龍谷 2008 No.66

Ryukoku VIEW

里山学・地域共生学オープン・リサーチ・センター「里山」を基軸にした地域との共生、5年の歩み-第1期プロジェクトの終了にあたって-

龍谷大学の里山学・地域共生学オープン・リサーチ・センター(通称:里山ORC)は、
2004年に文部科学省私立大学学術研究高度化推進事業として採択され、
「里山をめぐる人間と自然の共生に関する総合研究-生態系保全と環境教育のための里山モデルの構築-」をめざして開設。
2008年は、その最終年となる。
そこで、宮浦富保センター長(理工学部環境ソリューション工学科教授)に、
5年間の活動と成果、第2期プロジェクトへの意気込みなどについて語ってもらった。


日本人の原風景「里山」から
人間社会の在り方が見えてくる


 「里山」は、人間が長年にわたって様々に関わり、自然と共生することによって、人間同士の共存を可能にしてきた場所であった。ところが、昭和30年代のエネルギー革命(薪炭から石油・ガス・電気への転換)と農業革命(圃場(ほじょう)整備・機械化・化学肥料の大量投入)によって、里山は放置され、それとともに都市開発のターゲットにされてきた。
  生物の多様性を維持し、人々の暮らしを支え、文化の形成にも密接に関係していたと考えられる里山が、日本から失われようとしている。
  龍谷大学の里山ORCは、この里山について研究調査するプロジェクトである。本学の里山研究の始まりは、1994年にさかのぼる。滋賀県の瀬田丘陵に瀬田学舎を開設した後、大学は隣接する38haの森を購入した。これが「龍谷の森」であり、里山研究の中心的フィールド。宮浦センター長は、「龍谷の森を、あるがままの状態で教育・研究していこうという大学の英断は、なかなかのものだと評価しています」と目を細める。
  では、なぜ里山に注目したのか。「里山の歴史を見ていくと、人間社会の在り方が見えてくるからです」。
  その昔、里山近隣の村では、里山を共同利用する「入会(いりあい)」という制度ができていた。これは、限られた資源を一定の人数で持続させながらどのように使っていくかという仕組みである。子々孫々まで、安定した暮らしを送るための知恵である。
  「入会は限られた小さな地域のシステムですが、そこには、地球全体にも拡張できるような考え方があるように思います」。

 


日本人の原風景「里山」から人間社会の在り方が見えてくる


文理融合の総合的活動をとおして
広がる交流ネットワーク


 里山ORCの大きな特長は、自然科学分野と人文・社会科学分野の研究者が協力し合い、里山での生物多様性の維持機構、里山と人間の関わりの歴史、現代社会での里山の位置づけなどについて、総合的な調査研究を実施しているところである。
  そして、調査研究でわかったことは、すぐにシンポジウムなどで公開する。このオープンな姿勢が受け入れられ、地域の歴史、民俗研究者などとの交流も深まっている。
  その代表的な成果が、大学と地域有志のコラボレーションによって毎年開催される展覧会である。昨年は江戸時代からの里山の変化をわかりやすく展示した「大・南大萱展」を、今年は昔の民具や道具を紹介する「暮らしの中の造形展」を開催。「地元の方々も多数訪れていただき好評でした」。
  このような里山研究のネットワークは、瀬田地区だけにとどまらない。里山ORC開設当初から、里山を持っている4大学(龍谷大学・金沢大学・京都女子大学・九州大学)が交流。里山ORCのプロジェクトにも、各校から主要メンバーが参画している。また、これらの大学の活動に刺激され、中部大学、長野大学、近畿大学も新たに加わり、大学間における里山研究のネットワークも徐々に拡大している。


文理融合の総合的活動をとおして広がる交流ネットワーク

里山研究の先駆者として第2期プロジェクトをめざす

里山研究の先駆者として
第2期プロジェクトをめざす


 今年、里山ORCは最終年を迎える。その間、里山ORCが得た成果は数多い。例えば、里山という存在を自然科学、社会科学など幅広い視点から研究できた。里山の価値について考察を深めることができた。龍谷の森を中心に里山の自然環境、生物の問題を掘り起こすことができた等々。
  この活動を継続し、発展させていくために、宮浦センター長は今、文部科学省に向けて、第2期プロジェクト申請の準備中である。「第2期では、里山を現代社会のなかでどんな風に活かせるか。地域社会の大切な存在として具体的に提示していきたい」と、現代社会が直面する環境問題へのソリューションを見出す決意と覚悟を固めている。
  「龍谷の森」から周辺地域、日本各地、さらには国際的なところまで里山研究の活動は広がりつつある。環境省も国家プロジェクトとして動き始めた。
  その先駆的な役割を果たしてきた里山ORC。「今後も地域に開かれた存在となり、貢献していきたい。そして私たちの研究が、里山学・地域共生学のモデルとなれば」、宮浦センター長は先を見据え、言葉に力を込める。
 自然環境も人々の暮らしも時代とともに変わっていく。そんななかで、見直される里山。もしかしたら、里山の自然の営みと調和する暮らしにこそ、人間が地に足をつけて生きていくための座標軸があるのかもしれない。


里山研究の先駆者として第2期プロジェクトをめざす

 


環境問題を創造的に解決する人材を育てる
-理工学部環境ソリューション工学科

 私たちの身のまわりにある環境問題を、創造的に解決できる人材を育成することを目的とした学科。「環境工学」と「生態学」の領域を融合し、調査・研究を踏まえた上で、考え方の筋道や、具体的な問題解決ための知識、技術を学びます。大学に隣接する里山など、生態系の観察や実習に適したロケーションをフルに活用したフィールドワークを積極的に取り入れた授業が大きな特色。里山ORCの活動とも密接にかかわっています。

村 ゆかり
里山学・地域共生学オープン・リサーチ・センター
センター長
宮浦 富保(みやうら  とみやす)
理工学部環境ソリューション工学科教授



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