龍谷 2007 No.63
古都・湖都歩く 後世に京のうちわ文化を伝えたい 「新深草うちわ」

 江戸時代、深草の地を中心に作られていた「深草うちわ」。当時は、実用性のある京みやげとして、全国的に人気が高く、季節の草花や水鳥など「花鳥風月」を描いたものが売られていた。絵柄は、草花のほか、月やすすき、蛍など、清楚で上品、シンプルなものが多く、風流を感じさせる。
 深草という地名は、平安の昔から竹薮が多い場所だったため、その名が付けられたという。やぶ蚊も多く、その蚊を追い払い、両親に涼しい風を送るため、地元・瑞光寺の元政げんせい上人が「深草うちわ」を発案したのが起源と伝えられている。その元政上人と歌道の仲間で交流があった住井家の先祖が、地元の竹を使って製造したのが「元政形深草団扇」といわれる。記録によると、寛文頃(1660年頃)のことだそうだ。
 「深草うちわ」の名称は明治末期に一旦途絶えたものの、うちわそのものは深草うちわの元祖といわれる「小丸屋」で今も作られている。祇園や先斗町など、京の花街で夏に配られる舞妓さんや芸妓さんの名前が書かれた「京丸うちわ」が、その流れをくむ代表的なもの。現在も京都の五花街のうちわを作り続けている。
 「骨を作る後継者の問題は深刻ですが、あきらめずに育ってくれるよう、努力はしています」と話すのは10代目の住井啓子さん。「小丸屋」は寛永頃(1624年頃)に創業。伝統の技法を受け継ぎながら400年近く続いている老舗うちわ店である。
「深草うちわ」

小丸屋 住井10代目の住井啓子さん
小丸屋 住井10代目の住井啓子さん
龍大の宗政教授との出会いから共同で
「新深草うちわ」を考案
 
 さて、その「深草うちわ」は、一般的な京うちわのように柄の部分に骨用の竹を差す「差し柄」とは違い、竹の節目を中心に上の部分を細かく割いてうちわの骨としている。つまり柄と骨の竹が分離していないため、丈夫なのが特徴。裏面は無地で、自分の名前や俳句、歌が自由に書き込めるようになっているのも面白い。
 そして、龍大の名誉教授だった故・宗政五十緒むねまさいさお氏が、住井家と協力して考案・製作したうちわが「新深草うちわ」である。
 「私どもは、うちわの他に『都をどり』の小道具も担当していました。その打ち合わせで1999年に都をどりの構成・時代考証をされていた先生が、店に訪ねて来てくださったんです。そこで偶然、先生が深草うちわを探しておられることが分かり、『それはうちで作っていたんですよ』という話になりまして…本当に不思議なご縁ですよね。それがうちわの復元のきっかけになりました」

 


鮮やかな色彩感覚で
現代に甦った幻の深草うちわ

 「新深草うちわ」の絵柄は、京都の名所図絵の挿絵に日本画の技法を使い、手描きで彩色を施したもの。コンピューターグラフィックで鮮やかに彩色したものもある。「都名所図絵」は当時の京都ガイドブックのようなもので、天明7(1787)年発行の「拾遺都名所図絵」の中には「深草の里 団扇店」という題の絵もあり、往時の伏見街道の賑わいや深草のうちわ店の繁盛の様子が見てとれる。
 現在、「深草うちわ」の地紙は琵琶湖産のヨシ紙を使用。「ヨシは水の浄化作用がある植物ですが『魔を祓う』という言い伝えもあるんです。それで、このうちわで扇いで『魔よけ』という意味でも使っていただきたいという思いで使い始めました」という住井さん。
 骨になる竹は徳島産真竹の3年ものを使用。一節の竹を7〜8等分に分け、節を境にうちわの上部の骨の部分を細かく割き、約42本の骨を作る。骨は丸亀(香川県)の専属の職人に依頼して送ってもらっている。
 送られてきた骨に地紙を貼る「貼り」や「ぜ」、「かまきり」「うちきり」「スジ入れ」などの作業は店の二階で行なっている。一本一本、すべての工程が手作り。丁寧で細かい手仕事に驚かされる。貼りの作業は毎年2月に始めるが、貼る際には糊の溶き加減が重要で、その日の気温や天候にも左右されるそうだ。
 「新深草うちわ」は現在、157景。そのうち京都は114景を数える。祇園祭や大文字の送り火などの祭事や、醍醐の花見、東福寺の紅葉など季節の風物詩が詳細に描かれ、鮮やかに彩色されている。実用品でありながら風情があり、贈り物や飾り物としても好評を得ている。「『深草うちわ』は飾り物にされる方が多いのですが、私どもとしては実際に使用してほしいと思っています。紙が破れた場合は張り替えもできますし、骨の部分の竹は腐らないので一生もちます。昔は自分で扇ぐより、大切な方に涼を送るために扇いであげるというのがうちわの役割でしたので、普段の生活の中で使っていただきたいですね」と話す住井さん。現代にも通じる鮮やかさで甦った「深草うちわ」。ぜひ、手にとってその想いを感じてみたいものだ。
彩色都名所図会の新深草うちわ
彩色都名所図会の新深草うちわ

骨のささくれている部分を取り除く
骨のささくれている部分を取り除く

骨の間隔をそろえ、少し濃い目ののりで貼る
骨の間隔をそろえ、少し濃い目ののりで貼る

「撫ぜ」は地紙と骨をなじませる力加減が難しい
「撫ぜ」は地紙と骨をなじませる力加減が難しい

撫ぜ終わったら乾かないうちに干す
撫ぜ終わったら乾かないうちに干す

小丸屋 住井
京都市左京区岡崎円勝寺町91-54
電  話:075-771-2229
営業時間:午前10時〜午後6時
定休日:日曜・祝日
交通●京都市営地下鉄東山駅から
   徒歩約5分
うちわ(名所図絵シリーズ)2500円〜、
夏扇子2500円〜
HP:http://www.komaruya.jp
 
小丸屋 住井
落ち着いた佇まいの表構え






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