龍谷 2006 No.62
私のミュージアム26 和鋼博物館 足立美術館

今号のミュージアムの舞台は島根県安来市。
卒業生が学芸員を務める「和鋼博物館」と、
龍大顕真館に掲げられた陶板画「祇園精舎」の原画がある
「足立美術館」。今回は2つのミュージアムをどどんとご紹介!

高殿
 ↑たたらの大きな工房は「高殿」と呼ばれた。4本の主柱によって支えられ、屋根は栗の薄板葺き。屋根の真ん中は取り外し可能で、防水用の桶が置かれていた。
 ↓たたら製鉄の原理は、砂鉄を木炭の燃焼によって還元、溶解し、炉壁を侵食して生成するノロ(鉄滓)を排出しながら、徐々に大きな鉄塊( )を成長させるというもの( 押し法)。展示されている は約3トン。部位によって炭素量が異なり、砕いたあと数種類の等級に分けられる。
たたら製鉄の原理は、砂鉄を木炭の燃焼によって還元、溶解し、炉壁を侵食して生成するノロ(鉄滓)を排出しながら、徐々に大きな鉄塊( )を成長させるというもの( 押し法)。
和鋼博物館 先人の智恵と情熱を今に伝えるたたら製鉄のすべてが一堂に
安来湾に面して建つ和鋼博物館
安来湾に面して建つ和鋼博物館。外観のユニークな形は、かつて、たたら製鉄が行なわれた建物「高殿」をイメージしているとか。お隣は日立金属安来工場。博物館の前身は、昭和21年に開館した工場付属の展示施設「和鋼記念館」である。

 JR「安来」駅から海に向かって1キロ余り。静かな内海の安来港に面して「和鋼博物館」が建つ。
 和鋼とは、伝統的製鉄法「たたら」で生産される日本(和)の鋼という意味。日本刀づくりに欠かせない玉鋼を含む良質の鋼である。古代から中国山地では、原料となる良質の砂鉄が多く採れ、さらに燃料の森林資源も豊富であったことから、江戸時代後期には鉄総生産量の80%を占めていたといわれる。そして安来港は鉄の積出港として栄えた。
 1993年に開館したこの博物館では、砂鉄の採取法やたたら製鉄法の詳細のみならず、たたらで生まれた日本刀剣なども紹介する鋼の総合博物館である。近代製鉄法が普及した今もなお、この地方では、たたら製鉄が生き続けていることを博物館で流されている映像で知り驚いた。
 粘土でつくった釜に大量の木炭と砂鉄を入れ、「ふいご」で空気を送りながら3日3晩、休みなしで鉄をつくる様子は、まさに人と自然の共同作業。先人たちの知恵と情熱が、そのまま今も受け継がれていることに敬意を覚える。生産された玉鋼は全国の刀匠に送られ、日本刀の伝統を支え続けている。

たたら製鉄の炉と天秤鞴
たたら製鉄の炉と天秤鞴
両側の「天秤ふいご」は実物で、国の重要有形
民俗文化財に指定されている。江戸中期に発明され、中国山地での鉄の生産量を飛躍的に増大させた。ふいごを担当する人は番子と呼ばれ、3人交代で受け持つことから「代わり番子」という言葉が生まれたそうだ。ロビーでは「天秤ふいご」の体験ができる。脚踏み式で、少し試しただけでも息があがる。

子どもたちの誇りとなる故郷のシンボルに
和鋼博物館学芸員 高岩俊文さん 2001年文学部史学科東洋史学専攻卒業

 小学生の頃から歴史が好き。歴史や文化に関する仕事がしたいという漠然とした夢が、龍大で博物館実習を受けるうちに明確になり、学芸員をめざすようになりました。
 故郷の博物館で働くことができて本当に幸運です。先生方に厳しく鍛えていただいたことが役立っていますね。研究したことを発信し、多くの人から反応が返ってくる学問の面白さを知ったのは学生時代ですが、まさに学芸員の仕事と共通していると感じます。
 実は僕の祖父は刀の研ぎ師。家に仕事場があったので、子どもの頃から日本刀とはなじんでいます。それに博物館の前身である和鋼記念館の時代から祖父が展示品の日本刀の手入れをずっと担当していたそうで、不思議なご縁を感じます。
 地域に密着したテーマを持つ博物館ですから、観光客だけでなく、地元の人たちに自分たちの文化を紹介していくという役割も担っています。これからも安来の人が胸を張って誇れる故郷のシンボルとして、さらに親しまれる博物館になるよう努力していきたいですね。

