龍谷 2006 No.61

専門家に聞く
今回のテーマ

増田啓子教授
<回答者>
経済学部
増田啓子教授
法政大学大学院人文科学研究科修士課程修了。専門は環境科学。主に気象学・気候学分野。共著に『環境学入門』(環境新聞社)がある。
昨年「京都議定書」がようやく発効

 ―昨年は夏のクールビズ、冬にはウォームビズと政府主導の省エネ対策がうたわれました。CMでも「環境にやさしい」という主張がやけに多かったように思いますが。
 1997年12月、京都で開かれた温暖化防止のための国際会議「気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)」で決められた国際協定「京都議定書」が、昨年2月16日にようやく発効され、各国で本格的な取り組みがスタートしたからです。京都議定書はあくまで大枠の取り決めで、ルールやガイドラインを決めるために、これまで何度も何度も会議が開かれてきたのですよ。

 ―「京都議定書」では、どんなことが決められたのですか。
 二酸化炭素(CO2)に代表される温室効果ガス、つまり温暖化に導く要因を2008年から2012年の間に、先進国がまず1990年レベルより平均約5%削減するというもので、削減対策の道筋をつけることが決まりました。日本ではほとんどCO2が対象ですが、オーストラリアでは羊のゲップ、低緯度の国では永久凍土に含まれるメタンガスもカウントされ、到達しないとペナルティーが課せられます。しかし足並みは一様ではなく、アメリカは議定書からの離脱を宣言していますし、今、盛んに工業化が進む中国も含まれていません。

 ―日本の削減目標は達成できるのでしょうか。
 6%削減が義務付けられましたが、すでに年々、CO2の総排出量は増え続け、03年度には90年比で約8%も増え、義務達成には計14%の削減が必要です。しかし“逃げ道”もあって、まずCO2を吸収する森林に対して認められる「森林吸収源」では3.7%減が認められています。それに、途上国で開発援助した温室効果ガス削減システムで生じた削減分がカウントされる「クリーン開発メカニズム」や、CO2をあまり出していない国から余剰分を買うことのできる「排出量取引」などを目標達成するために算入することができます。でも、それらすべて差し引いても6%以上は自国で削減しなければならないでしょう。となると非常に難しい目標値ですね。

異常気象や集中豪雨など日本でも温暖化の影響が…

 ―温暖化の影響はどんなところに現れていますか。
 北極や南極で氷が解けて水位が上がり、海水が陸地を浸食して農作物が作れなくなっています。そしてオゾン層破壊による紫外線の影響は、北欧やオーストラリアなど低緯度の国で深刻です。子どもたちには日焼け止めをつけることを徹底していて、それだけ皮膚がんや体への影響が心配されているのです。
 日本ではあまり大きな影響が現れていないので、危機感がないのが問題です。でも、このところの夏の暑さは尋常ではないでしょう?ヨーロッパでも2003年に熱波があり、多くのお年寄りが亡くなりました。温暖化の反動で急速に氷河期が訪れるという映画がありましたが、十分、起こりうる話ですね。

 ―そういえば、最近の台風被害はすごいですね。
 台風の発生数は変わらないのに、上陸数が増えたのは高気圧の張り出し方が変化してきたからです。アメリカの巨大ハリケーンも海面水温が0.5度上がったのが原因で、インド洋の地震大津波も海面が通常より高くなっていたから被害が大きくなったとも考えられます。今年の大雪も海面水温の上昇と関係しています。日本でもシトシト雨が少なくなって、スコールのような雨が増えたと思いませんか。1時間に55ミリ以上の雨が降ると京都市でもマンホールの蓋が浮いてきますが、最近はもっともっと雨が降ります。アスファルトを土に戻したり、緑の領域を増やすといったヒートアイランド抑制策が進んでいますが、これは都市型洪水防止にも役立つと思います。

 ―先生は紅葉の写真を同じ場所で約10年間撮影しているそうですが。
 八坂神社など我が家の近くで標準木を決めて撮影しています。年々、紅葉シーズンが遅くなって、紅葉の色が汚くなっていることが分かりました。桜の開花も年々、早くなっていますね。熱帯でしか生息できなかった動植物が生息可能になっていて、琵琶湖のブラックバスやブルーギルはその典型。伊吹山でも高山植物がどんどん減っていて、本当に生態系が狂ってきていますね。大学近くの京阪深草駅のホーム下には熱帯性のホウライシダが定着し始めています。
 でも一番恐いのは食糧問題です。今、日本の食糧自給率は30〜40%ですが、異常気象や塩害で食糧が入ってこなくなることも十分に考えられます。

2002年
2005年
近年では比較的早くてきれいだった2002年の京都・清水寺の紅葉(上)と、温暖化により色づきが遅くなる傾向に加え、都市域ではあまりきれいでなかった2005年の紅葉(下)。同時期に同じ場所で見比べてみると違いが分かる
(増田教授撮影)

一人ひとりが気をつけることから始めよう

 ―では、私たちはどのように気をつければいいのでしょう。
 冷暖房を控える、節水する、自家用車をなるべく使わないなど、いっぱいあります。例えば、暖房の温度を21℃から20℃に、冷房の温度を27℃から28℃に設定するだけで、年間一家庭あたりで計31.6kgもCO2の排出が削減できるのです。金額に換算すれば一家庭で年間約2000円は節約できますよ。たった1℃だけでも日本国民一人ひとりが気を付ければ、効果は絶大です。むやみに消費しすぎないのが大切で、適量生産・適量消費で循環型社会を目指したいですね。
 外食やコンビニで捨てられる食料はものすごい量です。考えてみれば、京都の“いちげんさんお断り”って、予約客のためだけに必要な分を用意をするので無駄がない良い方法ですね。クールスポットとしての坪庭や、打ち水をする習慣など、古都ならではの知恵だと改めて感心しています。 そして大事なのは環境教育。小中学校の時に少しは学ぶようですが、高校生や大学生、そして大人に環境教育が行き届いていないことを痛感しています。各都道府県には温暖化防止のためのセンターが設置され、ボランティアを育成するなどの活動をしていますから、積極的に情報を得て、温暖化防止に役立つ生活を心掛けてほしいと思いますね。

※今号からスタートしたこのコーナーでは、身の回りのニュースの中身について、「素朴な疑問」「今さら聞けないこと」などを龍大の教授陣がお答えします。皆さんも取り上げてほしいテーマがありましたら、学長室広報までお寄せください。

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