BOOKS
 
2004年度出版助成
 

漢字文化の回路−東アジアとは何か− 李相哲(社会学部助教授)著

 本書は、「文字」と「宗教」が文化の本質をなすという持論に基づいて中国、韓国、日本の文化を比較分析している。漢字誕生以来、中国は規則正しい盛衰の歴史(サイクル)を繰り返してきた。中国を繁栄に導いたり、没落や崩壊へ向けて突き進むようにしたりしたのは一体何だったのか。経済でも、政治でも、軍事力でも、科学技術力でもない。それは文化であった、と著者は主張する。中国文化の本質が中国や中国人の生きざまを決め、規則正しい興亡のサイクルをつくった。韓国も、日本も同じく文化の本質が盛衰の決め手となり、独自の文化、歴史をつくったのであると主張する。そこで本書は中国、韓国、日本文化の本質をなす、それぞれの国の言語(文字)と固有宗教を比較研究している。なお、中国、韓国、日本にまたがる膨大な文献、史料を駆使しながら、文化的事実、実例をもって三カ国の文化を分かりやすく解説している。

2004年9月刊/420頁/凱風社/2940円
漢字文化の回路−東アジアとは何か− 李相哲(社会学部助教授)著

アメリカの企業社会−グローバリゼーションとIT革命の時代 夏目啓二(経営学部教授)著

 本書は、グローバリゼーションとITの技術革新がアメリカの企業社会にどのような影響を及ぼしているのかを明らかにしている。その特色は、研究対象をアメリカ企業にではなく、アメリカの企業社会においている点にある。また、アメリカ企業を経済、法律、経営との関係から分析するだけではなく、広く社会や政治との相互関係の中で分析している。ここでいう「社会」というのは、企業との間にさまざまな利害関係のある者(ステイクホルダー)を指している。アメリカ企業のステイクホルダーを、株主や機関投資家、取締役のみならず、債権者、供給業者、従業員、消費者、地域社会、自然環境、地方政府、中央政府など広くとらえ、その相互関係を分析している。

2004年9月刊/225頁/八千代出版/2625円
アメリカの企業社会−グローバリゼーションとIT革命の時代 夏目啓二(経営学部教授)著

共同研究活動


■龍谷大学善木叢書第24巻

詞源要略・和歌会席 大取一馬(文学部教授)編

 本書は龍谷大学大宮図書館所蔵舟橋家旧蔵の『詞源要略』『和歌会席』(共に清原宣賢自筆)を影印し、その翻刻と解説を加えて出版したものである。清原宣賢は明経道を家業とする室町時代の著名な儒学者で、古典学の方面でもしかるべき業績を残した人物である。彼の著した『伊勢物語惟清抄』は三条西実隆の伊勢物語講義の聞書であり、『詞源要略』は、和歌・連歌詠作のための用語辞書である。本書に収めた『詞源要略』は歌語付注辞書であって、天下の孤本である。一方の『和歌会席』は和歌の作法書であって、共に宣賢の家業とは異なる和学(古典学)としての業績である。両資料が今後、宣賢の学問や、辞書史・歌学史の解明に役立てば幸いである。

2004年3月刊/思文閣出版/284頁/1万9950円
詞源要略・和歌会席 大取一馬(文学部教授)編


■龍谷大学国際社会文化研究所叢書3

中国北方仏教文化研究における新視座 嵩満也(国際文化学部教授)編

 本書は、龍谷大学国際社会文化研究所で行なった共同研究の成果をまとめたものである。近年、中国北方地方、具体的には山東省、遼寧省、吉林省、黒竜江省の各地で、北朝代から唐代にかけての仏教遺跡の発掘調査が活発に行なわれている。共同研究では、4年間にわたりこれらの地域へ現地調査を実施し、資料の収集に努めた。本書に収録されている論文は、基本的にそれらの新資料を踏まえ執筆されたものであるが、そこに共通した問題意識は、これらの地域の仏教文化を、中原に栄えた仏教文化を中心に置いて周辺的に理解するのではなく、それぞれの仏教文化の多様性と独自性をできるだけ多角的に明らかにしようとしたところにある。