〈平成18年度 秋季特別展〉
「河井寛次郎
ふるさと安来の名品展」

10月31日まで
和鋼博物館第2展示室
入館料600円

陶芸家・河井寛次郎は安来生まれ。生誕の地ならではの未公開作品を集めての展覧会。「河井さんは気前がよくて千点とも2千点ともいわれる作品を安来に残しています。行楽の秋、ぜひ八雲立つ出雲へお越しください」(高岩さん)
※安来市を含む近隣市町村では、たたら・和鋼・和鉄をキーワードに「鉄の道文化圏」を展開。和鋼博物館のほか、金屋子神話民俗館(安来市)、古代鉄歌謡館・鉄の未来科学館(雲南市)、たたら角炉伝承館・奥出雲たたらと刀剣館(奥出雲町)が協力して、伝統文化の保存・普及に努めている。

不純物が少ない玉鋼は「折り返し鍛錬」と熱処理によって、日本刀に仕上げられる。戦いの道具という使命を終えた今も、荘厳な芸術性が評価されている。 2階ラウンジからは、安来湾がぐるりと見渡せる。レストランも併設
不純物が少ない玉鋼は「折り返し鍛錬」と熱処理によって、日本刀に仕上げられる。戦いの道具という使命を終えた今も、荘厳な芸術性が評価されている。 2階ラウンジからは、安来湾がぐるりと見渡せる。
レストランも併設。
市内の子どもたちを対象にした「たたら体験」など地元の伝統文化を伝えるイベントも定期的に開催 たたらの炉に必要不可欠な風を送るための天秤鞴(ふいご)を踏む高岩さん。その昔、この鞴を踏む役が番子といわれ、3人交代で3日間踏み続けていたとか。
市内の子どもたちを対象にした「たたら体験」など
地元の伝統文化を伝えるイベントも定期的に開催。
たたらの炉に必要不可欠な風を送るための天秤鞴(ふいご)を踏む高岩さん。その昔、この鞴を踏む役が番子といわれ、3人交代で3日間踏み続けていたとか。

和鋼博物館
島根県安来市安来町1058
和鋼博物館 島根県安来市安来町1058
●開館時間 9時〜17時(入館は16時半まで)
●休館日 水曜日(祝日の場合は翌日)、
12月29日〜1月3日
●入館料 一般300円 高校生200円 
小・中学生無料
※ 団体割引、金屋子神話民俗館との共通券あり
●交  通 JR「安来」駅から徒歩15分
山陰道「安来IC」から車で10分
●問い合わせ 0854-23-2500
http://www.wakou-museum.gr.jp

足立美術館 日本庭園と大寒コレクションで名高い人気ミュージアム
足立美術館 日本庭園と大寒コレクションで名高い人気ミュージアム
平山郁夫画伯作「祇園精舎」(1981年)。深草学舎顕真館の陶版はこの作品を基に 画伯自らが監修し1984年に完成した。

