龍谷 2006 No.61

教員Now 国際文化学部教授/ジョナ・サルズ 西洋演劇と伝統芸能の融合で新しい表現を目指す『実践派』

国際文化学部教授 ジョナ・サルズ
国際文化学部教授
ジョナ・サルズ

1956年3月、アメリカ・ニューヨーク州生まれ。
ハバフォード大学卒業。PhD.(ニューヨーク大学)。
研究分野は演劇。
狂言、ベケットからインターカルチャー演劇まで幅広い。
1981年「能法劇団」を茂山あきら氏と結成。演出家でもあり、自ら舞台に立つことも。
1984年には日本の伝統芸能のワークショップ「TTT(トラディショナル・シアター・トレーニング)」を創設するなど多彩な活動を行なっている。

『猿之助歌舞伎』に魅せられて日本へ

 龍大には、10年前、国際文化学部が開設されると同時に着任した。
 研究分野は演劇。専門は比較演劇論で、自らも「能法劇団」という西洋演劇と日本の伝統的な能・狂言の技術を融合した、ユニークな劇団を主宰している。
 「劇団は1981年に狂言師の茂山あきらさんと一緒に旗揚げしました。早いものでもう25年になります。最初は、こんなに続くとは思いもしなかったですね」と穏やかに笑う。
 劇団では主に、ベケットやイェーツ、シェイクスピアの作品を題材に、実験的な舞台を展開。新作狂言も同時に行なっている。内容は、日本の伝統芸能にパントマイム、ダンス、演劇などの要素を幅広く取り入れた斬新なものだ。
 サルズ教授は、高校時代から演劇を志し、将来は演出家か脚本家、評論家になりたいと思っていたとか。ニューヨークでの大学時代から、数え切れないほどさまざまな舞台を観てきた。卒業後は、ロンドンに留学。シェイクスピアを研究していたが、そこで『王様と私』の東洋的なダンスや歌舞伎を見て、日本に興味を持ったのだという。直接の来日のきっかけは、市川猿之助の歌舞伎公演を観たこと。
 「生まれて初めて歌舞伎を観たのですが、たまたま一番いい席だったこともあって、生の声の発声法や、内面的なものよりも型をきれいに作って入れていく手法に、とてもショックを受けましたね。大衆的なエンターテインメントでありながら、芸術的な質も高いところが素晴らしいと思いました」
 そこで、一念発起し、日本の伝統芸能を学ぼうと来日を決意。当時は「日本語もまったく話せない状態」だったそうだ。しばらく熊本で英会話の講師をしながら日本語を勉強。そのうち「能・狂言などの日本の伝統芸能を勉強するならやはり伝統息づく京都で」と思いが募り、半年後には熊本を後にした。
 京都に着いて、すぐに大きな出会いがあった。
 「先斗町にあるジャズのライブハウスに通っていた時に、偶然、茂山あきらさんも来ていて、お互いジャズが好きということで話が弾みました」
 茂山さんとは一度コラボレートしてみたいと思っていたというサルズ教授。お互いカタコトの日本語と英語で話をするうちに、西洋の戯曲と日本の能・狂言の技術と精神が融合した公演をやってみようとすっかり意気投合。
 「最初は1回きりの予定でした。茂山さんは、狂言を広く大衆に知ってもらうため、新作狂言にも積極的に取り組んでいる人なので、すぐに実現したんです。茂山さんのあらゆる動きが狂言そのものなので、ベケットの作品を当てはめたら、実にうまくいきました」
 この公演は、当時ベケットの「不条理劇」を知らなかった茂山さんにとっても、刺激的なものだったようだ。1回だけの実験的な公演のはずが、意外にも反響がよく、劇団として定期的に続けることになった。
 現在、劇団は、京都市中京区にある大江能楽堂などで定期的に公演を行なっている。また、海外公演も積極的に実施。今までにアメリカ、イギリス、フランス、ポーランドなどで公演を行ない、高い評価を得てきた。

自国の文化を知らないのは「恥ずかしいこと」

 「伝統芸能論」や「演劇入門」を受講している学生たちに、劇団の公演を鑑賞させ、レポートを書かせている。
 「学生の反応はさまざまですね。それまで伝統芸能はもちろん、演劇の生の舞台を観たことがない学生が多いので戸惑ったようです。劇が始まるとトイレにも行けないし、私語もできない(笑)。でも、ほとんどの学生が『能・狂言は古臭いと思っていたけれど行ってよかった』とか『前衛的な世界演劇なのだということが分かった』『もっと能や実験的な舞台を観てみたい』と言ってくれます」
 昔に比べると、若い世代で能や狂言に対する関心が高まってきているのを感じるとサルズ教授は言う。
 「海外では、必ず日本の伝統文化のことを聞かれますよね。その時に、『自国の文化や伝統芸能について何も知らないのは恥ずかしい』と思う学生が増えてきているのではないでしょうか」
 今後の目標は、2006年に25周年を迎える「能法劇団」の記念公演を成功させること。京都、東京はもちろんのこと、「全国ツアーもやりたい」と夢はふくらむ。
 「私たちのやる演目の中で、三つの作品は誰でもどこでも楽しめるという自信があります。それは、たぶん100年後も、どこかで上演していると思いますよ」と熱く語る。
 『新しい古典』を目指して、まだまだ西洋と東洋の融合の試みは続きそうだ。

「Hide & Seek かくれん坊」の一幕
2005年12月19日、大江能楽堂で行なわれた能法劇団「Hide & Seek かくれん坊」の一幕(写真中央奥がサルズ教授、左が茂山あきらさん)。英語・日本語の二ヶ国語を用いながら、能・狂言を西洋演劇と融合させて上演した。



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