2004年3月刊/156頁/永田文昌堂/5250円
中国北方仏教文化研究における新視座 嵩満也(国際文化学部教授)編


■龍谷大学社会科学研究所叢書第59巻

分権社会の到来と新フレームワーク 白石克孝(法学部教授)編

 20世紀の最後の十数年間は、世界的に行政に対して既存のフレームワークの転換を迫るような、さまざまな課題を突きつけた時期だった。公共性の問い直し議論と市民社会論の再興をともないつつ、行政に対して新フレームワークを提示しはじめているのが現在の到達点である。本書では、分権社会の到来という視点から、新フレームワークについて、事例と理論との両面から論じている。ここでは、地方自治の在り方、NPOなどの台頭の意味付け、まちづくりや福祉のパラダイム転換、参加と協働の展望と課題など、現代社会のいくつものキーワードが論じられている。これからの社会と行政の在り方に関心を寄せるすべての方々にお薦めしたい。

2004年3月刊/283頁/日本評論社/5250円
分権社会の到来と新フレームワーク 白石克孝(法学部教授)編

「龍谷」出版情報


『宗教の教学 ―親鸞のまねび』
高田信良(経営学部教授)著


 21世紀現代の宗教多元状況で「仏教とキリスト教」の宗教対話を試み、親鸞の「信」への関心の視点から現代における宗教的真理を思索した宗教哲学論考である。

2004年5月刊/282頁/法藏館/3990円

『有機EL材料技術』
木村睦(理工学部講師)共著


 薄膜トランジスタ有機ELディスプレイの各種駆動方式を説明し、新駆動方式を提案し、システムオンパネル・画素メモリ内蔵構造について紹介する。

2004年5月刊/279頁/シーエムシー出版/6万8250円

『ジェネラリスト・ソーシャルワーク』
山 朗子(社会学部教授)共訳


 統合化以降のソーシャルワーク理論であるジェネラリスト・ソーシャルワークの内容を体系的に示した理論書。新しい実践概念を組み込み、社会福祉実践の全体像を提示した。

2004年6月刊/611頁/ミネルヴァ書房/1万2600円

『コミュニティソーシャルワーク(ワークブック社会福祉援助技術演習5)』
筒井のり子(社会学部教授)編

 コミュニティソーシャルワークの技法・技術を実践的に学ぶためのワークブック。各章ごとに理論面の解説も行なっている。

2004年6月刊/126頁/ミネルヴァ書房/1700円

『保育所の民営化』
田村和之(法学部教授)著

 最近の保育所に関する制度・政策を、保育所を利用する国民や保育者の立場に立って、法学的見地から分析・解説し、問題点をえぐり出している。

2004年7月刊/98頁/信山社/997円

『オルター・グローバリゼーション宣言』
杉村昌昭(経営学部教授)共訳

 1976年に『なぜ世界の半分が飢えるのか』で衝撃的なデビューをしたスーザン・ジョージのライフワーク。21世紀のありうるべきもうひとつの世界を提示している。

2004年8月刊/330頁/作品社/2100円

『アルカイダ ―ビンラディンと国際テロ・ネットワーク』
坂井定雄(法学部教授)共訳

 英紙オブザーバ・バーク記者著の翻訳。「9・11」実行を宣言したビンラディンが率いるアルカイダの全容を解明した、日本では初めての出版である。

2004年9月刊/452頁/講談社/2625円

『冷戦後の日中安全保障』
坂井定雄(法学部教授)訳

 欧州の日本外交・安全保障専門家ドリフテ教授の著書の翻訳。日中安全保障関係のダイナミズムを、日本の関与政策を軸に総合的に分析し、未来を予測している。

2004年9月刊/263頁/ミネルヴァ書房/5040円

『中央アジアの歴史・社会・文化』
間野英二(文学部教授)共著

 古代から現代に至る中央アジアの歴史を、歴史・社会・文化の三部構成で概観したもの。放送大学授業科目の印刷教材として出版された。

2004年9月刊/302頁/放送大学教育振興会/3150円

『外国人の定住と日本語教育』
田尻英三・田中宏(ともに経済学部教授)共著

 外国人の定住問題に対して日本語教育をキーワードに多方面からアプローチした初めての書。日本語教育の現場で直面する問題に対して、他分野の知見も積極的に取り入れることで、新しい解決方法を探る。