 JR「安来」駅から今度は山側へ。美術館の無料シャトルバスに乗って約15分。のどかな里に足立美術館がある。
 1970年、実業家・足立全康氏の私邸と個人コレクションを開放して開館された美術館だが、現在では1日平均2千人もの入館者が訪れる国内有数の人気美術館になっている。
 足立美術館の見どころは、「日本庭園」と「横山大観コレクション」だ。1階のすべてが庭を愛でるための構成になっており、そのスケールに訪れた誰もが「ほぉー」と感嘆の声をあげていた。
 学芸員の織奥かおりさんは「毎朝、職員全員で庭の掃除をすることから仕事が始まります」と話す。庭といってもその面積は約1万3千坪。庭園部に所属する専門の庭師7人が日々丹精込めて手入れしているという。
 ぐるりと回って日本庭園を満喫した後は、2階の展示室へ。日本画を中心にした1300点もの収蔵品のうち、大観作品は130点と日本一の所蔵数を誇る。
 残念ながら、龍大ゆかりの平山郁夫画伯作「祇園精舎」は取材時、展示されていなかったが、和鋼博物館の高岩さんは「龍大の顕真館でよく見ていた『祇園精舎』が、足立美術館で展示されていた時は『えっ?』とびっくりしました。大きくて素晴らしかったですよ」。この絵の次回の展示は、来年6月の夏季特別展に予定(変更の場合あり)されている。

鯉が泳ぐ池庭。地下水を使っているため冬も温かく、鯉が冬眠しないという。 窓の向こうに枯山水式の大庭園が広がる。借景の山は毛利元就と尼子勝久の合戦の折、毛利方が陣を構えたところ。
鯉が泳ぐ池庭。地下水を使っているため冬も温かく、
鯉が冬眠しないという。
窓の向こうに枯山水式の大庭園が広がる。借景の山は毛利元就と尼子勝久の合戦の折、毛利方が陣を構えたところ。
「庭園もまた一幅の絵画である」との考えから、窓を額縁に見立て、庭を絵として楽しむ「生の絵」が館内のあちこちに。「生の掛軸」「生の額絵」も。
  「庭園もまた一幅の絵画である」との考えから、窓を額縁に見立て、庭を絵として楽しむ「生の絵」が館内のあちこちに。「生の掛軸」「生の額絵」も。

横山大観の作品ばかりを集めた「大観室」。代表作「無我」や「紅葉」など、年4回の展示替えで順次公開される。
横山大観の作品ばかりを集めた「大観室」。代表作「無我」や「紅葉」など、年4回の展示替えで順次公開される。

「秋季特別展・日本画の特色―その表現と技法」(11月30日まで)
横山大観、竹内栖鳳、上村松園、川端龍子、橋本関雪などの収蔵作品の中から、伝統的あるいは革新的な表現や技法などを用いて日本画の特色をよく伝える作品を紹介。大観室では名作「紅葉」(六曲一双屏風)も展示される。

館内にはゆっくりとくつろげる喫茶室と茶室が各2つずつ。庭を眺めながらおいしいお茶を飲むのも、この美術館ならではの楽しみ。
館内にはゆっくりとくつろげる喫茶室と茶室が各2つずつ。庭を眺めながらおいしいお茶を飲むのも、この美術館ならではの楽しみ。
足立美術館では、ゆっくりと景色と美術品を堪能してもらうために、たくさんの喫茶スペースがある。茶室「寿立庵」では、落ちついた風情の中、抹茶が楽しめる。
足立美術館では、ゆっくりと景色と美術品を堪能してもらうために、たくさんの喫茶スペースがある。茶室「寿立庵」では、落ちついた風情の中、抹茶が楽しめる。
足立美術館の名物として、竹炭スプーンがある。コーヒーをこのスプーンでかき混ぜるとまろやかな味へと変化する。足立美術館を訪れたなら、一度は試飲したいコーヒーである。1杯735円。
足立美術館の名物として、竹炭スプーンがある。コーヒーをこのスプーンでかき混ぜるとまろやかな味へと変化する。足立美術館を訪れたなら、一度は試飲したいコーヒーである。1杯735円。

足立美術館
島根県安来市古川町320
足立美術館 島根県安来市古川町320
●開館時間 9時〜17時半(4月〜9月)
9時〜17時(10月〜3月)
●休館日 年中無休
●入館料 大人2200円、大学生1700円、
高校生900円、小・中学生400円
※団体割引あり
●問い合わせ   0854-28-7111
http://www.adachi-museum.or.jp/


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