龍谷 2006 No.62
専門家に聞く2 ニュースの中身の素朴kな疑問 今回のテーマは
裁判員制度

平成13年11月に「司法制度改革推進法」が成立し、法科大学院の設置など
新しい司法のカタチが次々とスタートしています。
なかでも平成21年から始まる「裁判員制度」は、
国民が裁判に参加するというこれまでになかった制度。
「選ばれたらどうしよう!?」と不安に思っている人も多いはず。
さあ、じっくりと教えてもらいましょう。

<回答者>法科大学院 平野哲郎助教授
<回答者>
法科大学院
平野哲郎ひらのてつろう助教授
1992年東京大学法学部卒業。1994年から2002年まで裁判官として、横浜・札幌・大阪に勤務。専門は民法、民事訴訟法。司法制度論や憲法、医事法にも関心を持つ。裁判官時代に育児休業を取得したことから、男性の育児参加も呼びかけている。
 ―なぜ今、司法制度が改革されるのですか。
 いろいろな要因、様々な立場から改革の要望が高まってきた結果です。経済界からのニーズもあります。例えば、特許など企業の知的財産権についての裁判などは、日本の司法制度の場合、とにかく遅い。そこで海外で裁判をするわけですが、コストがかかるし不利です。国際間の競争力をつける意味でも司法改革が必要とされたわけです。
 新制度では、専門的な「知的財産高等裁判所」が設置されるほか、労働関係の紛争解決のための「労働審判制度」の創設や、離婚訴訟は地方裁判所ではなく家庭裁判所で扱うなど、司法を分かりやすく身近にすること、迅速化することを大きな目的にしています。

 ―司法改革の大きな柱が「裁判員制度」ということですが、制度の導入により何が変わりますか。また、海外で行なわれている陪審員制度とはどんな違いがあるのでしょう。
 これまでの裁判は、スピード面以外にもずいぶん批判がありますね。密室での取り調べ、閉鎖的・官僚的、裁判官は世間知らず…。弁護士会や市民運動などからの「司法の民主化」への要請が背景にあります。そこで、一般常識を裁判に取り入れよう、市民感覚を生かそう、というのが「裁判員制度」です。裁判員制度では、裁判官と裁判員が評議・判決を行ないますが、陪審員制度は裁判官が参加せず、一般から選ばれた陪審員だけで判決を行なう制度です。

 ―裁判員はどのような事件に参加するのですか。
 主に刑事事件の殺人、強盗致死、誘拐などの重大事件です。これまでの日本の刑事裁判では99.9%が有罪となり、無罪を主張しても耳を傾けてもらえにくいということがありました。また量刑も過去の相場に基づいて決められることも多かった。つまり裁判のマンネリですね。市民が参加することで、先入観なしに事件を判断できる、被告人や証人の話を市民の経験を踏まえて議論できるということが期待されています。

 ―しかし、日本世論調査会が6月に行なった調査では、「務めたいと思わない・あまり務めたいと思わない」が75%を占めていますが。
 そうですね。その理由として「重要な判断をする自信がない」「仕事に影響が出る」「逆恨みにあう恐れがある」などがあげられています。これはやはりPR不足ではないでしょうか。逆恨みにあうといった問題ですが、オウム真理教事件のように過激な団体の裁判には、裁判員が参加しないことになっているのです。
 昨年度、龍大の学生にアンケート調査をしたのですが、あらかじめ裁判員制度について解説し、法務省のPRビデオを見たからということもあったのでしょうが、約半数の学生が「してもよい・ぜひしたい」と答えており、一般に比べて積極的な意見が多かったですね。

 ―賛否両論がありますが、先生は賛成派でしょうか。
 どちらかというと賛成です。やってみて不十分な点は手直ししながらという方向でいけばいいのではないでしょうか。ある学生がアンケートに「国民が裁判に参加することによって、法への関心が高まり、身近に感じることができると思う。今は無関心な人が多く、政治家などが憲法違反をしても国民は何も言わないし、何も言えないが、裁判員制度をきっかけに声をあげやすくなると思う」と書いていますが、その通りだと思います。
 ただし、両刃の剣のような面もあるのは確か。スピードアップによって、弁護人や検察官が十分な準備ができないこともあります。また、純粋な正義感に基づいて市民が判決すると、量刑が重くなることも考えられますね。

 ―死刑判決が増えるかも…ということですか。
 今は1人殺してもほとんど死刑にはならないけれど、裁判員が被害者の家族の悲しみに直接触れることで、心情的に死刑が妥当という判断になるかも知れません。しかし、プロの裁判官であっても死刑判決をした後は眠れなかったり、食事ができなかったりすることがあり、かなりの精神的負担になります。一般の人にとって、死刑判決を下すことのプレッシャーは大きいでしょう。

 ―有罪か無罪か判断するなんて、とても自信がありません。研修のようなものがあるのでしょうか。
 法律用語や裁判の流れについて初歩的なガイダンスはあると思いますが、特に専門的な知識は必要ありません。自分の感覚や判断を大切にしたらよいと思います。ただし、評議の秘密や個人のプライバシーに関する守秘義務は課せられます。思想的に偏っている人など、不公正な判断をする恐れがある人は、あらかじめ面接で除外されますし、司法関係者≠熄怺Oされます。実は私も裁判員になることはできません。

 ―選ばれても辞退できるのでしょうか。また、謝礼はあるのですか。
 70歳以上の人や学生、過去5年以内に裁判員を務めた人、それに病気やケガなどのやむを得ない理由がある人は辞退することができます。謝礼については詳しく決まっていませんが、現在、証人が1日に8千円、鑑定人・通訳人は7千6百円が支給されているので、さらに重要な役割の裁判員は、これより多く支払われる可能性はあるかもしれません。

 ―裁判員になる最大のメリットをお聞かせください。
 司法を身近に感じられるとともに、自分の責任を果たしたと実感できる貴重な経験だと思います。国民が裁判に参加する制度はアメリカなど多くの国で実施していますが、制度を経験する前は消極的だった人でも、経験してみると「やってよかった」と答える人がほとんどだそうです。もし、候補者に当たったら、ぜひチャレンジしてほしいですね。


裁判員制度とは
 1つの裁判に対し、6人の裁判員と3人の裁判官(裁判員4人・裁判官1人の場合もあり)で裁判を行ない、有罪・無罪や刑の内容などを全員で評議し、判決を下す制度。裁判員は、選挙人名簿をもとに毎年「くじ」で裁判所ごとに名簿を作成し、さらに事件ごとに「くじ」で候補者が選出される。候補者は裁判所に出向き、除外(不適格事由・辞退等)されなかった人の中から裁判員が選ばれる。


データ:龍谷大学学生アンケート (2005年10月27日実施)
「人権論B」を受講した学生247名(主に1年生) 

Q1 あなたは裁判員として裁判に参加したいですか。

Q2 Q1で「してもよい」又は「是非したい」と応えた理由を次の中から1つ選んでください。

Q3. Q1で「絶対にしたくない」又は「できればしたくない」と答えた理由を次の中から1つ選んでください。

データ:日本世論調査会調査結果(2006年6月3日・4日実施)

Q 裁判員は、選挙人名簿をもとに抽選の形で決める予定です。仮に今、あなたが、裁判員に選ばれた場合、どう思いますか。

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