2004年10月刊/164頁/ひつじ書房/2100円

『新世紀アメリカ文学史 ―マップ・キーワード・データ』
松岡信哉(文学部講師)共著

 アメリカ文学史の教科書として執筆。独自に選定したキーワードに基づくアメリカ小説史の記述や、主要批評文献の解題など、これまでにないアメリカ文学史テキストを目指して編纂した。

2004年10月刊/235頁/英宝社/2520円

『カリブの風 ―英語文学とその周辺』
松岡信哉(文学部講師)共著

 カリブ海地域の文化や文学を多角的に紹介する。筆者は黒人介護士としてナイチンゲールと比較されるメアリー・シーコールの自伝を紹介している。

2004年10月/286頁/鷹書房弓プレス/3150円

『医療財源論 ―ヨーロッパの選択』
松 憲雄(社会学部教授)訳

 著名な保健医療政策研究者が、欧州の国々の経験に基づき、必要な医療財源を確保するための、公平で効率的な財源政策を論じた研究書の翻訳である。

2004年10月刊/331頁/光生館/3570円

『爆発的パワー養成プライオメトリクス』
長谷川裕(経営学部教授)訳

 各種スポーツで必要とされる爆発的パワーを養成するトレーニング方法として注目を集めるプライオメトリクスについての理論と実際の書である。

2004年11月刊/194頁/大修館書店/2100円

『インド 国境を越えるナショナリズム〈新世界事情〉』
長崎暢子(国際文化学部教授)著

 インドの近代化と独立を支えたナショナリズムは、ときに国境に閉ざされた内向きの論理として、ときに国境を越えたインド移民コミュニティの論理として、「悠久のインド」イメージを塗り替えようとしている。

2004年11月刊/150頁/岩波書店/1890円

『NPOの電子ネットワーク戦略』
松浦さと子(経済学部助教授)共著

 NPOの電子ネットワーク戦略を調査。企業や国家から自立する市民運動の広がりと、その背後の情報化・グローバル化との関連を分析する。

2004年11月刊/240頁/東京大学出版会/3990円

『「後漢書」第八冊 列伝六(巻五十四〜六十五)』
吉川忠夫(文学部教授)訓注

 「後漢書」のすべてについて訓読を行ない、注釈を施し、適宜現代語訳を付す。本冊は『三国志』世界と交錯するところが多い。

2004年11月刊/626頁/岩波書店/1万4700円

『理工系の数理 微分積分+微分方程式』
四ツ谷晶二(理工学部教授)共著

 高校1年生程度の予備知識で、微分積分の基礎から、現象を解析するため最重要な道具となる微分方程式の基礎までを、易しく明快に解説した。

2004年11月刊/306頁/裳華房/2835円

『プラクティカルジーニアス英和辞典』
東森勲(文学部教授)編集主幹

 外国人に日本文化を発信したり、英語の意味をより深く理解するための英和辞典で、例文には日本文化を英文にした〈日本初〉や、〈ジョーク〉マークもある。

2004年11月刊/1964頁/大修館書店/3045円

『日本地名学を学ぶ人のために』
糸井通浩(文学部教授)編

 地名は無形の文化財。しかし、地名学はまだ若い学問である。これからこの学問を志す人のために、研究の種々層について概説した、本格的な手引き書。

2004年11月刊/340頁/世界思想社/2415円

『傷ついた生命を育む ―虐待の連鎖を防ぐ新たな社会的養護』
金子龍太郎(社会学部教授)著

 本書は、親から虐待・ネグレクト(放置)された子どもの保護育成に対して、多角的に論じ、国際児童支援組織「SOS子どもの村」の意義を説き明かした。

2004年12月刊/270頁/誠信書房/2520円

『「TOEIC 」 Test スキルアップ・リスニング編
Tips and Techniques for the TOEIC Test』
李洙任(経営学部教授)編著/角岡賢一・嶋林昭治(共に経営学部助教授)著

