見ることはできません。私が何を望んでいるのかは内なる私との関係がよくなければはっきりとしませんし、人は誰かに理解されている安心感がなければ生き生きと生きていけません。われわれは『関係』を改善する視点から人を援助しようとするのです」と栗田助教授。

 相談内容は登園拒否、不登校、家庭内暴力などを中心に、閉じこもり、対人関係の悩み、子供の発達や行動に関する悩み、子育てや親子関係の悩み、対人援助に携わる上での悩みなど。相談対象者は、悩みを抱えている子供やその保護者、教師、指導員、保育士、対人援助にかかわっている人などだ。現在、思春期の中・高校生、その親などの不登校や閉じこもりに関する相談を受けている。特に卒業や退学などで相談機関から離れた人や、他人の福祉相談に乗る専門の相談員の人たちにとっては、数少ない相談窓口として役立っている。

ITで広がる可能性

専門相談員の尾崎美子さん(左)と中西幸恵さん
 11月からは、龍谷大学のITインフラを活用、琵琶湖の湖北・浅井町の教育支援センターと通信回線で結び、パソコンの画面を使ったテレビ会議方式の相談業務も開始した。

 遠方と回線を接続してパソコンを通じた福祉の相談業務は日本でも珍しく、特に福祉の相談室が教育の相談センターと連携するのは例がない。

 福祉相談業務で困るのは「距離の壁」。誰もが相談室まで来れる訳ではなく、親子の問題で親だけが来て子供が来ない…などが悩みの種だった。このシステムへの期待は大きい。

 3年後には大学院生が相談現場の実際を学ぶ“修行の場”として、活用する計画もあり、いずれは全国出張相談にも出向きたいとしている。

 相談業務は予約制(077-544-7237)。電話受付時間は毎週月・火曜日の13時15分〜16時。相談時間は月曜日13時〜17時40分、火曜日13時〜15時50分。個人相談5千円。家族相談本人5千円+家族1名2千円×人数。集団教員相談1名2千円×集団参加人数(いずれも50分)。

●龍谷大学福祉フォーラム
 産業界・自治体・福祉・保健・医療関連の専門職・一般市民・NPO・寺院など、誰もが参加でき、協同しながら21世紀の福祉を創造する新しい取り組み。龍谷エクステンションセンター(REC)の事業である。


滋賀医科大学や滋賀県と連携
 人々を取り巻く福祉問題は、様々な要因が複雑にからみあって起きている。不登校の悩みの相談一つとっても、心理学的問題、社会学的問題のほか医学的問題もからんでいるケースが少なくない。それぞれ単独では解決できない問題も、連携することによって解決できることがある。

 そこで、社会学部が主体となり、龍谷大学と滋賀医科大学とが連携することによって、保健・医療・福祉を統括した幅広い福祉サポートで地域社会に貢献しようという試みが進んでいる。

 きっかけは1999年、上山大峻龍谷大学学長と小澤和惠滋賀医科大学学長(当時)、財団法人滋賀総合研究所の沢田敏男理事長らの懇談会。その提言を受けて、龍谷大学と滋賀医科大学で「地域医療と福祉」についての懇談会が重ねられ、教育・研究・社会貢献活動を共同で構築する方向で検討が進んだ。

 2001年5月には滋賀県も加わり、「滋賀県地域保健・医療・看護・福祉統合システムの構築連絡会」(連絡会)を設けて具体化に向けて動き出した。地域での共同実践活動支援体制を構築、教員の交流や研究教育施設の開放、単位互換制度などによる学生の共同教育と学生交流の推進、滋賀県下の関連機関・施設との連携を進めるための拠点「医療・福祉研究教育センター(仮称)」の設置を目指している。

国の地域貢献特別支援事業に

9月4日の本学、滋賀医科大学、滋賀県と合同で支援事業に選定された記者発表の風景。
 目指すのは「子供、お年寄り、家族の和」「心、体、暮らしの支援」「癒し、看取り、安らぎのあるもの」。

 2002年1月には龍谷大学と滋賀医科大学の「交流ワーキンググループ」も結成された。
 今後は、人材育成のための「医療福祉教育研究センターの設置と運営」のほか、関係者のネットワークによって児童虐待や家庭内暴力に対処する「虐待家庭内暴力対策ネットワーク事業」、痴呆高齢者介護の質を高めるための「痴呆高齢者介護向上促進事業」、障害者に対する人権尊重意識の普及を目指す「障害者理解促進事業」に着手することになっている。

 この試みは文部科学省が今年から実施している「地域貢献特別支援事業」の選定も受けている。

3月8日(土)に本学、滋賀医科大学、滋賀県の3者共同で「痴呆高齢者と家族の生活支援について〜あなたの悩みに応えるために〜」と題してシンポジウムを開催予定。
詳しくは(077-543-7760 社会学部教務課まで)



