ウェブサイトから世界をつなぐ
将来は世界各国で
黒澤アーカイブの共有を
様々な資料の集約拠点として当センターが進めるアーカイブ化の事業は、黒澤デジタルアーカイブ以前から、着実に成果を上げてきた試みでもある。寫字台文庫といった古典籍、長尾文庫などの社会科学関連の貴重資料、大谷文庫をはじめとする大谷探検隊の将来品など、龍谷大学が有する世界的な文化遺産についてもデジタルアーカイブ化がすすみ、これまで積極的にウェブサイトで一般公開してきた。現在は資料の科学分析へと進んでおり、重要文化財の李柏文書の分析で、研究は一段落を迎えるという。
「科学分析では、高解像度で古典籍を撮影し、紙の材質を判定する事が主体。これまでに楮、ガンピ、苧麻といった様々な繊維が当時使われていた事が判明しています。分析が進めば、これらの文化財をさらに、百年後、二百年後へと保存していくためのヒントが見つかるかもしれない。修復する際にもそういった情報は役立ちますから、文化財修復技術者や、京都国立博物館と共同で研究を進めています」。
当センターの事業は、世界との連携でさらに広がりを見せている。大英図書館からスタートしたIDP(国際敦煌プロジェクト)では、龍谷大学が日本の拠点として参画。イギリス、フランス、中国、ロシア、ドイツなど6カ国が共同して、各国が所有する古文書や遺物をそれぞれ同じ条件でデータベース化。情報共有を図り、ウェブサイトでの公開を始めている。
「IDPのウェブサイトでは、探したい資料のキーワードに打ち込めば、6カ国全ての西域資料の情報が一斉に検索に引っかかり、閲覧できるようになっています。西域資料自体は貴重な国の財産なので一か所に集めることはできませんが、データなら集めることができる。情報の共有化で、世界各地に散逸していた古文書の断片と断片が一致し、一枚につながるといったことも実際に起こっています。8月末の時点で日本は1万7千点、ロシアは1万4千点、イギリスはもっと進んでいて10万点以上のアーカイブ化へと発展しています」。
岡田センター長は将来、黒澤デジタルアーカイブも日本語だけでなく、英語・中国語を含む多言語対応でのデジタルアーカイブをめざしたいとする。
「黒澤プロダクションとも『やるからには最後までやる』という事で意見が一致しています。日本だけでなく、世界でも広く公開していきたい」。
かつて映画解説者の淀川長治氏が、黒澤作品についてこう語っていた。
「ヒューマニズム。どの場合でも人間をよく描いてること。人間を描きたいから、ただの映画じゃなくて、そこに人間がいる。それを描いている」。
圧倒的な表現力で、徹底的に人間を描いた黒澤作品。その人間活劇は、日本のみならず、世界中を虜にした。これからも時代を超えて愛されていくであろう作品に、さらに黒澤デジタルアーカイブが加われば、様々な人々にとって大きな財産になるのではないか。今後も、その動向に注目していきたい。
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