 苦手なリスニングでも、重要な情報を大づかみに理解する方法(トップダウン方式)を用い、文法や語彙が能動的に使えるようにすることを目的としている。ラップ音楽にのって楽しくボキャブラリーを学んだり、Web上でプラクティステストを紹介するなど今までにない教材である。

2004年12月刊/229頁/郁文堂/2415円

『身体で読むファンタジー ―フランケンシュタインからもののけ姫まで』
細川祐子(文学部講師)共著

 身体にかかわる象徴や引喩でファンタジーをスリリングに読み解いている。恐怖物語の古典(フランケンシュタインやドラキュラ)から宮崎作品までを貫くものは何かを解説している。

2004年12月刊/240頁/人文書院/2520円


読者のひろば

『ひなたのゲタ』

 この病気(パーキンソン病)が発病して、約10年。その間、いじけて、くじけて、へこたれて、ひがんだり、うらんだりしたこともあります。発病をきっかけにして、創作の意味が切実さを増したように思う。ずいぶん長い間、大事にしまっておいたゲタとおかしな版画や詩や歌などを日なたに出しました。(本文から)
古城敏夫(1981年文学部哲学科哲学専攻卒業・岡山県小田郡)

2004年3月刊/91頁/あさひ印刷所/1500円

ひなたのゲタ

『いのちの夢 難病の子どもたちが願ったこと』

 幼い体で難病と闘う子どもたち。そのささやかな「夢」を叶えるボランティア団体がある。彼らの夢が実現したとき奇跡は起った。感動の実話集。幼いからだに難病をかかえる子どもたち。病室のベッドのなかで彼らはいろんな「夢」を育てている。けれども、重い病気のせいで遠くに出かけるどころか、起き上がることすらできない子もいる。夢はやっぱり夢でしかないのか。あるボランティア団体が、彼らの願いをかなえてくれた。あこがれの夢の実現に、かけがえのない笑顔を見せてくれた子どもたち。そして、信じられない出来事が彼らの身に起こる。夢は「いのち」に何を与えてくれたのか。いつまでも心に残るこれらの物語は、すべてほんとうにあった話なのだ。
矢貫隆(1977年経営学部経営学科卒業・ノンフィクション作家・東京都千代田区)

2004年11月刊/179頁/草創社/1260円

いのちの夢 難病の子どもたちが願ったこと

『さるすべりランナーズ』

 速人は、足が遅い。六年二組のみんなから、「のろと」とよばれている。そんな速人が、秋の運動会を目指して、クラスメートの強士・潤子と走る練習を始める。強士と潤子は、複雑な家庭環境を抱えながら前向きに生きている。速人は、二人から大きな影響を受ける。そして、現実としっかり向き合って歩むようになる。

浅田宗一郎(1987年文学部仏教学科真宗学専攻卒業・僧侶・大阪府堺市)

2004年12月刊/167頁/岩崎書店/1260円
さるすべりランナーズ


『まほろばの僧 高田好胤』

 奈良・薬師寺の管長の高田好胤は、寺を訪れた修学旅行生に、青空説法をして仏教のタネまきをした。経済成長を謳歌していたときに、「物で栄えて心で亡びる」と警鐘をならした。般若心経の百万巻の勧進をし、全国を行脚して浄財を募り、白鳳の伽藍をよみがえらせた。多くの人から慕われた好胤の魅力はどこにあったのか。その生涯を、龍谷大学の後輩でジャーナリスト出身の筆者が、とっておきのエピソードを添えて、達意の文でまとめた話題の書。
太田信隆(1954年文学部文学科国文学専攻卒業・龍谷大学校友会会長・奈良県生駒郡)

2005年1月刊/296頁/草思社/1890円

まほろばの僧 高田好胤