中小企業経営革新講座2002
 「龍谷エクステンションセンター(REC)」は、1991年より滋賀県の瀬田学舎を拠点に社会連携活動を展開してきた。昨年4月、京都・深草学舎にも「REC京都」を開設し、コミュニティカレッジを開講。今年から、産学連携の新たな事業に取り組んでいる。

大学発ベンチャー企業数全国トップクラス

(財)京都産業21に登録の中小企業診断士や経営コンサルタントの指導で、グループ別にビジネスプランの作成をした。
 RECは、理工学部を擁する瀬田学舎に誕生したことから、レンタルラボを中心にモノ作り系の産学連携を推進してきた。2000年から実施されている大学から生まれたベンチャー企業数調査で、龍大は全国1位。昨年2位、今年は慶応大、早稲田大についで3位と、素晴らしい成果をあげている。

 これに対し、新たに誕生した「REC京都」では、深草学舎にある経済、経営、法の社会科学系学部の知的資源を生かす。マネジメントを中心とした産学連携に焦点を当てて、産学公連携事業を進めることとし、その第1弾として今秋「中小企業経営革新講座2002」を開講した。

 この講座は、中小企業の新規事業の立ち上げや、第二創業を金融、税制、助成等で支援する「中小企業経営革新支援法」の利用を促すことを目的に、京都府中小企業総合センターならびに財団法人京都産業21と共催、さらに、京都信用金庫、中小企業金融公庫の協力を得て企画、実施された。まさに産学公による連携講座である。

ゼミ形式で事業アイデアを形に

 企画責任者である佐藤研司RECセンター長はその狙いを―

 「中小企業の方は事業アイデアや意欲を持っています。しかし、事業計画を立てることが余り得意ではありません。これはアイデアを具体化するための講座です。計画を作成するための基礎的な学習やケーススタディは講義形式で行ない、個別のアイデアのブラシュアップは大学における少人数教育のゼミ形式で対応することで、参加者の個別のニーズに応えることができると考えました」と、語る。

 募集人数はゼミ形式を取り入れたため40名に限定。現在の会社で新事業を立ち上げようという人や、スキルアップを目指す人たちで定員枠いっぱいの申し込みがあった。土曜日の午後の4週連続という厳しいスケジュールにも関わらず参加者の熱い思いが伝わってくる講座となった。

 講座の最初は上山大峻学長の「空の思想」からスタート。日頃あまり触れることのない仏教の話に参加者全員興味津々の様子。最終日の懇親会でも話題となっていた。2講目は佐藤センター長による「競争優位を作り出す経営革新とは」、続いて中小企業総合センターの小谷貞夫氏による「経営革新のすすめ」。厳しい経済環境の中、特に、京滋地区の現状を考えると、アイデアだけでは成功はおぼつかないことを参加者全員で改めて確認した。

成功事例に刺激を受ける

受講者の年齢層は幅広い。講師は佐藤研司RECセンター長。経営学部教授で専門はマーケティング論。「商品力時代のニューマス・マーケティング」などの著書がある。
 2週目はケーススタディ。独自の工夫で第二創業を成し遂げた静岡の沢根スプリング株式会社の沢根孝佳社長から説得力ある成功物語を聞いたのち、続いて京都府の経営革新支援法での成功事例を小谷氏が4例紹介。その後、佐藤センター長のケースリードでディスカッションが行なわれ、最終的に成功事例から読み取ることのできる新規事業、第二創業に向けての共通事項を洗い出した。

 3週目からはいよいよ少人数によるゼミ形式での個別アイデアのブラシュアップ作業がスタート。5つのクラスに分かれて、それぞれコーディネーターの指導のもと、各自自分の事業プランを完成させるべく真剣に取り組んだ。今回のコーディネーターは、京都産業21に登録する経営コンサルタントの5名。実際のビジネスプランを完成させるサポートということで熱のこもった指導が行なわれた。最終の第4週にはお互いのプランを発表しあい相互に確認することで、いろいろな考え方を学ぶこともできた。

開かれた大学に一層の努力

 講座終了後、懇親会が開かれ、参加者、コーディネーターに加えてREC常任委員や経営学部の教員も参加し、大学との交流を深めてもらうと同時に、講座の続きのようなかなり生々しい話も飛び交う活況のある会となった。アンケートによれば受講者の満足度は高く、今後も講座やセミナーへの参加を始め、経営診断や、問題解決の提言、新規事業の立ち上げ支援、事業計画のブラッシュアップなどをRECに期待している。

 「結果としてこの講座受講者のうち、どのくらい経営革新法に適合するプランが生まれるのかは少し時間をみないと判断できませんが、京滋の中小企業の躍進に向けての火種があることだけは確認できました。今回参加された企業の方と今後とも何らかのネットワークを作っていきたいと思っています。問題解決や起業の手助けのためにREC京都が、本学教員との橋渡しができればとも思っています。大学という枠に閉じこもるのではなく、地域社会との開かれた関係づくりに一層努力していくつもりです」と佐藤センター長。

 REC京都にもIT関係のレンタルラボ設置も計画されている。

■トップページへ