龍谷 2007 No.64

シリーズ龍谷の至宝6 源氏畫

源氏畫


 今年は、『源氏物語』が記録の上で確認されたときからちょうど千年を迎えるが、『源氏物語』が絵画化されるのは作品成立直後からと言われる。現存最古のものとされる徳川黎明会及び五島美術館所蔵の『源氏物語絵巻』は、十二世紀に成立したものである。以後、源氏絵は扇面や色紙・屏風・カルタ等にも描かれるようになり、香合・広蓋の蒔絵や着物の紋様などにも意匠化され大衆化されるようになってくる。本学大宮図書館が所蔵する『源氏物語絵巻』は、土佐派の絵師が描いたものと狩野派の絵師が描いたものとの二種があるが、この度紹介する絵巻は後者のもので、江戸時代後期に描かれた巻子本三巻である。筆者は鍛冶橋(かじばし)狩野家七世にあたる狩野探信(名を守道という)で、父探牧の教えを受け、幕府奥絵師も務めた絵師である。一巻に五図、全十五図が描かれている。
 『源氏物語』の桐壺(きりつぼ)・帚木(ははきぎ)・空蝉(うつせみ)・夕顔(ゆうがお)・若紫(わかむらさき)・末摘花(すえつむはな)・紅葉賀(もみじのが)・花宴(はなのえん)・葵(あおい)・賢木(さかき)・花散里(はなちるさと)・須磨(すま)・明石(あかし)・澪標(みおつくし)・蓬生(よもぎう)の各巻の場面を描いている。すなわち『源氏物語』の前半部の各巻を描いたものである。すやり霞に金箔を散らし、余白をうまく使っている関係で画面が広く感じられ、開放感がある。邸内の描写は、建築物の屋根や天井を取り除いた、いわゆる「吹抜屋台(ふきぬけやた
い)」の技法が用いられており、色彩は濃彩で、繊細な描線で描かれているため、典雅で優艶な色調をたたえた画面となっている。画中の人物は伝統的な「引目鈎鼻(ひきめかぎばな)」と呼ぶ描画とは異なり、眼も描き、人物の動きもあって、物語の各場面が浮かんでくるようである。
 上部に拡大した図は加持のため北山に籠もった十七才の源氏の君が、下山にあたり迎えにきた公達と小宴をもよおし、山の僧都と別れを惜しむ場面である。桜の花びらを一枚一枚描いているなど描写も細かく、背景に遠山が描かれているところは『十帖源氏』の挿絵に似ている。

(文・大取一馬 文学部教授)


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