龍谷 2007 No.63

TOPICS/トピックス
龍谷大学第2次アフガニスタン学術調査隊報告
さらにバーミヤーン西方で新たな仏教石窟群を発見!
大規模な仏教文化圏が存在か?

バーミヤーン遺跡

クシャ・ゴラ石窟
クシャ・ゴラ石窟(Qusha Ghola)
ヤッカウラングの東南約10kmに位置する。イスラム時代の望楼(ボルジ)が残る岩壁に6つの石窟がうがたれ、石窟同士をつなぐ通路や仏像を安置していたと思われる仏龕(ぶつがん)が設けられており、典型的な仏教石窟の構造をなしている。
 龍谷大学第2次アフガニスタン学術調査隊は2006年10月、バーミヤーン遺跡から西の渓谷で8世紀頃のものと見られる仏教石窟群を発見した。いったい仏教文化圏はどこまで西に広がっていたのか。これまで仏教文化圏の西端がバーミヤーンとされていただけに、仏教伝播がさらに西方へ広がっていた可能性が高まリ、今後の調査が期待される。

 入澤崇・経営学部教授(仏教文化学)を代表とする調査隊は昨年9月25日、バーミヤーンから約100
km西方に離れたヤッカウラング近郊に入った。今回の調査隊の目的は二つ。一つは、2005年度の第1次調査で新発見した遺跡の3次元測量を行なうこと。そしてもう一つは、バーミヤーン以西に広がりを見せる仏教西漸のルートを探ること。
 調査隊は、第1次調査で確認した「ケリガン仏教寺院跡」「サレ・スム石窟」「チル・ボルジ城塞跡」の3次元測量を行なったあと、バンデ・アミール川に沿ってヤッカウラング周辺における仏教伝播経路の調査を開始した。
 今回「クシャ・ゴラ石窟(Qusha Ghola)」(写真上)と「ムシュタック石窟(Mushtaq)」(写真左上)と呼ばれる二つの仏教遺跡を見つけたのは、ヤッカウラングから東南約10
kmにあるダライ・アリ渓谷にたどり着いた時だ。これまでこのあたりは「石窟が存在する」とイギリスの調査報告書に記されていたが、19世紀のイギリス調査隊を最後に本格的な調査は行なわれていなかった場所だった。
 まさに手探り状態での新発見に、入澤教授は「ヤッカウラングは『大きな牧草地』という意味を持つことから、このあたりは豊かな文化が栄えた交易地で、商人たちが旅の無事を祈った所ではなかったか」と語る。
 今回の発見は、これまで詳しく解明されていなかったバーミヤーン以西における大規模仏教文化圏の存在やアジアから西に広がる仏教伝播ルートの解明に大きな手がかりとなる。また、西遊記のモデルとして有名な玄奘三蔵が7世紀にバーミヤーン王国へ向かったとされる道は、定説よりさらに西であった可能性も出てきた。
 さらに調査隊は、バンデ・アミール川流域やサレポール州周辺にも点在する遺跡を確認しており、新たな仏教伝播ルートの解明に向け、次年度に詳細な調査を実施していくことにしている。

バーミヤーン   ムシュタック石窟
ムシュタック石窟(Mushtaq)
クシャ・ゴラ石窟から東南1kmに位置し、7つの石窟からなる。石窟は数年前までは住居として使用されていた形跡があり、天井や壁面はすすで覆われているが、中央部にある石窟では仏龕がほぼ原形をとどめており、燈明を置いていたと思われる龕も確認された。

地図
龍谷大学アフガニスタン
学術調査隊とは・・・


2003年にバーミヤーン西方で本学卒業生で写真家の中淳志氏が「ケリガン」と呼ばれる仏寺跡を発見したのを機にプロジェクトがスタート。2005年には国立アフガニスタン考古学研究所とユネスコと協定を結び、5年にわたって仏教西漸を探る。

「チル・ボルジ城塞跡」の3次元測量図
世界で初めて作られた「チル・ボルジ城塞跡」の3次元測量図。頂上付近に仏教寺院跡を見ることができる。
世界初!
「チル・ボルジ城塞跡」の
3次元測量図を作製

 今まで詳しい実態が分からなかった「ケリガン仏教寺院跡」「サレ・スム石窟」「チル・ボルジ城塞跡」をこのほど第2次調査隊が測量。昨年12月23日に開催した報告会「仏教西漸〜アフガニスタンの歴史・考古・仏教」でその3次元測量図が初めて公開された。
 今回公表されたのは、世界遺産・バーミヤーン遺跡から西へ約130kmに位置するアフガニスタン最大級の「チル・ボルジ城塞跡」(12〜13世紀)。同遺跡は標高約2400m、地上高約140mの絶壁上にそびえ立つ城塞。泥れんがでつくられたタワーが約40基並ぶため、「40のタワー」を意味する「チル・ボルジ」と呼ばれている。
 今回の三次元測量図の作成には、現地に大がかりな機材を持ち運べないハンデから、デジタル写真を用いた解析写真測量手法を採用。現地で撮影した約300枚を使用して、調査隊代表の入澤教授による監修のもと、文化財調査を手掛ける株式会社文化財サービスが製作を担当した。
 入澤教授は「チル・ボルジは大規模な仏教文化圏が西に広がっていた可能性を示す貴重な遺跡。3次元化測量図は城砦跡の全体像がよく分かり、その規模が明らかになった。今回の測量の成果は、アフガニスタン各地にある遺跡との比較研究につながる」と今後の研究資料としての活用に期待を寄せている。


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